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著作権法条文解説

著作権法第89条(著作隣接権)

1 実演家は、第90条の21項及び第90条の31項に規定する権利(以下「実演家人格権」という。)並びに第91条第1項、第921項、第92条の21項、第95条の21項及び第95条の31項に規定する権利並びに第94条の2及び第95条の33項に規定する報酬並びに第95条第1項に規定する二次使用料を受ける権利を享有する。
2レコード製作者は、第96条、第96条の2、第97条の21項及び第97条の31項に規定する権利並びに第97条第1項に規定する二次使用料及び第97条の33項に規定する報酬を受ける権利を享有する。
3放送事業者は、第98条から第100条までに規定する権利を享有する。
4有線放送事業者は、第100条の2から第100条の5までに規定する権利を享有する。
5前各項の権利の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。
6第1項から第4項までの権利(実演家人格権並びに第1項及び第1項の報酬及び二次使用料を受ける権利を除く。)は、著作隣接権という。」

▶著作隣接権とは

法第89条は、実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者のそれぞれが享有することとなる諸権利(著作隣接権等)について規定したものです。
著作物の内容を一般公衆に伝達するためには、その仲介にあたる著作物利用者、例えば、出版者、映画配給者、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者、興行者などの存在が必要になります。なかでも、わが国の法は、実演、レコード(現在ではCDをイメージしてください)、放送、有線放送が著作物を一般大衆に伝達する際の有力な媒体であり、かかる伝達媒体の担い手である「実演家」・「レコード製作者」・「放送事業者」・「有線放送事業者」の当該媒介伝達行為に着目して、彼らの媒介伝達行為に対して一定のインセンティブを与えることが著作物の効果的かつ円滑な流通(公衆への伝達)を図るために妥当であると考えて、実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者のそれぞれに一定の権利(著作隣接権等)を付与することとしました。著作物の伝達者に一定のインセンティブを与えて著作物の効果的かつ円滑な流通が図られるなら、著作権法の究極目的である「文化の発展」(1)に寄与することができます。さらに、彼ら、特に実演家の利用(伝達)行為には、著作物の創作に準じた、それ自体で保護価値のある準創作行為ともいうべき保護客体が認められる場合があります(例えば、同じ楽曲でもそれを歌唱する者(の伝達能力)によって公衆が受ける印象が大きく異なる場合があります)。しかしながら、彼ら(著作物の伝達者)はあくまで既存の著作物を利用(伝達)する者であって、実演やレコード製作、放送・有線放送行為によって自ら新たな著作物を創作しているわけではありません。したがって、彼らを「著作者」と見ることはできず、「著作権」によって彼らに保護を与えることには理論的に少々無理があるようです。そこで、著作権とほぼ同等の経済的利益を与えることを目的とした新たな権利の創設が要請され、かかる要請から生み出されたものが「著作隣接権」と呼ばれている権利です。この名称は、「著作権に隣接する権利」であるという意味で名づけられたものです。なお、国際的に通用する英語表記は、“related rights”、より正確には“rights related to copyright”又は文字通り“neighboring rights” です。「著作隣接権」とは、これを実質的な意味合いから定義づけすれば、実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者が有する、実演、レコード、放送及び有線放送の利用を通じて経済的収益を上げうる排他独占的な財産権である、ということになります。

《実演家の著作隣接権》
〇 録音権及び録画権(91条1項)
〇 放送権及び有線放送権(92条1項)
〇 送信可能化権(92条の2・1項)
〇 譲渡権(95条の2・1項)
〇 貸与権(95条の3・1項) ※ただし、レコード発売後1年間。

《レコード製作者の著作隣接権》
〇 複製権(961)
〇 送信可能化権(96条の2)
〇 譲渡権(97条の2・1項)
〇 貸与権 (97条の3・1項) ※ただし、レコード発売後1年間

《放送事業者の著作隣接権》
〇 複製権(98条)
〇 再放送権及び有線放送権(99条1項)
〇 送信可能化権(99条の2・1項)
〇 テレビジョン放送の伝達権(100)

