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著作権法条文解説
著作権法第115条(名誉回復等の措置):
「著作者又は実演家は、故意又は過失によりその著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者に対し、損害の賠償に代えて、又は損害の賠償とともに、著作者又は実演家であることを確保し、又は訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができる。」
本条は、著作者又は実演家に、彼らの人格的利益を保護しようとする著作者人格権又は実演家人格権の性質上、その侵害に対して、金銭による損害賠償のみでは填補されえない、毀損ないし減じられた人格的価値に対する社会的・客観的評価を回復すること等を可能にするための適当な措置を請求する権利を認めたものです。
本条においては、その文言上、故意又は過失によりその著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者に対し著作者又は実演家は、次の3つの措置を請求できるものと解されます。
① 「著作者又は実演家であることを確保」するための適当な措置
主として氏名表示権(19条1項、90条の2・1項)が侵害された場合に採られうる措置です。
真の著作者(原告)は、公園に設置されている銅像にその制作者であると表示されている侵害者(被告)に対し、その銅像の所有者(市)宛に、当該銅像の著作者が自分(原告)であることを通知させることを請求することができ、このような通知は、原告が当該銅像の著作者であることを確保することにつながるものであり、法115条にいう「適当な措置」に当たる、とした裁判例があります(「ジョン万次郎銅像事件」)。
② 「訂正」するための適当な措置
「著作者人格権(同一性保持権)の侵害行為により改変された著作物の原作品を侵害前の原状に回復することは『訂正』に当たり,その必要性及び実現可能性があれば,著作者は,『訂正』するために適当な措置として,当該原状回復を請求することができるものと解するのが相当である。」と判示する裁判例があります(「観音像仏頭部すげ替え事件」)。
なお、次の「その他著作者の名誉若しくは声望を回復」するために適当な措置とは別類型である「『訂正』するために適当な措置」を請求するに当たっては、著作者の名誉又は声望が毀損されたことを要件とするものではないと解されます。
③ 「その他著作者の名誉若しくは声望を回復」するための適当な措置
主として同一性保持権(20条1項、90条の3・1項)が侵害された場合や法113条11項に該当する場合に採られうる措置です。裁判では、新聞紙等への謝罪広告の掲載の適否がしばしば争われます。
なお、ここにいう「名誉声望」は、「著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉声望を指すものであって、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まれない」と解されます(「パロディ・モンタージュ写真事件」)