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『他人の作品を”適法に”利用するための手順』
他人の作品(著作物)を「適法に」利用するためには、概ね、次の①~⑧の手順に従うことが必要です。
① 利用しようとする作品が著作権法上の「著作物に当たるか」どうかを検討する。
② 著作物に当たる場合、その作品が「わが国で保護される著作物か」どうか、さらに、その作品が「権利の目的となる著作物か」どうかを確認する。
③ わが国で保護され、かつ、権利の目的にもなる著作物に当たる場合には、その作品(著作物等)の「保護期間が終了しているか」どうかを確認する。
④ 保護期間が終了していない場合、権利制限規定すなわち「著作物を自由に利用できる場合に該当するか」どうかを検討する。
⑤ 権利制限規定に該当しない場合(著作物を自由に利用できない場合)、その作品の権利関係すなわち「その作品の著作権者等が誰か」を特定する。
⑥ 権利者を特定できた場合、その権利者と「連絡」を取り、利用許諾を得るように「交渉」する。
⑦ お互い利用許諾条件に納得できたら、合意事項(契約内容)を記載した「書面」(契約書)を作成する。
⑧ 権利者が見つからない(特定できない)場合は、「裁定手続き」を検討する。
他人の作品を適法に利用しようとする場合、一般的に上述の手順(プロセス)に従うのですが、そのプロセスは、ときに煩雑で、相当の労力を覚悟しなければならない場合があります。場合によっては、相応の費用(コスト)が発生することを見越しておかなければなりません。とりわけ、ビジネスとして他人の作品を利用しようとする場合、費用倒れ、労力倒れにならないよう、「そのような労力や費用がビジネス全体に見合うものなのか」どうかも、事前に十分に検討しておくことが重要です。
それでは、以下、各手順について解説していきます。
① 利用しようとする作品が著作権法上の「著作物に当たるか」どうかを検討する。
そもそも「著作物」に該当しないものに著作権は発生していませんので、「著作物に当たらないもの」を利用する場合には、著作権法上の問題は生じません。例えば、歴史的な事実や社会的な事実を題材にして何かを創作する場合、すでにある仮説やデータを敷衍して自説を展開する場合、何かのアイディアをもとに何かを表現する場合、他人の作風に似せて別の表現をする場合など、「事実」や「仮説」、「データ」、「アイディア」、「作風」といったものはそれ自体著作物ではありませんので、上述の行為をするのに誰かの許諾を得る必要はありません。また、大量生産される「実用品」や「工業製品」もまた著作物ではありませんので、これを利用する際に著作権法上の問題は生じません(ただし、事案によっては、特許などの産業財産権法や不正競争防止法に引っかかってくることがありますので、その点は注意が必要です)。
② 著作物に当たる場合、その作品が「わが国で保護される著作物か」どうか、さらに、その作品が「権利の目的となる著作物か」どうかを確認する。
現在、日本国内で流通しているさまざまな著作物は、外国由来のものも含めて、その大半がわが国で保護される著作物に当たると考えて差し支えありません。一方、憲法その他法令などの一部の著作物は、「権利(著作権)の目的となることができない」とされていますので、そのような著作物を利用しようとする場合には、権利者の許諾を得ずに自由に利用することができます。
③ わが国で保護され、かつ、権利の目的にもなる著作物に当たる場合には、その作品(著作物等)の「保護期間が終了しているか」どうかを確認する。
著作権や著作隣接権は「有限」ですので、「著作物」「実演」「レコード」「放送」「有線放送」のそれぞれについて「保護期間」が定められています。したがって、保護期間が満了しているものについては、権利者の許諾を得ることなく自由に利用することができますが、保護期間が終了していない著作物等を利用しようとする場合には、次のステップに進みます。
④ 保護期間が終了していない場合、権利制限規定すなわち「著作物を自由に利用できる場合に該当するか」どうかを検討する。
