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著作権法条文
著作権法第114条(損害の額の推定等):
本規定に関しては、重要な改正が続いており、その改正の経緯(流れ)を把握しておくことが、最新の改正(令和5年法改正)を理解する上で欠かせませんので、まず、「R5年改正前の条文」について解説した後に、「令和5年法改正」の趣旨その他について解説します。条文が長く、複雑で、一般の方にはわかりづらいと思いますが、R5年改正の前と後で何が変わって、何が変わっていないのかに注目して読んでいただけたらと思います。
《R5年改正前の条文》
「1 著作権者、出版権者又は著作隣接権者(以下この項において「著作権者等」という。)が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によって作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行ったときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
2 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。」
▽ R5年改正前114条の解説
▶ 法114条の立法趣旨
故意又は過失によって著作権、出版権又は著作隣接権(以下、これらをまとめて「著作権等」といいます。)が侵害された場合には、その侵害した者に対して、民法709条によって損害賠償を請求することができます。ただ、その際、とりわけ著作権等の知的(無体)財産権の分野では、被害者(権利者)が侵害に対する損害額を立証する(損害額の立証は、訴える側すなわち権利者サイドで行うのが原則です。)ことが容易でない場面が多く、そのため、被害者(権利者)の保護が実質的に弱くなることがあります。そこで、著作権法では、法114条を設けて、挙証責任の転換を含め、権利者サイドの立証責任を軽減させること等により権利者保護を充実させることにしています。
なお、不法行為ではない、すなわち故意又は過失によらない侵害行為(善意無過失による侵害行為)によって侵害者が利益を受けているような場合には、侵害者には、その利益の存する限度において、これ(不当な利得)を権利者に返還する義務があります(民法703条)。
▶
R5年改正前114条1項について
第1項は、平成15年の法改正によって追加された条項です。
第2項に規定するように、著作権等が侵害された場合、「侵害者がその侵害行為により受けている利益額」を権利者が受けた損害額であると推定する旨の規定は、以前からありました。ところが、侵害者が受けている利益が少ない場合や、侵害者が受けている利益額を立証することが困難な場合には当該規定は使い勝手が悪いものとなります。そこで、平成15年法改正によって第1項が追加されました。
この規定は、典型的には、[A] 権利者が正規品の販売を行っている場合に、侵害者がその侵害行為(海賊行為)によって作成された物(海賊版)の譲渡を行った場面を想定しています。
すなわち、本規定によって、権利者が請求可能な損害額は、
「著作権者等が受けた損害の額」
=「その譲渡した物の数量(海賊版の販売数)」×「著作権者等がその侵害行為(海賊行為)がなければ販売することができた物(正規品)の単位数量当たりの利益の額」
という計算式で求められます。
一方、本規定は、音楽や映像の違法ネット配信も想定した規定となっています。
すなわち、[B] 権利者が正規のコンテンツをネットで配信している場合に、侵害者がその侵害行為を組成する公衆送信(違法ネット配信)を行ったときは、権利者が請求可能な損害額は、
「著作権者等が受けた損害の額」
=「その公衆送信が公衆によって受信されることにより、つまりダウンロードにより作成された著作物等の複製物(これを「受信複製物」といいます。)の数量」×「著作権者等がその侵害行為(違法ネット配信)がなければ販売(配信)することができた受信複製物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額」
という計算式で求められます。
上記[A]及び[B]のいずれのケースにおいても、次の2点に注意が必要です:
① 上記「著作権者等が受けた損害の額」は、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えないこと。
第1項は、権利者自らその侵害品と同数の物を販売することができたであろうということが前提となっていると解されるため、権利者においてそもそも侵害品と同等の物やその代替物を自ら販売していない場合には、本項の適用はないものと解されます。例えば、ある作家が自己の小説(書籍)を出版社とライセンス契約を結んで販売している場合、その作家が当該書籍を自ら販売することはしておらず、また、自ら販売する能力も乏しい場合にまで本項による賠償額の請求を認めるのは、逸失利益の回復という損害賠償制度本来の趣旨からすると行き過ぎであると考えられます。
② 譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を、上記「著作権者等が受けた損害の額」から控除すること。
「海賊版の販売がなければ同じ数量(の正規品)が売れたはずだ」と、常に言えるとは限りません。そこで、代替品の有無、市場の特性、海賊版と正規品との価格差等により海賊版の数量ほど正規品は売れなかったとの事情がある場合には、そのことを侵害者サイドで立証すれば、当該事情に相当する数量に応じた価額分だけ本来的な請求額から減額できることを定めています。