《有線放送事業者の著作隣接権》
〇 複製権(100条の2)
〇 放送権及び再有線放送権(100条の3)
〇 送信可能化権(100条の4)
〇 有線テレビジョン放送の伝達権(100条の5)

▶実演家人格権その他の権利

実演家については、その人格的利益を保護するため、著作者人格権に類似した「実演家人格権」が与えられています(1項参照)。一方、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者には著作者人格権や実演家人格権に相当する権利(人格権)が規定されていませんが、このことは、これらの者の人格的利益を否定する趣旨ではなく、彼らの人格的利益については民法の一般規定による措置に委ねたものと解されます。さらに、実演家に対しては、「放送される実演の有線放送に関する報酬請求権」、「貸レコードに対する報酬を受ける権利(期間経過商業用レコードの貸与に関する報酬請求権)」及び「商業用レコードの二次使用料を受ける権利」が認められ(1項参照)、レコード製作者に対しては、「商業用レコードの二次使用料を受ける権利」及び「貸レコードに対する報酬を受ける権利(期間経過商業用レコードの貸与に関する報酬請求権)」が認められています(2項参照)
なお、「著作隣接権」からは、実演家とレコード製作者に認められている「報酬及び二次使用料を受ける権利」(12項参照)が除かれています(6)。これは、「著作隣接権」が物権類似の排他性を有するのに対し、「報酬及び二次使用料を受ける権利」は特定の相手に対する債権であり、権利の性質が異なるため、権利侵害等の場面で、両者を異なった扱いとする必要があることによるものです。

《実演家の実演家人格権》
〇 氏名表示権(90条の2)
〇 同一性保持権(90条の3)

▶無方式主義(第5項)

著作隣接権及び実演家人格権はともに、著作権及び著作者人格権と同様に、その権利の享有にいかなる方式の履行(例えば、文化庁などの公的機関への申請や登録など)を必要としません(5)。このような考え方を「無方式主義」と呼んでいます。実演家等の権利は、何らの手続を要することなく、実演、レコード()の最初の固定、放送、有線放送が行われた時に、その事実によって自動的に発生することになります(これらの行為をするだけで権利が付与され、著作物(著作権)に求められる「創作性」は権利付与の要件となっていません)

▶「パブリシティ権」について

実演家、特に著名な歌手や俳優等との関係で、実務上しばしば問題となる「パブリシティ権」について、少し解説しておきます。
「パブリシティ権」とは何か?残念ながら、この権利を明文上根拠づけている特別の法律はありません。「パブリシティ権」は、判例を通じて形成され確立されるに至った権利です。これまでの主要な判例を参考に定義づけを試みれば、一応次のように言えるのではないかと思います:「パブリシティ権」とは、主として、歌手や俳優、タレント等の芸能人、プロスポーツ選手などの著名人・有名人の氏名や肖像等が持つ顧客吸引力という経済的利益・価値を排他的に支配する財産的権利である。
パブリシティ権は、人の氏名・肖像に関する権利であるという人格権としての側面がある一方、あくまでその保護客体は、氏名・肖像そのものではなく、これらが持つ「パブリシティ価値」すなわち氏名・肖像を営利的に利用した場合の顧客吸引力を有する経済的利益ないし価値に対する支配権であるいう点で、財産権としての側面が沿革的に強調されてきました。パブリシティ権は、著名人・有名人が有するその氏名・肖像の営利的利用権といってもいいでしょう。
わが国で最初にパブリシティ権の存在を認めた判例は、「マーク・レスター事件」(下記参照)であると言われています。この「マークー・レスター事件」以後、多くの判例が積み重ねられ、パブリシティ権は、今や、広く認められた権利となっています。しかしながら一方で、なお解明の必要な点も多く残っており、その意味で、パブリシティ権は、なお形成途上の権利であるといえます。具体的には、次のような論点があります:
〇 パプリシティ権は、人格権なのか経済的権利なのか。
〇 パプリシティ権の譲渡は可能か。
〇 パプリシティ権に存続期間はあるのか (死後においても認められるか)
〇 文人や学者、一般人にもパブリシティ権が認められるか。
〇「物」にもパブリシティ権が認められるか。
〇 言論・表現・報道の自由との関係(出版物におけるパブリシティ価値の利用の問題等)
etc.

