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著作権法条文解説
著作権法第36条(試験問題としての複製等):
「1 公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 営利を目的として前項の複製又は公衆送信を行う者は、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない。」
▶本条の立法趣旨
本条は、秘密性の確保等の観点から、公表された著作物については、所定の要件のもとで、著作権者の許諾を得ることなく、試験又は検定の問題として一定の利用行為ができる旨を規定したものです。
「公表」(4条参照)された著作物については、原則として、自由に(著作権者の許諾を得ることなく)、入学試験など「人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度」において、当該試験又は検定の問題として、その公表著作物を「複製」し、又は一定範囲での「公衆送信」をすることができます(1項)。本規定は、ことの性質上、つまり、試験又は検定を公正に実施するために問題の内容(いかなる著作物を利用するか)の漏洩を防ぐ必要があることから(秘密性の確保)、その利用される著作物の著作権者から予め許諾を得ることが実際上困難であり、かつ、社会的な実情にも沿わないこと、さらに、そのような著作物の利用であれば一般に当該著作物の通常の(市場における)利用と衝突することにはならないと考えられるため、その限度で著作権者の許諾を不要としても不当ではないと考えられることから、設けられたものです。本規定による著作物の自由利用の典型的な例としては、例えば、高校や大学の入学試験にすでに公表されている文芸作品(小説や詩など)を複製して掲載する場合や、学校の期末テストですでに公表されている地図やグラフ等を複製して掲載するような場合が該当します。
●試験問題としての「複製」:入学試験などの人の学識・技能に関する試験・検定の問題として「複製」する場合です(翻訳も可)。
《自由利用の要件》
① すでに公表されている著作物であること
②
試験・検定の目的上必要な限度内であること(試験後にその問題を冊子当に印刷・配付することは対象外であると解させる)
③
「営利目的」の試験・検定の場合は著作権者に「補償金」を支払うこと(2項参照)
④ 「出所を明示する慣行があるとき」は著作物の出所の明示すること(48条1項3号参照)
●試験問題としての「公衆送信」:入学試験などの人の学識・技能に関する試験・検定の問題として「インターネットなどで送信」する場合です(翻訳も可)。
《自由利用の要件》
①
すでに公表されている著作物であること
②
試験・検定の目的上必要な限度内であること(試験後にその問題をウェブサイトなどに掲載することは対象外であると解される)
③
「営利目的」の試験・検定の場合は著作権者に「補償金」を支払うこと(2項参照)
④ その著作物の種類や用途、送信の形態などから判断して、著作権者の利益を不当に害しないこと(例えば、ヒアリング試験用のテープなど、各試験会場でそれぞれ購入することを想定して販売されているものを送信することや、誰でも解答者として参加できるような形で送信することなどは対象外であると解される)
⑤ 「出所を明示する慣行があるとき」は著作物の出所の明示すること(48条1項3号参照)
▶要件の解釈
「人の学識技能に関する試験又は検定」には、入学試験のほか、卒業試験や定期考査、公務員・看護師等の各種資格試験、一般企業の入社(採用)試験などが含まれます。
本条による自由利用の形態は、「複製」と「公衆送信」(ただし、「放送」と「有線放送」を除き、自動公衆送信の場合にあっては「送信可能化」を含む。)です。情報技術の進展によって、インターネットを使った試験や検定も行われている実態に考慮して、平成15年の改正によって「公衆送信」が追加されました。「公衆送信」(2条1項7号の2)には、「放送」・「有線放送」・「自動公衆送信(送信可能化を含む。以下同じ)」・「その他の公衆送信」がありますが、本規定によって自由利用が認められるのは、このうち、「放送」と「有線放送」を除いた部分、すなわち「自動公衆送信」と「その他の公衆送信」です。「放送」(2条1項8号)や「有線放送」(同9号の2)のように同時に公衆(不特定の者又は特定多数の者)に送信できる形態は除かれています。具体的な例を挙げますと、例えば、インターネットのホームページ上に試験問題をアップロードしておき、パスワードやIDを取得した学生からの個別のアクセスに応じて自動的に試験問題を送信する場合が「自動公衆送信」に、受験者からの電話でのリクエストに応じて教師がファックスや電子メールで試験問題を手動で送信する場合が「その他の公衆送信」にそれぞれ該当します。
本条の要件を満たすものであれば、著作物を「翻訳」して複製し又は公衆送信することもできます(47条の6・1項2号)。
いわゆる業者テスト(業者が受験料・検定料を徴収して行うテスト)において公表著作物を当該試験又は検定の問題として複製し又は公衆送信する場合、当該業者は、利用著作物の著作権者から許諾を得る必要はありません。ただし、このように「営利を目的として」当該試験又は検定の問題として複製し又は公衆送信を行う者は、著作権者に「通常の使用料の額に相当する額の補償金」を支払わなければなりません(2項)。著作権者との利益の均衡を図るための規定です。なお、民間企業が行う入社(採用)試験は、当該試験自体が「営利を目的として」いるとは言い難いため、これを行う者(その民間会社)が著作権者に「通常の使用料の額に相当する額の補償金」を支払う必要はないと解されます。
試験又は検定への自由利用(公衆送信)が認められない場合があります。すなわち、当該試験又は検定の問題として公衆送信することが、「当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」です(1項但書)。例えば、試験会場ごとに購入されることが予定されている市販の英語ヒアリング教材を1セットだけ購入しこれをインターネットで自動公衆送信する場合や、受験者に限定しないで不特定の者が利用できるような態様で公表著作物を含んだ試験問題を公衆送信(異時送信)する場合などが、これに該当するものと思われます。
本条は、公表著作物を試験又は検定の問題として複製し又は公衆送信しうることを許容するもので、既存の(すでに公表されている)「試験(検定)問題」自体を収集して「○○試験(検定)問題集」を自由に複製したり、公衆送信することを容認しているわけではありません。したがって、このような「試験(検定)問題集」を作成して利用したいと欲する者は、当該試験問題の作成者(当該試験問題に(編集)著作物性が認められる場合の(編集)著作権者)及びその試験問題で個別に利用されている著作物の著作権者からしかるべき利用行為の許諾を得ておく必要があります。