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著作権法条文解説

著作権法第14(著作者の推定)

「著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。」

(a) 著作物の原作品に、その実名が著作者名として通常の方法により表示されている者、又は(b) 著作物の公衆への提供提示の際に、その周知の変名が著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定されます。
上述の(a)又は(b)に該当する者は、当該著作物を実際に創作したことを自ら立証しなくても、相手方からの反証がない限り、その著作物の著作者として扱われることになります。「著作者」の認否をめぐって具体的紛争が生じた場合、創作者自身、自分が真の著作者である旨を立証することはなかなか困難な場合があることから、著作者の利益のために立証責任の転換を図ったのが、本条です。なお、「推定」の効果としては、立証責任の軽減の他に、著作権侵害訴訟等民事上の争訟において当事者適格の推定を受けること、著作権侵害罪等において、刑事上、告訴権者(1231項参照)として推定されることといった効果があります。

▶著作者の推定を受けるための要件

著作者の推定を受けるには、次の3つの要件を備えた表示をしている必要があります。

① 著作者名が、著作物の「原作品に」表示されていること、又は著作物の「公衆への提供若しくは提示の際に」表示されていること。
著作者名(実名又は周知の変名)の表示は、著作物の原作品に付しても、その複製物に付してもどちらでも良いのですが、後者の場合には、複製物の公衆への提供(販売やレンタルなど)の際か、公衆への提示(上演や演奏、放送など)の際に付していなければなりません。

② 著作者名として、その「実名」又はその「周知の変名」が表示されていること。
「実名」とは、著作者の「氏名又は名称」をいいます。「周知の変名」というのは、「雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるものとして周知のもの」をいいます。例えば、「横山大観」(雅号)、「司馬遼太郎」(筆名)、「正岡子規」(俳号)、「坂東玉三郎」(芸名)、「JETRO(略称)など、「実名」(氏名又は名称)以外の呼称で、著作者本人を表示するために用いられるもののうち、それが著作者本人を示すものとして一般人によく知られたものをいいます。

③ 著作者名が「通常の方法により」表示されていること。
「通常の方法により」とは、一般的な社会慣行ないし取引慣行にしたがって、という程度の意味ですが、例えば、絵画における署名や落款、書籍の奥付、CDジャケットやレーベルへの記載、上演会での場内放送、演奏会のプログラムへの記載、放送でのテロップなどによる方法が通常これに該当すると思われます。

▶実名登録(75)との関係

「無名」(一切実名を明かさない)又は「変名」(周知かどうかを問わない)で公表された著作物の著作者は、その著作物について「実名の登録」という文化庁への登録制度を利用することができます(751)。そして、この実名登録をすると、そこに登録されている者は、「当該登録に係る著作物の著作者と推定」されます(753)。実名登録の制度を利用することで、第14条に定める「著作者の推定を受けるための要件」(上述したの要件)を満たさなくても、第14条の効果と同様の効果が得られることになります。特に、上記の要件②を満たさず、第14条の推定を受けられない者(無名表示の者)、又は推定を受けられるか疑義がある者(変名表示だが、その周知性に疑義のある者)で、著作者の推定という効果を得たい者には、実名登録の制度は有効な制度です。