★以上の2点がR5法改正で大きく変わりました(以下参照)。
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R5年改正前114条2項について
第2項は、「侵害者がその侵害行為により受けている利益額」を権利者が受けた損害額であると「推定」する規定です。例えば、海賊版DVDが販売された場合、その実際に販売された数量に、海賊版業者が得た単位当たりの利益、つまり、当該海賊版DVD1枚当たりの利益額を掛け合わせることにより、権利者が受けた損害額を算定することになります。もっとも、侵害者が侵害行為によって受けている「利益」には、侵害行為によって財産が積極的に増加した場合のみならず、財産の減少を免れたという意味の消極的な利益も含まれると解されます。なお、本項においては、侵害者の得た利益を即権利者の受けた損害額と推定していることから、権利者において侵害者が侵害行為により得ている利益と対比されうる同種同質の利益を受けていることが前提となっていると解されます。したがって、第1項の場合と同様に、権利者自ら侵害品と同種の物又はその代替物を販売していない場合には、本項の適用はないものと解されます。
第2項は、「推定」規定であるため、侵害者サイドで利益がないことの立証に成功すれば、「推定」は覆ることになります。
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R5年改正前114条3項及び4項について
著作権者等は、侵害者に対し、その著作権又は著作隣接権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する額」を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができます(3項)。第3項は、第4項とともに、いわゆる「使用料相当額」を最低賠償請求額とするもので、その算定においては、侵害者が利益を受けているか否かは問いませんし、権利者サイドで侵害された著作物や実演等を実際に商業的に利用している必要もありません。
なお、本項に関しては、平成12年の法改正により、それまで「通常受けるべき金銭の額に相当する額」としていたところから「通常」の文言が削除されました。この趣旨は、既存の一般的な使用料の相場に拘束されることなく、当事者間の具体的な事情を参酌した適正妥当な損害額の認定を可能にすることにあると言われています。したがって、「受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに当たっては、侵害行為の対象となった著作物の性質や内容、その創作的・経済的価値、取引の実情、侵害行為の性質や態様、当事者の関係等、当事者間の個別具体的な諸事情を総合的に参酌して客観的に妥当と認められる額を算定するのが相当であると解されます。
※平成26年法改正において、出版権者は、複製権等保有者の承諾を得た場合には、他人に対し、出版権の目的である著作物の複製又は公衆送信を許諾することができることとした(80条3項参照)ことに伴い、法114条3項に出版権について加えるとともに、同項の規定を受けた同条4項についても出版権を加えることとしていました。
《令和5年法改正後の法114条の条文》
「1 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、侵害者がその侵害の行為によつて作成された物(第1号において「侵害作成物」という。)を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。同号において「侵害組成公衆送信」という。)を行つたときは、次の各号に掲げる額の合計額を、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。
<ⅰ(1号)> 譲渡等数量(侵害者が譲渡した侵害作成物及び侵害者が行つた侵害組成公衆送信を公衆が受信して作成した著作物又は実演等の複製物(以下この号において「侵害受信複製物」という。)の数量をいう。次号において同じ。)のうち販売等相応数量(当該著作権者等が当該侵害作成物又は当該侵害受信複製物を販売するとした場合にその販売のために必要な行為を行う能力に応じた数量をいう。同号において同じ。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額
<ⅱ(2号)> 譲渡等数量のうち販売等相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額
2 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
4 著作権者又は著作隣接権者は、前項の規定によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し損害の賠償を請求する場合において、その著作権又は著作隣接権が著作権等管理事業法第2条第1項に規定する管理委託契約に基づき著作権等管理事業者が管理するものであるときは、当該著作権等管理事業者が定める同法第13条第1項に規定する使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定により算出したその著作権又は著作隣接権に係る著作物等の使用料の額(当該額の算出方法が複数あるときは、当該複数の算出方法によりそれぞれ算出した額のうち最も高い額)をもつて、前項に規定する金銭の額とすることができる。
