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著作権法条文解説

著作権の保護期間(存続期間)は、著作物の「創作の時」にはじまり、著作者の生存間プラスその死後70年を経過するまでの間存続するというのが原則です(51)。この点(保護期間の終期)については、いくつか例外があります。代表的なものは以下の通りです:
▶無名又は変名の著作物の保護期間(52)
▶団体名義の著作物の保護期間(53)
▶映画の著作物の保護期間(54)
▶保護期間の特例(58)
▶いわゆる「戦時加算」が適用される場合(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律第4条)

ここでは、「無名又は変名の著作物の保護期間(52)」「団体名義の著作物の保護期間(53)」「映画の著作物の保護期間(54)」について、解説します。

▶第52(無名又は変名の著作物の保護期間)の解説

52条は、次のように規定しています:

1 無名又は変名の著作物の著作権は、その著作物の公表後70年を経過するまでの間、存続する。ただし、その存続期間の満了前にその著作者の死後70年を経過していると認められる無名又は変名の著作物の著作権は、その著作者の死後70年を経過したと認められる時において、消滅したものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない。
() 変名の著作物における著作者の変名がその者のものとして周知のものであるとき。
() 前項の期間内に第75条第1項の実名の登録があつたとき。
() 著作者が前項の期間内にその実名又は周知の変名を著作者名として表示してその著作物を公表したとき。」

本条は、無名又は変名の著作物については著作者の死亡時点を客観的に把握することが困難であって、法51条の原則的保護期間(の終期)によることが妥当でないことから設けられた規定です。すなわち、無名又は変名の著作物については、原則として、その著作物の「公表時」を基準として、保護期間の終期が定められます(1項本文)。
もっとも、ある著作物が最近無名又は変名で公表され、その公表後70年を経過していない場合であっても、すでにその著作物の著作者の死後70年が経過したと認められるときには、その著作権は、当該著作者の死後70年の経過時点で消滅します(1項但書)。
2項各号のいずれかに該当するときは、「前項の規定は、適用しない」ものとされ、よって、2項各号に該当する場合には原則的保護期間(の終期)(512)が適用されることになります。

▶第53(団体名義の著作物の保護期間)の解説

53条は、次のように規定しています:

1 法人その他の団体が著作の名義を有する著作物の著作権は、その著作物の公表後70年(その著作物がその創作後70年以内に公表されなかつたときは、その創作後70年)を経過するまでの間、存続する。
2 前項の規定は、法人その他の団体が著作の名義を有する著作物の著作者である個人が同項の期間内にその実名又は周知の変名を著作者名として表示してその著作物を公表したときは、適用しない。
3 第15条第2項の規定により法人その他の団体が著作者である著作物の著作権の存続期間に関しては、第1項の著作物に該当する著作物以外の著作物についても、当該団体が著作の名義を有するものとみなして同項の規定を適用する。」

法人その他の団体が著作の名義を有する著作物の著作権の保護期間(の終期)については、著作者が自然人であるのに団体の著作名義をもって公表されたため、その著作者が誰であるかを一般大衆が知り得ない場合に、著作者の死亡時点を基準にその存続期間を定めることとすると、法的安定性を害するおそれがあります。一方、法人等の団体が著作者でもあるような場合(15条参照)には、原則的保護期間である70年の「死後」起算(512項)が不可能であるため(、また、法人等の解散時を起算点とすることも不適切と考えられるため)、そもそも、原則的な保護期間を適用することができません。そこで、法人その他の団体が著作の名義を有する著作物の著作権の保護期間の終期は、これを、原則として「公表時」から起算するものとしました(1項本文)。もっとも、かっこ書に規定するように、法人等の団体が著作名義を有する著作物であっても、それが創作後70年以内に公表されなかったときは、その保護期間は、その創作後70年で終了することになります。

「法人その他の団体が著作の名義を有する著作物」とは、法人著作(15条)において会社等が著作者となる著作物のみならず、個人が著作者であって、ただ著作名義が団体になっているような著作物も含むと解されます。
法人その他の団体が著作名義を有する著作物の「著作者である個人」(著作権法上の「著作者」の地位に立つ者のことで、法人著作において実際に著作物を創作した従業員はこれに該当しません。)が、1項の期間内にその実名又は周知の変名を著作者名として表示して当該著作物を公表したときは、上記の「公表後70年」は適用されなくなり(2項)、原則に立ち返って、「著作者の死後70年」が適用されることになります(512項)。
法人著作(152項)において会社等が著作者となるプログラムの著作物の存続期間については、公表時の著作名義にかかわらず(たとえ個人名義で公表されても)当該団体が著作名義を有するものとみなして、1項の規定が適用されます(3項)。

▶第54(映画の著作物の保護期間)の解説

54条は、次のように規定しています:

1 映画の著作物の著作権は、その著作物の公表後70年(その著作物がその創作後70年以内に公表されなかつたときは、その創作後70年)を経過するまでの間、存続する。
2 映画の著作物の著作権がその存続期間の満了により消滅したときは、当該映画の著作物の利用に関するその原著作物の著作権は、当該映画の著作物の著作権とともに消滅したものとする。
3 前二条の規定は、映画の著作物の著作権については、適用しない。」

映画の著作物に係る著作権の保護期間について、これを著作者(16条参照)の死亡時起算として計算することは、291項等の規定を考慮すると必ずしも適切なものにはならないという配慮から、その保護期間の終期の起算点を、原則として映画の著作物の「公表時」とすることとしました(1項本文)。
映画の著作物の著作権が存続期間の満了によって消滅したときは、当該映画の著作物の利用に関するその原著作物(例えば、映画化された小説や脚本など)の著作権は、その映画の著作物の著作権とともに消滅します(2項)。当該映画化された小説や脚本等の原著作物の著作権によって保護期間が満了した映画の著作物の利用が妨げられないようにするための手当てです。もっとも、映画の著作物と運命を共にするのは、小説や脚本等の著作権のうち「当該映画の著作物の利用に関する」範囲内に限られ、当該映画の利用以外の部分(例えば、小説の出版による利用など)に関しては、もとより消滅するものではありません。なお、映画の著作物の中で複製されている音楽や美術作品については、これらは当該映画に対する「原著作物」には当たりませんので、本条(2項)の適用はありません。
映画の著作物の中にも無名・変名の著作物や団体名義の著作物があるでしょうが、これらについては、52条及び53条の規定は適用されず、54条の規定によって一律にその存続期間が処理されます(3項)。