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著作権法条文解説
著作権法第87条(出版権の譲渡等):
「出版権は、複製権等保有者の承諾を得た場合に限り、その全部又は一部を譲渡し、又は質権の目的とすることができる。」
▶ 出版権の譲渡と質入れ
平成26年法改正前87条では、出版権が対人的信用を基礎として設定されるものであることに鑑み、その譲渡及び質入れといった処分について複製権者の承諾を要することとしていました。平成26年法改正においても、こうした考え方は特段変わらないものの、新たに出版権の内容として規定するインターネット送信による電子出版についての権利は、紙媒体等による出版についての権利と可分なものとなっているため、出版権の譲渡等について、複製権等保有者が承諾する場合には、権利の可分性に応じ、その全部又は一部を譲渡等することができることとしています。
本条は、出版権が複製権等保有者と出版を引き受ける者との間の信頼関係を基礎として設定されるという事情があることから(79条1項)、出版権の譲渡又は質入れについて複製権等保有者の承諾を要する旨を明らかにしたものです。
複製権等保有者の承諾を要するのは、出版権の「譲渡」と出版権に関する「質権の設定」です。したがって、相続その他の一般承継(法人の合併による包括承継等)による出版権の移転に関しては、複製権等保有者の承諾を取り付ける必要はありません。また、「質権の設定」の承諾には、当該質権の実行に伴う出版権の移転についての承諾も含まれているものと解されるため、ある出版権に複製権等保有者の承諾を得て質権が設定されている場合に、当該質権が実行されてその出版権が第三者に移転することになっても、その時点であらためて複製権等保有者の承諾を得る必要はありません。一方、強制執行に伴う出版権の移転に関しては、複製権等保有者の承諾が必要であると解されます**。
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以上述べたところとは反対に、出版権が設定されている著作物の「複製権」又は「公衆送信権」を譲渡したり、その「複製権」又は「公衆送信権」について質権を設定するのに当該出版権者の承諾を得る必要はありません。
(複製権等保有者の承諾を得た場合でも)出版権の一部の範囲を分割して譲渡することは認められないと解されます。出版権を設定できる範囲は、その性質から本来それほど広いものではありません(むしろ、かなり限定された範囲にとどまります)。したがって、著作権の一部譲渡(61条1項)とは異なり、出版権においてその一部の譲渡が問題となることは実務上ほとんどないとも考えられます。しかし、それでも、出版権の設定契約の際に、当事者間で当該出版権の内容を一定の範囲(例えば、一定の期間や地域(国)等)に画定して設定することは可能であるため(80条1項参照)、そのようにして画定された出版権をさらに分割して譲渡することができるのかという点が一応問題となります。この点、そのような分割譲渡はできないものと解されます。例えば、日本国内をテリトリーとする出版権設定契約が締結されている場合に、「東京都」に地域を限定した部分の出版権を分割して第三者に譲渡することなどは認められないものと考えられます。一方、例えば、「日本」と「フランス」、「ドイツ」をテリトリーとする出版権が設定されている場合に、これらをテリトリー(国)ごとに分割して譲渡することができるかどうかについては異論があります。