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著作権法条文解説
著作権法第82条(著作物の修正増減):
「1 著作者は、次に掲げる場合には、正当な範囲内において、その著作物に修正又は増減を加えることができる。
(ⅰ) その著作物を第1号出版権者が改めて複製する場合
(ⅱ) その著作物について第2号出版権者が公衆送信を行う場合
2 第1号出版権者は、その出版権の目的である著作物を改めて複製しようとするときは、その都度、あらかじめ著作者にその旨を通知しなければならない。」
▶ 著作者の修正増減権(82条1項)の意義と解釈
著作者は、その著作物を紙媒体等による出版についての出版権者が改めて複製する場合や、インターネット送信による電子出版についての出版権者が公衆送信を行う場合には、正当な範囲内において、当該著作物に修正又は増減を加えることができます(82条1項)。本条は、著作者の人格的利益の保護の観点から、出版権が設定された著作物に関してその著作者に自己の著作物の修正増減を加える機会を与えるための規定です**。
**改正前82条1項では、著作者の人格的利益を担保する観点から、著作物を出版権者があらためて複製する場合に、著作物に修正又は増減を加える機会を著作者に認めていました。平成26年法改正において、電子書籍に対応した出版権を整備するにあたって、著作者の人格的利益を担保する必要性に変わりはないため、インターネット送信による電子出版についての権利(80条1項2号)を有する出版権者が公衆送信を行う場合についても、著作物に修正又は増減を加える機会を著作者に認めることとしました(1項2号参照)。
「著作者」(「複製権等保有者」ではありませんので注意してください。)は、その著作物を出版権者が「改めて複製する場合」には、「正当な範囲内」において、その著作物に「修正又は増減」を加えることができます(1項1号)。この権利は、自己の著作物に対して意に反する改変を受けないとする著作者の有する同一性保持権(20条1項)と表裏の関係にあるような、いわば「積極的内容変更権」ともいうべき権利で、同一性保持権と同様に著作者の人格的利益保護を担保する観点から認められているものです。したがって、本権利を行使できる者は「著作者」に限られます。その著作者が複製権を現に有しているか否かは問題とされません。著作者が死亡した後に、その遺族等が本権利の基づいて修正増減を求めることもできないと解されます。
ここで、「改めて複製する場合」とは、「増刷」や「再版」等の表示上の区別にかかわらず、一度終了した(継続しなくなった)出版物の複製頒布行為を再び行う場合、という意味です。「正当な範囲内」とは、社会通念上正当と認められる範囲内のことで、例えば、出版権者に大きなコスト的負担を強いるような全面的修正や、予定されていた出版時期を大幅に遅らせるような修正増減要求などは、おそらく「正当な範囲内」にあるとは解されないでしょう。なお、修正増減の要求は、一般的には、改めて行われる複製が完了する以前に行う必要があります。
公衆送信を行う場合は、紙媒体による出版やCD-ROM等による出版の場合と異なり、現行法に規定する「改めて複製する」場合が想定されず、また、通常、一度公衆送信を行った後には、出版権の存続期間内は公衆送信を行い続けることが想定され、いずれかの時点を基準に修正又は増減を認めることとすることは困難であると考えられることから、出版権者が公衆送信を行っている状態にある場合には、随時、著作者は修正又は増減を加えることができると解されます。ただし、1号と同様に、著作者が修正増減を加えることができるのは、「正当な範囲内」に限られます。例えば、新たなフォーマット等を作成し直す必要が生じるほどの全面的修正の要求や過剰な頻度の修正の要求などにより、出版権者に過大な負担を課すこととなる場合は、「正当な範囲内」を超えるものと解されるでしょう。
出版権者が著作者からの正当な範囲内における修正増減の要求に従わなかった場合にはどうなるか。この場合、著作者はそれによって生じた精神的損害について損害賠償を請求することができるものと解されます。また、修正増減要求を無視して出版を行う行為は、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」(113条11項)に該当することも考えられ、この場合、当該行為は著作者人格権の侵害とみなされます。
▶ 出版権者の増刷等通知義務(2項)の意義と解釈
本権利の行使を確保するため、出版権者には、著作者に対する一定の通知義務が課せられています(2項)。すなわち、出版権者には、出版権の目的である著作物を「改めて複製しようとするとき」は、その都度、あらかじめ「著作者に」その旨を通知することが求められています(「複製権等保有者に」となっていない点に注意してください)。ここで「改めて複製しようとするとき」とは、「増刷」や「再版」等の表示上の区別にかかわらず、一度終了した(継続しなくなった)出版物の複製頒布行為を再び行うとき、という意味です。なお、著作者が死亡した後は、この通知義務は消滅するものと解されます。
本条に規定する著作者の修正増減権(1項)及び出版権者の増刷等通知義務(著作者から見れば、増刷等の通知を受ける権利)(2項)について、これを「出版許諾契約」にも類推適用できるかという点については、これを積極に解する判例、消極にとらえる判例があります。