著作権法には「(著作権の)権利制限規定」といって、一定の要件が整うと、著作権者の許諾を得ずに自由に著作物を利用することができる場合がかなり多く(条文数で言うと現在(30条~47条の7まで)「32」」)規定されています。例えば、「私的使用のための複製」に関する規定(30条)や、「引用」に関する規定(32条)などがあります。もっとも、個別具体的な行為(利用態様)がいずれかの権利制限規定に該当するかどうかの判断は、実際問題として難しい場合もありますので、その場合には、専門家へご相談することをお勧めします。
⑤ 権利制限規定に該当しない場合(著作物を自由に利用できない場合)、その作品の権利関係すなわち「その作品の著作権者等が誰か」を特定する。
例えば、小説や漫画などのように、権利関係(誰が著作権者か)が比較的はっきりしている場合には、大きな問題は生じませんが、映画のように、関係者が多数関わって出来上がる著作物の場合は注意が必要です。映画の利用(上映など)を欲する場合、映画全体の著作権者だけでなく、その映画の脚本家、原作小説がある場合にはその原作の著作権者を特定する必要があります。さらに、映画の中で使われている主題歌やBGM、美術作品等があれば、それらの権利者(著作権者又は著作隣接権者)も特定しなければなりません。このように映画にはさまざまな権利が錯綜しているため、特に注意が必要です。このほか、事情によっては、権利の共有関係の有無や、権利が相続されたり、譲渡されている場合には現在の権利者の確認又は特定など、「現在、誰が、どのような態様で(単独か共有か)、どの支分権を保有しているのか」の確認ないし特定がかなり面倒で難しい場合があります。
⑥ 権利者を特定できた場合、その権利者と「連絡」を取り、利用許諾を得るように「交渉」する。
利用を欲する著作物等の権利者が特定できたら、その権利者と連絡を取ります。小説や音楽などは、関係する出版社や音楽出版社、レコード製作会社、芸能プロダクションなどを通して、権利者と接触することが可能になるケースが多くあります。一方、著作者や実演家がとりわけ「有名人である」ような場合には、彼らの権利を管理する団体(著作権等管理事業者(注))が利用申請の窓口になっている場合がありますので、その場合には、関係する管理事業者に照会することになります。
(注)「著作権等管理事業者」というのは、権利者から権利の管理について委託を受け、利用者からの申請に対して著作物などの利用許諾を行うとともに、徴収した使用料を権利者に分配する業務を行っている団体のことです。そのため、著作権等管理事業者に管理を委託している権利者の著作物等の利用を欲する場合には、管理事業者に利用許諾申請を行い、管理事業者から許諾を得るとともに、そこに使用料を支払うことで、適法に著作物等を利用することができます。音楽の著作物にかかる権利を管理している「日本音楽著作権協会(JASRAC)」が有名です。
なお、外国の著作物の日本での利用を欲する場合、日本国内の著作権等管理事業者が海外の管理団体と相互管理契約を締結してお互いに使用料を送金し合っていることがありますが、そのような相互管理契約は、すべての分野で行われているわけではありません(一部音楽の著作物の分野で行われています)。そのため、外国の著作物の利用については、実務上、直接、外国の権利者に連絡をとって交渉するか、エイジェント(仲介業者)がいればそこを窓口にして交渉することが多いです。
⑦ お互い利用許諾条件に納得できたら、合意事項(契約内容)を記載した「書面」(契約書)を作成する。
権利者や管理事業者、エイジェント等と交渉して話がまとまったら、後々のトラブルを防ぐために、必ず書面で契約書を取り交わしておきましょう(注)。
(注) 口頭でも契約(利用許諾契約)は成立しましが、とりわけ著作権ビジネス(コンテンツビジネス)では、リスク管理の観点から、お互いが意思(契約内容)を明確にした上で、「契約書」という形で文書を残しておくことが極めて重要です。
⑧ 権利者が見つからない(特定できない)場合は、「裁定手続き」を検討する。
著作権者等の許諾を得ようとしても、「権利者が誰だかわからない」「権利者がどこにいるのかわからない」「亡くなった権利者の相続人が誰でどこにいるのかわからない」などの理由で許諾を得ることができない場合があります。そのような場合には、権利者の許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料額に相当する補償金を供託することによって著作物等を適法に利用することができます
(67条等)。
AK