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著作権法条文解説
著作権法第90条の3(同一性保持権)
「1 実演家は、その実演の同一性を保持する権利を有し、自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、実演の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変又は公正な慣行に反しないと認められる改変については、適用しない。」
▶実演家の同一性保持権とは
「実演家」(2条1項4号)には、「実演家人格権」という実演家の人格的利益を保護するための権利が認められています(89条1項)。そして、この「実演家人格権」には、「氏名表示権」(90条の2・1項)と本条に定める「同一性保持権」という2つの権利があります。
(注)著作者人格権の1つである「公表権」(18条1項参照)に相当する権利については規定されていません。実演は公衆への著作物の伝達行為(公表)を前提とするものであり、実演を公表するかしないか決定できる「公表権」なるものを認める意義がないからです。
実演家は、著作者が「その著作物及びその題号の同一性を保持する権利」(20条1項)を有するのと同様に、「その実演の同一性を保持する権利」(実演の「題号」の同一性を保持する権利は明記されていない。)を有します(1項)。実演家の人格的利益を保護するために規定されたもので、WIPO実演及びレコード条約5条(1)に同旨の規定が置かれています。
著作者が有する「同一性保持権」が「著作者の意に反して著作物及びその題号の変更、切除その他の改変を受けない」権利である(20条1項参照)のに対して、実演家が有する「同一性保持権」は、「自己(実演家)の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けない」権利であるという点で、異なっています。つまり、著作者の同一性保持権が「意に反する改変」のすべてについてその権利が及ぶのに対して、実演家の同一性保持権は、「名誉又は声望を害する改変」のみが権利の射程範囲であり、そのため、侵害があった場合には、自分の実演について無断で改変されたと主張する実演家が「名誉又は声望を害された」ことを立証する必要があります。
なそ、ここで、「名誉又は声望」とは、実演家が社会から受けている客観的な評価をいい、実演家の名誉感情等の主観的な評価は含まれないと解されます。
同一性保持権は、「実演の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」又は「公正な慣行に反しないと認められる改変」には及びません(2項)。前者の例としては、再生機器の性能から実演の音声や映像などが正確に再生(伝達))できないような場合が考えられ、後者の例としては、映画を放送する際に放送時間に合わせて再編集(カット)する場合や、映画を紹介(宣伝)する際に出演俳優の演技の一部だけを見せる場合などが考えられます。