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著作権法条文解説

著作権法第112(差止請求権)

1 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。」

本条は、著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権による保護を実効性のあるものにするために、これらの権利に対する救済措置として、「差止請求権」(侵害停止請求権又は侵害予防請求権)又はこれら(侵害の停止又は予防)に必要な措置を請求する権利を定めたものです。ここで、「侵害停止請求権」とは、「(権利を)侵害する者」に対する「侵害の停止を請求する権利」を、「侵害予防請求権」とは、「(権利を)侵害するおそれがある者」に対する「侵害の予防を請求する権利」を意味します(1項参照)。著作権等の侵害行為に対する対抗手段(民事上の救済措置)としては、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)が考えられますが、これは、過去の侵害行為に対する救済措置です。これに対し、本条による差止請求権は、現在及び将来における侵害行為から権利者を救済するための措置です。なお、差止請求権の対象となる「侵害」行為には、法113条所定の「侵害とみなされる行為」を含みます。

▶ 侵害停止請求権又は侵害予防請求権(1)の意義と解釈

侵害停止請求権は、著作権等を「侵害する者」に対し、その「侵害の停止」を請求できる権利です。侵害行為が発生した時に直ちに発生し、当該侵害行為が止んだ時点で消滅します。すなわち、「現に侵害者の行為によって著作権が侵害されている」事実を要し、既に侵害行為が終了している場合には、もはや請求できなくなります。もっとも、現に侵害の事実があれば足り、侵害者の善意・悪意、故意・過失の有無はいずれも問いません。侵害行為者が善意・無過失であっても請求できます。
一方、侵害予防請求権は、著作権等を「侵害するおそれがある者」に対し、その「侵害の予防」を請求できる権利です。侵害行為が未だ存在していないが、過去における侵害行為の反復の度合い、侵害者の現在の態度、侵害の準備段階の程度などの諸要素から総合的に判断して、「近い将来において侵害行為が行われる可能性が客観的に高い」と認められる場合に、その予防を求めることを内容とする権利です。いわば、侵害行為を将来に向かって停止させる権利といえます。侵害のおそれが客観的に認められれば足り、侵害者の善意・悪意、故意・過失の有無はいずれも問いません。侵害行為者が善意・無過失であっても請求できます。

必要措置請求権(2)の意義と解釈

著作権者等は、差止請求権(侵害停止請求権又は侵害予防請求権)を行使するに際し、「侵害の停止又は予防に必要な措置」をあわせて請求することができます(2)。ここで「侵害の停止又は予防に必要な措置」とは、「侵害行為を組成した物」や「侵害行為によって作成された物」、「専ら侵害行為に供された機械・器具」といった物の「廃棄」その他の措置をいいます。
「侵害行為を組成した物」とは、ある物の利用行為が著作権等の侵害を構成する場合の当該物をいい、例えば、無断で頒布された映画フィルム、無断で展示されたイラスト、無断で作成され輸入された海賊版などが該当します。
「侵害行為によって作成された物」とは、著作権等を侵害することによって作成された著作物等の複製物をいいます。例えば、無断で作成された小説の複製物、実演家・レコード製作者に無断で作成された音楽CDの増製物などが該当します。
「専ら侵害行為に供された機械・器具」とは、その使用が、主として、著作権等を侵害する物の作成又は著作権等を侵害する手段としての使用に供された機械類・器具類をいい、例えば、無断複製を行うために常時使用されていた型(金型、型紙、版木等)や印刷機械、無断演奏に継続的に使用されていたカラオケ機器などがこれに該当します。
「侵害の停止又は予防に必要な措置」としては、以上のような物の「廃棄」の他に、例えば、担保の提供や機械・器具の使用禁止などが考えられます。具体的にいかなる「措置」が必要となるかは、侵害の態様や程度等の諸事情が総合的に勘案されたうえで裁判所がケースバイケースで判断することになります。
なお、2項に基づく請求は、差止請求(1項)と同時にしなければならない(廃棄等の請求のみを単独で請求することはできない)とするのが通説です(条文上「前項の規定による請求をするに際し」となっている)

▶ 請求権者

差止請求権(第2項の請求権を含む。)を行使することができる者は、原則として、現に著作権等が侵害されているか、又は侵害されるおそれがある当該著作権等の著作権者等自身です(1項・2)
共同著作物の著作者人格権・著作権侵害の場合、共有に係る著作権侵害の場合、共有に係る著作隣接権侵害の場合には、各権利者が、他の者の同意を得ないで、各自単独で差止請求をすることができます(1171項・2)
なお、「無名著作物」又は「変名著作物」の侵害の場合には、著作者又は著作権者が実名を明らかにすることなく自己の権利の保全を容易にするため、当該著作物の発行者が、当該著作者又は著作権者のために、自己の名をもって、差止請求権を行使することができます(1181項本文)。ただし、著作者の変名がその者のものとして周知のものである場合、及び実名の登録(751項)があつた場合は、この限りではありません(同項但書)。