《参考》「マーク・レスター事件」(東京地裁S51/6/29
『通常人の感受性を基準として考えるかぎり、人が濫りにその氏名を第三者に使用されたり、又はその肖像を他人の眼にさらされることは、その人に嫌悪、羞恥、不快等の精神的苦痛を与えるものということができる。したがって、人がかかる精神的苦痛を受けることなく生きることは、当然に保護を受けるべき生活上の利益であるといわなければならない。そして、その利益は、今日においては、単に倫理、道徳の領域において保護すれば足りる性質のものではなく、法の領域においてその保護が図られるまでに高められた人格的利益(それを氏名権、肖像権と称するか否かは別論として。)というべきである。けだし、社会構造が複雑化、高度化し、マスコミニュケーション技術が異常な発達を遂げた現代社会は、常に個人の氏名や肖像が多様な形式で他人に利用され、公表される危険性をはらんでいるが、かかる危険が高まるに従って、逆に各人の、その氏名や肖像を他人にさらさずに生きたいという願望が強くなるというのが、現代人に共通の意識と考えられるのみならず、我国の法制によって立つ個人尊重の理念は、かかる利益に対する不当な侵害を許容しない趣旨をも含むと解されるからである。かような人格的利益の法的保護として、具体的には違法な侵害行為の差止めや違法な侵害に因る精神的苦痛に対する損害賠償が認められるべきであって、民法709条にかかる違法な侵害を不法行為と評価することを拒むものと解すべき根拠は存しない。
ところで、上記に述べたような人格的利益に関する一般理論に、その主体が映画・舞台の俳優、歌手その他の芸能人、プロスポーツ選手等(以下「俳優等」という。)大衆との接触を職業とする者である場合には多少の修正を要するものと考えられる。
何故ならば、前記のような人格的利益は、それがアメリカ法においてはプライヴァシー法の一環として論じられていることからも明らかなとおり、人が自己の氏名や肖像の公開を望まないという感情を尊重し、保護することを主旨とするものであるが、俳優等の職業を選択した者は、もともと自己の氏名や肖像が大衆の前で公開されることを包括的に許諾したものであって、上記のような人格的利益の保護は大幅に制限されると解しうる余地があるからである。それだけでなく、人気を重視するこれらの職業にあっては、自己の氏名や肖像が広く一般大衆に公開されることを希望若しくは意欲しているのが通常であって、それが公開されたからといって、一般市井人のように精神的苦痛を感じない場合が多いとも考えられる。以上のことから、俳優等が自己の氏名や肖像の権限なき使用により精神的苦痛を被ったことを理由として損害賠償を求め得るのは、その使用の方法、態様、目的等からみて、彼の俳優等としての評価、名声、印象等を毀損若しくは低下させるような場合、その他特段の事情が存する場合(例えば、自己の氏名や肖像を商品宣伝に利用させないことを信念としているような場合)に限定されるものというべきである。
しかしながら、俳優等は、上記のように人格的利益の保護が減縮される一方で、一般市井人がその氏名及び肖像について通常有していない利益を保持しているといいうる。すなわち、俳優等の氏名や肖像を商品等の宣伝に利用することにより、俳優等の社会的評価、名声、印象等が、その商品等の宣伝、販売促進に望ましい効果を収め得る場合があるのであって、これを俳優等の側からみれば、俳優等は、自らかち得た名声の故に、自己の氏名や肖像を対価を得て第三者に専属的に利用させうる利益を有しているのである。ここでは、氏名や肖像が、上記で述べたような人格的利益とは異質の、独立した経済的利益を有することとなり(上記利益は、当然に不法行為法によって保護されるべき利益である。)、俳優等は、その氏名や肖像の権限なき使用によって精神的苦痛を被らない場合でも、上記経済的利益の侵害を理由として法的救済を受けられる場合が多いといわなければならない。』