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著作権法条文解説

著作権法第90条の2(氏名表示権)

1 実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有する。
2実演を利用する者は、その実演家の別段の意思表示がない限り、その実演につき既に実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示することができる。
3実演家名の表示は、実演の利用の目的及び態様に照らし実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき又は公正な慣行に反しないと認められるときは、省略することができる。
4第一項の規定は、次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない。
(1号~3号略)

▶氏名表示権の意義(1)

本条は、実演家が、その実演(213)を公衆へ提供又は提示するに際し、どのような実演家名を表示するのか、又は実演家名を表示しないのかということを決定する権利を有する旨を、また、実演の円滑な利用を確保する観点から、所定の場合には実演家名の表示を省略できる旨等を規定したものです。

「実演家」(214)には、「実演家人格権」という実演家の人格的利益を保護するための権利が認められています(891)。そして、この「実演家人格権」には、本条に定める「氏名表示権」と「同一性保持権」(90条の31)という2つの権利があります。
(注) 著作者人格権の1つである「公表権」(181項参照)に相当する権利については規定されていません。実演は公衆への著作物の伝達行為(公表)を前提とするものであり、実演を公表するかしないか決定できる「公表権」なるものを認める意義がないからです。
実演家の「氏名表示権」(1)とは、より具体的には、実演家の人格的利益を保護するために与えられる、自己の実演を公衆へ提供又は提示するに際して、実演家名を表示するのか否か、また、表示するとしたら「氏名」で表示するのか、「芸名その他氏名に代えて用いられるもの」で表示するのかを決定する権利をいいます。WIPO実演及びレコード条約5(1)に同旨の規定が置かれています。ここで、「芸名その他氏名に代えて用いられるもの」には、例えば、実演家の愛称などが含まれますが、氏名表示権を有するのは個人としての実演家であるため、グループ名やバンド名はこれに該当しないと解されます。

▶利用者の氏名表示(2)

実演を利用する者は、その実演家の別段の積極的な意思表示がない限り、その実演につき既に実演家が表示しているところに従って実演家名を表示することができます(2)。実演の利用者がこのような表示をすれば氏名表示権侵害の問題とはならないことを規定したもので、実演を利用する側の便宜を考慮した規定です。無名の実演についての利用についても同様の扱いができるものと解されます(つまり、実演家がある実演につきそもそも実演家名を表示していない場合には、その実演を利用する者も無名表示(実演家名を表示しない)のままとしておけば足りる)

▶氏名表示の省略(3)

実演家名の表示は、実演の利用の目的及び態様に照らし、「実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないとき」又は「公正な慣行に反しないと認められるとき」は、これを省略することができます(3)。実演の円滑な利用を阻害しないための規定です。実演の利用の実態に配慮して、著作者に認められる「氏名表示権」の場合よりも省略できる場面を広く認めている点に注意を要します(193項との規定振りの違いに注意)。ここで、「実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないとき」とは、例えば、ホテルのロビーなどでBGMとしてCDを流す場合などが想定され、一方、「公正な慣行に反しないと認められるとき」とは、例えば、歌手のライブ演奏を放送する際にバックの演奏家の氏名表示を省略する場合や、映画のエンディングロールでエキストラ(俳優)の氏名表示を省略する場合などが考えられます。