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著作権法条文解説

著作権法第117(共同著作物等の権利侵害)

1 共同著作物の各著作者又は各著作権者は、他の著作者又は他の著作権者の同意を得ないで、第112条の規定による請求又はその著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償の請求若しくは自己の持分に応じた不当利得の返還の請求をすることができる。
2 前項の規定は、共有に係る著作権又は著作隣接権の侵害について準用する。」

共同著作物の各著作者は、他の著作者の同意を得ないで各人がそれぞれ、著作者人格権の侵害に対し差止請求権(112条)を行使することができます(1項)。侵害行為に対して著作者全員の共同意思に基づかなければその差止が請求できないとすることは権利の実効性の面で著作者に不利であると考えられるからです。
一般に、共有財産権の侵害については、各共有者は単独で共有財産権全体に対する妨害の排除を請求することができるものとされていて、共有著作権や共有著作隣接権の侵害の場合における差止請求権についても、各共有権者による単独の行使が認められるところです(2項)。共同著作物の著作者人格権の侵害の場合にも、各著作者の人格的利益がその1つの共同著作物に混然一体となって融合していることから、その侵害に対する差止請求権の行使については、共有財産権の場合と異なる取扱いをする必要性はありません。ただ、法64条に引きずられて反対に解されるおそれもあるため、本条で確認的に規定したものです。
共同著作物の著作者人格権が侵害された場合において各著作者が単独でそれぞれの損賠賠償を請求できるかについては、著作者人格権にはその性質上「持分」を考えることができないため、本条では規定されていません。もっとも、規定されていないことは、各著作者が自ら蒙った精神的損害を立証して、かかる損害の賠償を請求することを排除する趣旨ではないと考えます。したがって、各著作者が自らが蒙った精神的損害を立証できれば、かかる賠償請求を違法・不当とするべきではないと思います。
本条では、著作者人格権の侵害を理由とする名誉回復等の措置請求(115条)についても明記されていません。この場合、通説は、どのような名誉回復等の措置を請求するかは著作者全員の合意を必要とする、と解しているようです。ただ、例えば、共同著作者の一人の氏名だけが意図的にないし明らかな悪意をもって削除されていたり、表示されていないような場合には、必ずしも他の著作者の同意を得る必要はないと思います。事案に応じて、裁判所の合理的判断が期待されるところです。
共同著作物の各著作権者又は共有に係る著作権の各著作権者は、他の著作権者の同意を得ないで各人がそれぞれ、差止請求(112条)又はその著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償の請求(民法709条参照)若しくは自己の持分に応じた不当利得の返還の請求(民法703条参照)をすることができます(1項・2)。共有に係る著作隣接権についても同様です(2項)。