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著作権法条文解説

著作権法第64(共同著作物の著作者人格権の行使)

「1 共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ、行使することができない。
2 共同著作物の各著作者は、信義に反して前項の合意の成立を妨げることができない。
3 共同著作物の著作者は、そのうちからその著作者人格権を代表して行使する者を定めることができる。
4 前項の権利を代表して行使する者の代表権に加えられた制限は、善意の第三者に対抗することができない。」

本条は、共同著作物の著作者人格権の行使に関し、著作者人格権の特質や、共同著作者間の一体性・連帯性を確保する観点から、実態に即した取扱いを定めたものです。
共同著作物の著作者人格権は、原則として、著作者全員の合意によらなければ、行使することができません(1項)。共同著作物における著作者の(人格の)一体性を考慮した規定であるといわれています。ここで、著作者人格権の「行使」とは、著作者人格権の内容を積極的に実現すること、すなわち、自己の著作物の公表(181項参照)・氏名表示(191項参照)・同一性保持(201項参照)について他人に一定の許諾を与えること等を意味し、著作者人格権の侵害に対する差止請求権の行使(保存行為)等は含まれないと解されます(117条参照)。
共同著作者のうちすでに死亡した者がある場合には、生存している著作者の合意のみで著作者人格権を行使することが可能です。死亡した著作者の相続人の合意を得る必要はありません。著作者人格権は、著作者の一身に専属し、相続の対象にもなり得ないからです(59条)。もっとも、著作者の死後においても法によってその人格的利益が保護されているため(60条・116条参照)、生存共同著作者の合意に基づく著作者人格権の行使によっても、すでに死亡している共同著作者の人格的利益を害することはできません。
各共同著作者は、単なる嫌がらせのような信義に反する行為(倫理観念等に反する行為)によって、上記の権利行使の合意の成立を妨げることはできません(2項)。恣意的な共同著作者の不当な拒絶によって人格権の行使が妨げられる事態を防止するための規定です。信義に反して合意の成立を拒む者に対しては、訴訟を提起して、民事執行法177条の規定による合意判決を得て、それによって反対著作者の認諾があったものとみなすという取扱いで著作者人格権を行使することになります。
共同著作物の著作者は、著作者人格権の行使について「代表して行使する者」をあらかじめ各共有者間で定めることができます(3項)が、この代表権に制限が加えられている場合には、対内的には拘束力があっても、その制限を知らない善意の第三者(代表者が一定の行為につき権限を有すると信じて行動した第三者)には対抗することはできません(そのような制限があることを主張することはできません)(4項)。