5 裁判所は、第1項第2号及び第3項に規定する著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、著作権者等が、自己の著作権、出版権又は著作隣接権の侵害があつたことを前提として当該著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者との間でこれらの権利の行使の対価について合意をするとしたならば、当該著作権者等が得ることとなるその対価を考慮することができる。
6 第3項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
▶ 令和5年法改正の趣旨
著作権法は、従来より、著作権等が侵害された際に著作権者等が請求できる損害額について、民法709条の特則規定として、法114条に賠償額の算定規定を設け、著作権者等の損害額の立証の負担を軽減する措置を採ってきました。
ところが、近年、海賊版サイトによる被害が深刻になっており、特にマンガに関する海賊版被害については、深刻な状況が続いています。かかる海賊版被害に対する損害賠償請求については、侵害者が権利者の販売等能力を大幅に超えて利益を得ている例が多いといった指摘や、使用料相当額として認定される賠償額が低くなり、侵害による高額の利益の大部分が侵害者に残存しているといった指摘など、いわゆる「侵害し得」が生じているという指摘があります。
そこで、深刻化する著作権侵害に対し、権利者の被害回復の観点から実効的な対策を取れるよう、令和5年の法改正によって、以下の点について、損害賠償額の算定方法の見直しがを行われました(令和6年1月1日から施行):
①著作権者等の販売等能力を超える等の部分についてライセンス料相当額を損害額に加えることができるようにする(侵害者の売上げ等の数量が、権利者の販売等の能力を超える場合等であっても、ライセンス機会喪失による逸失利益の損害額の認定を可能とする)(114条1項2号関係)。
②ライセンス料相当額の算定に当たり、著作権侵害を前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する(損害額として認定されるライセンス料相当額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提に交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する)(114条5項)
▽ 侵害者の譲渡等数量に基づく算定に係るライセンス料相当額の認定
▶ 改正の趣旨
従前、法114条第1項は、侵害者により販売された数量(譲渡等数量)に正規品の本来の1個当たりの利益額(著作権者等の単位数量当たりの利益額)を乗じた額を損害額とし、ただし、著作権者等の販売等を行う能力に応じた数量を超える数量及び著作権者等が販売することができないとする事情に相当する数量がある場合には、これらの数量に応じた額は損害額から控除されるものとしていました。そして、その際、当該控除された部分について、法114条3項が規定するライセンス料相当額分(「著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」)の賠償が認められるか否かは、条文上明らかではなく、裁判実務上も判然としませんでした。そのため、権利者への十分な賠償、侵害の抑止、訴訟当事者の予見可能性等の観点から立法的解決の必要性が大きくなりました。
そこで、権利者が自ら実施すると同時に権利をライセンスして利益を得ることができるという知的財産の性質に鑑み、このような場合に当該ライセンス料相当額を請求できることを明記するための改正が行われました。具体的には、新114条1項1号において、法114条1項の算定方法により算出した損害額(販売数量減少による逸失利益)を規定し、新114条1項2号において、侵害者の譲渡等数量のうち権利者の販売等能力を超える数量又は販売することができない数量に応じたライセンス料相当額(ライセンス機会喪失による逸失利益)を規定し、これらの合計額を新114条1項により算定される損害額としました。
なお、法114条2項は、侵害者の利益の額を損害額と推定するとしていますが、裁判実務では、第1項の場合と同様に、権利者の販売等の能力を超える部分等については第2項の推定が覆滅される扱いとなっていました。そのため、今後は、第2項による推定覆滅部分についても、新114条1項と同様に、当該部分に応じたライセンス料相当額が損害額として認められると解釈されるものと考えられます。
▶ 条文の文言解釈
〇 新114条1項1号において販売数量減少による逸失利益を規定し、同2号においてライセンス機会喪失による逸失利益を規定し、これらの合計額を同項により算定される損害額として規定することとしています。同項の適用場面は、改正前と同様、侵害者の譲渡行為又は侵害行為を組成する公衆送信があったときであることを柱書において明記しています。
〇 1号は、改正前において損害の額とすることができると規定されている販売数量の減少に伴う逸失利益を定めるもので、その規定の内容自体は、改正前の114条1項と同様です。
※「販売その他の行為を行う能力に応じた額」(改正前)→「販売のために必要な行為を行う能力に応じた数量」(改正後):新設2号のライセンス機会喪失による逸失利益は、ライセンスという
