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著作権法条文解説
著作権法第2条(定義)第1項第1号:
「(1) この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(ⅰ) 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」
第2条は、著作権法において重要な概念となる用語や頻繁に使用される用語の意義をあらかじめ明確に定めることによって、解釈上の疑義を極力避けることを狙った規定です。
「著作物」について定義する本規定は、著作権法で最も重要な概念の1つである「著作物」とは何かについて、従来の判例等の考え方を踏まえて、現行法において新たに設けられたものです。旧著作権法では、その第1条で「文書演述図画建築彫刻模型写真演奏歌唱其ノ他文芸学術若ハ美術(音楽ヲ含ム以下之ニ同ジ)ノ範囲ニ属スル著作物」と規定するのみで、「著作物」自体の定義規定を設けていませんでした。
なお、具体的にどのようなものが著作物であるのか(著作物の具体例)については、第10条第1項で、9つのカテゴリーに属する著作物が「例示」されています。
▶「著作物」であるための要件
本規定で、「著作物」とは、「①思想又は感情を
②創作的に ③表現したものであつて、④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。
本規定の文言(要件)のすべてを満たすものが、著作権法上の「著作物」として保護を受けることになります。具体的には、以下の4つの要件です。
①「思想又は感情を」表現したものであること。
例えば、「富士山の高さは、3776メートルである」といった「単なる事実やデータを」端的に表現したものは、人間の思想や感情を伴わない(又は「創作的に」(次記参照)表現していない)ものと考えられるため、「著作物」とはなりません。
なお、「思想又は感情」となっていますが、「思想」と「感情」を特に厳格に区別する必要性も実益もないと考えられます。
②「創作的に」表現したものであること。
例えば、商品名をただ並べただけのカタログや、50音順に配列しただけの電話帳などは、「創作的に」表現したものとは言えず、「著作物」とはなりません。
ここで「創作的に」表現したものとは、「思想又は感情」の外部的表現に著作者の個性が何らかの形で現われていれば足りるものと解されます。高い芸術性や学術性(文化的な価値)があるとか、厳密な意味で独創性が発揮されているとか、他に類例がないといったことを要求しているわけではありません。
これまでの裁判例から少し具体例を挙げながら解説すると、
▷「時効の管理」といった書籍のタイトル、「里見学園八剣伝」といったウェブサイトの名称、「初動負荷」といった造語等、数語程度で表現されるもの、
▷「マナー知らず大学教授,マナー本海賊版作り販売」(ニュースの見出し)/「会議が変わる。会社が変わる。」(キャッチコピー)/「ある日突然,英語が口から飛び出した!」(キャッチフレーズ)など、ごく短く,平凡でありふれた表現、
▷「JR中央線・総武線で東京から、特別快速24分、地下鉄東西線(総武線に乗入れ)で11分。」など、誰が表現しても同じような表現になるもの(異なった表現になり得ないもの)、
以上はいずれも、一般的に、「著作物」としての創作性を否定されます。
なお、「創作」とは「模倣」でないことを意味する、とした裁判例があります。この判例の意味するところは、他人の作品を模倣盗用したものには何ら創作性は認められないため「著作物」に該当しない、ということでしょう。もっとも、結果的にたまたま類似又は全く同じ創作物ができた場合でも、それぞれの創作過程に模倣盗用の事実がなければ、それぞれ別個の著作物となりえます。
③「表現したもの」であること。
この表現性の要件は、裏を返せば、著作権法は、「(具体的な)表現」を離れた、あるいは「表現したもの」という域に至らない思想や感情そのもの若しくはアイディア自体、又は思想や感情を表現するための手法や着想といったものを保護するものではない、という点につながります。判例においても、この点は、しつこいくらいに繰り返し述べられていることころです。また、WIPO著作権条約第2条では、著作権による保護は、「表現されたもの」に及び、アイディアや手順、操作方法、数学的概念といった抽象的なものには及ばないことが明記されています。このことからも、「著作物」=「表現物」であり、「著作権法」=「表現保護法」であるという図式が国際的にも認知されていることがわかります。
著作物は、何らかの「表現形式」(文字・記号・図形・音・色・声・動作など)を用いて外部に具体的に表現されたものでなければなりません。アイディアや理論、科学的な発見を例で言うと、これらが文章や図表等一定の「表現形式」を用いてある程度まとまった形(例えば論文)で表現されている限りにおいて、それは「言語の著作物」「図形の著作物」等として保護されることはありえます。しかし、当該アイディアや理論がいかに斬新で独創的なものであっても、あるいは、当該科学的な発見がいかに多大な時間と労力をかけてなされたものであっても、当該表現を離れて、抽象的に、そのアイディアや理論、科学的な発見が保護されることはありません。
なお、外部への表現手段(方法)については、映画の著作物を除いて、必ずしも有形的な物(例えば、原稿用紙、カンバス、テープ、CD、パソコンやスマホの記録媒体など)に「固定」する必要はありません(2条3項、ベルヌ条約2条(2)参照)。原稿なしでする講演や即興演奏のように「無形的に表現する」ものであっても「著作物」となりえます。
④「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属するものであること。
したがって、例えば、純粋な実用品(それ自体)や工業製品などは「著作物」となりえません。
ここで「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」とは、全体を一体的に捉えて、知的・文化的精神活動の所産全般を指す、と解するのが一般的です。ある創作物(表現物)が「文芸」「学術」「美術」「音楽」のいずれのカテゴリーに属するかといったことを探索する必要性はほとんどありません(もっとも、第10条第1項の9つのカテゴリーのいずれの著作物に該当するかを探索することには一定の意義があります)。
▶「著作物」であるためには、「倫理性」「道徳性」は必要か
著作権法上の「著作物」であるためには、上述した4つの要件を満たすものであれば足ります。「倫理性」や「道徳性」といったもの(要件)は特に求められていません。ある作品が社会的にどのように利用されるか、つまり、作品の社会的な利用目的も一般的に著作物性の認定に影響を与えることはないと考えられます。しがたって、不道徳ないし違法な内容を有する作品又は不道徳ないし違法な目的で利用されうる作品であっても、道義上ないし刑法上はともかくとして、上述した著作物性の要件を満たせば「著作物」に該当し、著作権法上の保護を受けることになります。