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『映像コンテンツの取扱いには特に注意を!』
はじめに
この記事で扱う「映像コンテンツ」とは、劇場用映画、アニメ、ドキュメンタリー映像、各種のテレビ番組(ただし、生放送は除く。)、ネット動画、ゲームソフト(アプリ)などを意味します。例に挙げたものは、著作権法上、「映画の著作物」に当たります(注)ので、はじめに、この点を確認してください。
(注) 著作権法で使われている「映画(の著作物)」という用語は、一般的な語感とはかなり異っていますので、注意してください。素人が撮影してネットにアップした「動画」も、著作権法上は「映画(の著作物)」に当たります。
著作権法上、「映画の著作物」の取扱いには注意が必要です。その理由はいくつかありますが、まず第一に、「映画」の一般的な語感と、著作権法上著作物として扱われる「映画(の著作物)」には随分と違いがあるという点が挙げられます。
一般的な語感として「映画」と言えば、まず思い当たるのが「劇場で上映される映画」(実写映画やアニメーション映画、ドキュメンタリー映画)でしょう。著作権法上の「映画(の著作物)」にも、当然、この「劇場用映画」(以下、劇場で上映される実写映画やアニメーション映画、ドキュメンタリー映画をまとめてこう呼ぶことにします。)が含まれます。注意しなければいけないのは、劇場用映画をDVD化したものはよいとしても、一般的な「テレビ番組」や「ゲームソフト(アプリ)」も、著作権法上は「映画(の著作物)」として扱われるという点です。このような「語感のズレ」が生じるのは、著作権法の中で、次のような規定があるからです:
『この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。』(2条3項)
上のような解釈規定が存在するため、”著作権法上の映画(の著作物)>一般的な語感の映画”という図式が成り立つのです。ですので、以下、劇場用映画(DVD化したものを含む)、テレビ番組、ゲームソフト(アプリ)(注)を含む著作権法上の「映画(の著作物)」を適宜「映像コンテンツ」と称して、解説していきます。
(注)「ゲームソフト(アプリ)」については、そのすべてが常に「映画(の著作物)」に該当するわけではありません。この点に関する裁判所の判断もケースバイケースの状況です。もっとも、最近のゲームソフト(アプリ)は、動画の映像がCGを駆使するなどして全体的にリアルで連続的であり、しかも、映像にシンクロナイズされた効果音や背景音楽とも相まって臨場感を高めるなどの工夫がされていて、影像がディスプレイ上に極めて短い間隔で連続的に映し出される方法で表現されているものがほとんどです。本来的な映画(劇場用映画)に類似する、このようなゲームソフト(アプリ)については、著作権法上の「映画(の著作物)」に当たると考えて差し支えありません。
「映画」にだけ適用される特別な規定があります
前述のように、ある「テレビ番組」や「ゲームソフト(アプリ)」までが著作権法上の「映画(の著作物)」として扱われることになると、以下で解説しますが、「テレビ番組」や「ゲームソフト(アプリ)」に対しても、著作権法の中で規定されている映像コンテンツに関わる「特別な規定」が適用されることになります。そのため、あるコンテンツが映像コンテンツつまり著作権法上の「映画(の著作物)」に当たるかどうかは、当該コンテンツビジネスを展開する上で最初に検討すべき重要な課題の一つになるのです。
ところで、著作権法上の「映画(の著作物)」には、他のカテゴリーに属する著作物にはない特有の規定(特別な規定)が設けられています。そのような規定が設けられていることによって、著作権法の中で、「映画(の著作物)」は、かなり”特別扱い”されているといっても過言ではありません。加えて、映像コンテンツの性質から、それが著作権法上の「二次的著作物」(2条1項11号)や「共同著作物」(2条1項12号)に該当する場合があり、その場合には、二次的著作物や共同著作物にのみ適用される取扱いについても注意を払わなければなりません。
ここでは、映画(の著作物)にだけ適用される「特別な規定」を中心に解説していきます。
映像コンテンツにのみ適用される「特別な規定」その①
では、さっそく見ていきましょう。著作権法の中に規定されている、映画(の著作物)にだけ適用される「特別な規定」はいくつかあるのですが、映像コンテンツに関わるビジネスを展開するうえで重要となる権利処理という観点からとりわけ重要なのが、「映画の著作物の著作者」に関する規定と、「映画の著作物の著作権の帰属」に関する規定です。この他にも、「頒布権」に関する規定(26条)や「映画の著作物の保護期間」に関する規定(54条)も重要なのですが、これらについてはまた別の機会に解説したいと思います。
「映画の著作物の著作者」に関する規定(16条)の解説
映画の著作物の著作者は、職務著作(15条)の適用がある場合を除き、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とされています。具体的に誰がこれに当たるかは個々の映像コンテンツについて個別具体的に判断されることになりまするが、通常は、プロデューサー、監督、撮影監督、美術監督、特殊撮影の監督などで、その映画に対して一貫したイメージを抱きそれを実現した者が当該映像コンテンツの著作者として扱われます。ただ、映像コンテンツの製作(制作)には、その性格上、非常に多くの人が関与しているため、当該映像コンテンツの「全体的形成に創作的に寄与した者」が複数人いる場合も考えられ、その場合、「各人の寄与を分離して個別的に利用することができない」という事情があれば、当該映像コンテンツは、著作権法上、「共同著作物」(2条1項12号)と評価され、共同著作物に特有の規定(例えば、64条や65条)の適用を受けることになります。