「販売」以外の方法により得られたはずの利益を内容としているところ、「販売その他の行為」と規定すると、ライセンスすることを含みうるため、2号の規定内容と重複するものとして解釈される懸念があることから、販売等能力は、あくまで、販売そのものに向けられた能力であることを明確にする観点から、規定上の文言を「販売のために必要な行為を行う能力」に改めました(改正前と意味内容は実質的に変わらない)。ここで、「販売のために必要な行為を行う能力」とは、侵害された著作物等を「販売する能力」のほか、その著作物等を「生産する能力」等、販売行為に至る種々の能力を意味すると解さされます(例えば、人員や流通経路の確保など販売体制を確立する能力や、生産設備を立ち上げる能力など)。
※「著作権者等が販売することができないとする事情」とは、①代替品の存在、②販売市場の相違、③侵害者の営業努力、④侵害品固有の顧客吸引力など、著作権者等の譲渡等数量に影響を与える事情のうち、「販売のために必要な行為を行う能力」以外のすべての事情を意味すると解されます。
〇 2号は、ライセンス機会喪失による逸失利益として、販売等相応数量を超える数量や特定数量に応じたライセンス料相当額を損害の額として定めるものです。本号において「著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合を除く。」と定めたのは、ライセンス機会を喪失したといえない場合にまで、ライセンス料相当額を損害額と擬制することは適切ではないためです。例えば、正規品にはない付加要素が大きい場合に、元の著作物等それ自体では当該付加要素は得られず、当該付加要素があってはじめて得られる利益があるような場合が想定できます。この場合、「はじめて得られる利益(当該付加要素による利益部分)」の発生には、元の著作物等は貢献しておらず、元々ライセンスの機会はなかったと考えられます。このような場合、当該付加要素による利益部分についてまでライセンス料相当額を損害額と擬制することは、元の著作物等が貢献していない部分(元々ライセンスの機会がなかった部分)についてまで損害の填補を認めることになり適切でないと考えられます。
※「著作権者等が、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使をし得たと認められない場合」の具体例:
例えば、侵害者が元の著作物を無断で利用して書籍を作成・販売したが、当該書籍には侵害者による加筆や写真・図版の付加がされている、又は元の著作物が書籍に占める割合は一部にとどまるなどの事情により、書籍の売上げの全部が元の著作物の貢献によるものとはいえない場合等が想定されます。この例で、かり書籍の売上げに対する元の著作物の貢献が100%であれば、ライセンス料相当額は売上げの全額にライセンス料率(印税率等)を乗じて算定されますが、上記のような事情がある場合は、書籍の売上げのうち侵害者による加筆や写真・図版の付加が貢献したと評価される部分(例えば売上げの 30%)は「著作権者等が、その著作物又は実演等の利用の許諾をし得たと認められない場合」として控除され、ライセンス料相当額は、残余の売上げにライセンス料率を乗じて算定されることになります。
▽ ライセンス料相当額の認定に当たっての考慮要素の明確化
▶ 改正の趣旨
法114条3項は、著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(ライセンス料相当額)を損害賠償額として請求できる旨が規定されていまする。
著作権侵害があった場合、ライセンス料は、権利者にとって利用を許諾するかどうかの判断機会が失われていることや、侵害者はライセンス契約上の様々な制約なく著作物を利用していること等から、通常の契約によるライセンス料より高額になることが想定されます。3項の文言上も、制定当初「通常受けるべき金銭の額」と規定してところ、平成12年の法改正の際、一般的な相場にとらわれることなく訴訟当事者間の具体的事情を考慮した妥当なライセンス料相当額を認定できることを明確にするため、「通常受けるべき金銭の額」の「通常」の文言が削除されたという経緯があります(上述参照)。しかし、実際の裁判例においては、この改正によって訴訟当事者間の具体的事情が十分に斟酌されたライセンス料相当額が認定されるようになったか否か判然としない状況にあるとの指摘がありました。
そこで、新114条に第5項を設け、法114条1項2号及び第3項に規定する著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の認定に当たって、著作権者等が、著作権等の侵害があったことを前提として侵害者との間でこれらの権利の行使の対価について合意をするとしたならば、当該著作権者等が得ることとなる対価を考慮することができることを明記しました。このように、侵害を前提とした具体的な事情が考慮できることを条文上明確にすることで、現状より法114条3項において損害額として認定されるライセンス料相当額が増額され得るという効果が期待できると考えられます。
▶ 条文の文言解釈
〇 本項では、「第1項第2号及び第3項に規定する著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては」と規定しており、新114条1項2号と同条3項のいずれの規定によるライセンス料相当額の認定に当たっても、本項が適用されることになります。