Kaneda Legal Service {top}

著作権法条文解説

著作権法「第二章 著作者の権利」中「第五節 著作者人格権の一身専属性等」に次の2つの規定が置かれています:

著作権法第59(著作者人格権の一身専属性)

「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」

著作権法第60(著作者が存しなくなつた後における人格的利益の保護)

「著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。」

▶第59条の解説

本条は、著作者人格権の一身専属性、すなわち、著作者人格権がその性質上一身に専属する権利であること及びその不可譲渡性を定めています。
著作者が生存している間は、例えば、売買契約によって著作者人格権を他人に売却(有償譲渡)することも、贈与契約で他人に(無償で)贈与することもできません。一方、著作者が死亡した場合でも、著作者人格権が相続によって移転することはありません。この点、著作財産権である「著作権」とは大いに異なりますので、注意してください。

▶第60条の解説

上述したように、著作者人格権は、著作者の死亡によってそれと同時に消滅し、相続の対象となることはありません。そのため、著作者の人格権(人格的利益の保護)はそこで完全にストップするのかという問題があります。この点、ベルヌ条約で、「著作者の死後」においてその人格権(人格的利益)を保護する国においては、「(そのような保護は)少なくともその(著作者の)財産的[経済的]権利(著作権のこと)が消滅するまでは存続する」ものとされています(ベルヌ条約6条の2(2)参照)。そこで、わが国では、「著作者の死後における人格的利益の保護」を担保するため、本条が設けられています。

ここで「著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為」とは、公表権(181)、氏名表示権(191)、同一性保持権(201)を侵害する行為のみならず、法113(侵害とみなす行為)中、「著作者人格権を侵害する行為とみなす」と規定されている行為(1項、8項、11項参照)を含むと解されます。
但書き中「行為の性質」とは、「著作者人格権の侵害となるべき行為」が主体的か、付随的か、また、その行為が積極的か、消極的かということを意味し、「行為の程度」とは、「著作者人格権の侵害となるべき行為」によって作成された侵害複製物の部数やその頒布領域、当該侵害行為の頻度等を意味すると解されます。「社会的事情の変動」とは、社会的価値観の変化や社会的制度の推移等(例えば、常用漢字の範囲の変化など)を意味しています。

さらに、本条の実効性を担保するため、著作者の死後におけるその人格的利益を保全できる者(例えば、著作者の遺族のうち一定の範囲の者)が、法116条で定められています。

以上のように、著作者人格権は著作者の死亡と同時に消滅する(59)のですが、第60条及び第116条の規定によって、その人格的利益の保護は、著作者が死亡した後も相当長期にわたって続くことになります。この点は、注意してください。
なお、著作者の死後においてその人格的利益を侵害する行為は「犯罪」であると捉えられており、第60条に違反した者には、刑事罰として、「500万円以下の罰金」が科せられます(120)