映像コンテンツの原作となった小説や漫画、脚本、その映像コンテンツの中で利用(複製)されているBGMや美術作品などの著作物の著作者は、当該映像コンテンツの著作者とは扱われません。しかし、彼らには、当該映像コンテンツに利用(翻案・複製)された著作物の著作者として、当該映像コンテンツの利用に関し、一定の権利が付与されるため、当該映像コンテンツの展開(二次利用)においては、彼らとの権利処理も念頭に入れておかなければなりません。
一方、例えば、ドキュメンタリー映画を製作する映像会社が自社の従業員に映画を製作させた場合、「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」が当該従業員であっても、当該映画の製作が「職務著作」の要件(15条1項)を満たすものであれば、その映画の著作者は、当該映像会社となります。この点も注意が必要です。
さらに、映像コンテンツに出演している俳優や声優、演奏家等については、著作権法上、「実演家」として「著作隣接権」及び「実演家人格権」による保護を受けます。そのため、彼らとの権利処理もクリアにしておかなければなりません。
映像コンテンツにのみ適用される「特別な規定」その②
「映画の著作物の著作権の帰属」に関する規定(29条1項)の解説
映像コンテンツの著作権は、その著作者が「映画製作者」に対し当該映像コンテンツの製作(制作)に参加することを約束しているときは、当該「映画製作者」に帰属する、との特殊な扱いがされています。
この規定の意味するところは、映像コンテンツの著作権は、原則どおり、創作によって「著作者」に発生することになるが、同時に、法律上当然に何らの手続きを要することなく、その発生した著作権が「映画製作者」に移転する、ということにあります。その趣旨は、多くのプレーヤーがその創作に関与し、多大な投資を必要とすることが少なくない映像コンテンツについて、その円滑な利用を促し、映像コンテンツへの投資のインセンティブを確保することにある、と言われています。もっとも、財産権としての「著作権」が自動的に「映画製作者」に帰属することになっても、「著作者人格権」については「著作者」に残されたままです。この点も紛らわしいので注意を要します。
以上のような特別扱いがされるためには、映像コンテンツの著作者が、「映画製作者」に対し、「当該映画の著作物の製作に参加することを約束している」ことが要件となっていますので、法律の文言上は、この参加契約がない場合にはかかる”特別扱い”はされない、ということになります。もっとも、実務的には、かりに「参加契約書」なる書面が取り交わされていなくても、諸般の事情から「口頭」ないし「黙示的な」参加契約が有効に発生していると解される場合(はっきり言うと、映像コンテンツの著作者が「映画製作者」から製作への見返りとして相当の報酬が与えられている場合)には、当該映画(の著作物)の著作権は、映画の完成と同時に「映画製作者」に移転していると解されます。ですので、著作権法29条1項の規定は、特殊なケースを除けば、ほとんどの映像コンテンツの製作(制作)に適用されるものと考えて差し支えありません。したがって、ある映像コンテンツについて、「著作者」のもとに「著作権」を残しておきたいのであれば、その旨を明示した書面を事前に取り交わしておいた方が無難です。証拠がないと、後で必ずもめます。
いずれにしても、映像コンテンツに関わる「著作者」と「製作者」は、権利の帰属の有無はもちろん、条件面や権利行使の具体的内容も含めて、お互いの意思を明確にする「契約書」を事前に取り交わしておくべきです。
「映画製作者」とは
最後に、本記事でたびたび登場してきた「映画製作者」の意義について。
「映画製作者」とは、著作権法上、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」とされています(2条1項10号)。映像コンテンツの製作(制作)に関し具体的にどのような者がこの「発意と責任」を有する者に該当するかについては、実務上、「映画の事業展開をする際に締結されるさまざまな契約により生じる法律上の権利義務が帰属する主体」、平たく言うと、その契約書に当事者「甲」又は「乙」として署名する者と考えてほぼ差し支えありません。このことからも、「映画製作者」を特定しやすくするという意味において(これは、結局のところ、実質的にその映像コンテンツの「著作権者」を特定することでもある)、その署名捺印(記名押印)がある契約書は作成しておくべきなのです。そうすれば、利害関係者・プレーヤーの予測可能性は一段と高まり、当該映像コンテンツに関わるビジネスがより円滑に進む効能も期待できます。また、万一、問題が生じて裁判になった場合に、そのような契約書が残っていれば、裁判官が「映画製作者」(著作権者)が誰であるかを認定しやすくなります。
映像コンテンツの製作(制作)には、製作現場の監督及びスタッフや出演者のみならず、投資家やスポンサー、利用著作物の権利者など実にさまざまな関係者・プレーヤーがさまざまな形で関与しています。そんな中で、迅速かつ的確に権利処理をクリアしていくことは決して簡単な作業ではありません。しかし、面倒だからと言って、この作業をおろそかにすると、多額の資金と労力をつぎ込んだビジネスが途中で頓挫することにもなりかねません。
特にプロデューサーの方には、「コンテンツビジネスは権利処理ビジネスだ」ということを常に念頭に入れておいていただいて、面倒な権利処理をクリアしていくことが本来的な仕事なのだ、ということを肝に銘じていただければ幸いです。
AK