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著作権法条文解説

著作権法第2(定義)3項:

「3 この法律にいう『映画の著作物』には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。」

「映画の著作物」(1017)とは、思想又は感情が映像の連続によって表現される著作物で、フィルムや磁気テープ、ROM等の「物に固定」されているものをいいます。映画の著作物の物への固定性の要件は、本条(23)がその根拠となっています。
劇場用映画やアニメ、テレビドラマが典型的な「映画の著作物」です。ビデオゲームやゲームソフト(の連続映像部分)も、一般的には、「映画の著作物」に該当するものと解されます。生放送のテレビドラマ(あまりないでしょうが…)は、フィルムやテープに固定されていないため、「映画の著作物」ではありません。

▽「映画の著作物」の要件

いくつかの判例を参考にしながら(特に「中古ソフト(家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト)販売事件」参照)、著作法上の「映画の著作物」と認められるためにはどのような要件をクリアしなければならないかについて解説します。
「映画の著作物」と認められるためには、次の3つの要件を満たす必要があり、これらの要件を満たしているものであれば、本来的な意味における映画(劇場用映画)以外のものも「映画の著作物」として保護されるものと解されます。
① 映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること。
② 物に固定されていること。
③ 「著作物」(思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの)であること。
③の要件に関しては、「映画の著作物」といえども、その一般的な著作物性の認定において、他の著作物と本質的に異なって解釈する必要はないと解されますので、以下では、①及び②の要件について解説します。

▶「映画の著作物」の要件について

23項にいう「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されている」とは、多数の静止画像を映写幕(スクリーン)、ブラウン管、液晶画面その他の物(ディスプレイ)に急速に連続して順次投影して、眼の残像現象を利用して、動きのある連続的な影像として見せるという視覚的効果、又はそのような影像に音声をシンクロナイズさせるという視聴覚的効果をもって表現されていることをいうと解されます。
「映画」の一般的な意味としては、例えば、「広辞苑」では「長いフィルム上に連続して撮影した多数の静止画を、映写機で急速に(1秒間15こま以上、普通は24こま)順次投影し、眼の残像現象を利用して動きのある画像として見せるもの」としているように、本来的意味における映画は、映画フィルムに固定された多数の影像をスクリーン上に非常に短い間隔で引き続いて連続的に投影する方法により、人間の視覚における残像を利用して、影像が切れ目なく変化しているように見せかけることによって、影像が連続的な動きをもって見える効果を生じさせるものです。従って、劇場用映画以外のものでも、影像を非常に短い間隔で連続的にディスプレイ上に投影する方法により以上のような効果を生じさせるものであれば、「映画の効果に類似する視覚的又は視覚的効果を生じさせる方法で表現されている」ものということができると解されます。
ゲームソフト(の影像部分)についてみると、「ゲームソフト」と一言でいってもさまざまな種類のものがあるため、‘すべてのゲームソフトは「映画の著作物」に該当する’と言い切ることはできません。裁判例の中には、「映画においては、一定以上の速度で静止画像が順次投影されることにより、動きのある画像として受け取られるところ、本件ゲームソフトにおいては、ある静止画像が、次の静止画像が現れるまで静止した状態で見え、動きのある画像として受け取られる部分はほぼ皆無であって、映画とは本質的な違いがある」とした上で、「本件ゲームソフトの影像は、多数の静止画像の組合せによって表現されているにとどまり、動きのある連続影像として表現されている部分は認められないから、映画の著作物の要件のうち、『映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること』の要件を充足しない」としたものがあります(「ゲームソフト『猟奇の檻』vs.『真説猟奇の檻』事件」)。一方、ゲームソフトの中でも、例えば、全体が連続的な動画画像からなり、CGを駆使するなどして動画の影像もリアルな連続的な動きをもったものであり、影像にシンクロナイズされた効果音や背景音楽とも相まって臨場感を高めるなどの工夫がされていて、影像をディスプレイ上に極めて短い間隔で連続的に映し出している方法で表現されているものについては、上記①の要件を満たしていると解して差し支えないと思います。

「映画の著作物」の要件について

著作権法は、「映画の著作物」についてのみ「物に固定されている」ことを要件としています(23項参照)。
ベルヌ条約には、著作物一般又は特定のカテゴリーに属する著作物について、「これらの著作物が何らかの物に固定されていない限り(unless they have been fixed in some material form)保護されないとすることを定めることは、同盟国の立法に属する問題とする。」とした規定があります(ベルヌ条約2(2)参照)。従って、ベルヌ条約上は、「映画の著作物」について固定性を保護の条件とはせず、「物に固定されていない映画の著作物」を保護することを立法的に採用することも可能ということになります。また、現行著作権法(昭和45年)の制定に先立って行われた著作権制度審議会における議論では、主にテレビの生放送番組の取扱いを念頭に置いて映画の著作物の固定性の要件について検討していたという経緯があります。
以上のような事情を考え併せると、「著作権法上の映画の著作物の要件としての固定性は、これを映画の著作物としての性質に関わるものと見るのは相当でなく、むしろ、単に放送用映画の生放送番組の取扱いとの関係で、これを映画の著作物に含ましめないための要件として設けられたものであると考えるべきである。そうすると、右固定性の要件は、生成と同時に消滅していく連続影像を映画の著作物から排除するために機能するものにすぎず、その存在、帰属等が明らかとなる形で何らかの媒体に固定されているものであれば、右固定性の要件を充足すると解するのが相当である。」といえそうです(「中古ソフト(家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト)販売事件」)。であるならば、映画の著作物が固定されるべき「物」とは、映画フィルムに限定されるわけではなく、また、その固定の方法も映画フィルム上に可視的な写真として固定されている必要はなく、ROMやフロッピーディスク、ハードディスク等に電気的信号で取り出せる形で収納されているものも含まれると解することができそうです。
ゲームソフトについてみると、ゲームソフトは、通常、CD-ROM中に収録されたプログラムに基づいて抽出された影像についてのデータが、ディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることによって、全体として連続した影像となって表現されるものであり、そのデータはいずれもCD-ROM中に記憶されているものですから、以上に述べたところの固定性の要件に欠けるところはないと解されます。なお、ゲームソフトは、各プレイヤーによるコントローラの具体的操作に応じて、画面上に表示される影像の内容や順序が異なるため、画面上に表示される具体的な影像の内容及び表示される順序が一定のものとして固定されているわけではありません。しかし、これらの影像及びそれに伴う音声の変化は、当該ゲームソフトのプログラムによってあらかじめ設定された範囲のものであることから、常に同一の影像及び音声が連続して現われないことをもって、物に固定されていないということはできないと解されます。劇場用映画のように、映画フィルムを再生すれば常に同一の連続影像が再現されるのでなければ、「物に固定されている」とはいえない、と解釈することは妥当ではありません。この点、「法23項は、… 表現が『物に固定』されることは、テレビの生放送番組のように放送と同時に消えて行く性格のものを映画の著作物として保護しないということで要件とされたのであるから、一定の内容の影像が常に一定の順序で再生される状態で固定されるというような特別の態様を要求するものでないことは明らかであ(る。)」と判示した裁判例があります(「中古ソフト(家庭用テレビゲーム機用ゲームソフト)販売事件」)。