Kaneda Legal Service {top}
役立つ記事
『自由利用が許される“適法引用”の要件とは?』
著作権の侵害事案において、相手方(著作権侵害で訴えられている側)は、実務上又は裁判上、しばしば、「引用の抗弁」(自分の行為は著作権法上の「引用」に当たるから著作権侵害ではない、という主張)をしてきます。この点、著作権法32条1項の第1文に、「公表された著作物は、引用して利用することができる。」と規定されていますので、法律上の「引用」に当たる場合には、何人も、著作権者に無断であっても、公表されている著作物を自由に利用(引用)することができます。もっとも、この規定には続きがあり、第2文には、「この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定しています。
上述の規定から、著作物の自由利用が認められるための「適法引用」であるためには、次の3つの要件をすべてクリアする必要があります。
要件① 引用して利用できるのは、「公表された」著作物に限られること。
要件② その引用が「公正な慣行に合致する」ものであること。
要件③ その引用が、報道、批評、研究その他の「引用の目的上正当な範囲内で」行われるものであること。
以下、順に解説していきます。
要件①について
引用して利用できるのは、「公表された」著作物に限られます。したがって、いまだ「公表」(注)されていない他人の著作物を勝手に引用することはできません。他人の未公表著作物を無断で引用すると、著作権の侵害のみならず、著作者人格権の中の「公表権」(18条1項)の侵害の問題も生じます。
(注) ある著作物が「公表」(4条参照)されているかどうかが裁判上争われることもあり、「公表」されているか否かの判断には注意が必要です。
要件②について
適法引用であるためには、その引用が「公正な慣行に合致する」ものでなければなりません。この点、従来より、適法な引用と認められるためには、引用されている著作物に関し、その引用行為の実態(慣行)がすでに存在し、かつ、その慣行が社会通念上妥当である(他人の著作物を引用する必要性ないし必然性が一般的に認められる)場合でなければならないと解されてきましたが、最近の裁判例には、「当該著作物の属する分野や公表される媒体等において引用に関する公正な慣行が確立していない場合であっても,当該引用が社会通念上相当と認められる方法等によると認められるときは『公正な慣行に合致する』というべきである」としたもの(令和3年5月26日東京地方裁判所[令和2(ワ)19351])があります。
例えば、自説を展開するために自分の論文中に他人の論文の一部を引用する場合や、文芸作品の評論のなかで対象となる小説の一部を引用する場合などは、すでに「(公正な)慣行」が存在(確立)していると言えるでしょう。もっとも、その場合でも、具体的な引用の方法(やり方)としては、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを「明瞭に区別して認識することができる」ようなやり方(例えば、引用された著作物であることが明瞭になるようカギ括弧で括って表示するなど)で引用することが求められます。
要件③について
適法引用であるためには、その引用が、報道、批評、研究その他の「引用の目的上正当な範囲内で」行われるものでなければなりません。「引用の目的上正当な範囲内で」とは、一般的に、「引用の目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内で」と解されます(注)。したがって、他人の著作物を引用することにそもそも必然性や関連性がない場合には、そのような引用は、合理性のないものとして(又は上述の「公正な慣行」に合致しないものとして)、適法引用とは認められません。
(注) 引用される著作物が短歌や詩、絵画、写真などの場合には、「引用の目的上正当な範囲内で」あれば、その全部の引用(複製等)も可能であると考えられます。
引用する側の著作物と引用される側の著作物の両著作物間に、「前者が主、後者が従の関係」がなければならない、とするのが判例(最高裁)の立場です。つまり、著作物の分量等ついて、自己の著作物が「主」であって、引用される他人の著作物が「従」である関係が認められる程度でなければならないとしています。どの程度ならこの「主従関係」があるかは、結局のところ著作物の性質や引用の目的等に照らして個別具体的に判断されることになります。
最後に、上述した「適用引用」の要件とは直接的には関係ありません(注)が、引用する側には引用される著作物の「出所を明示する義務」(48条1項1号・3号)がありますので、この点にも注意してください。出所の明示を怠ると、「50万円以下の罰金」という刑罰を科せられます(122条)。
(注) ただし、出所を明示することが「公正な慣行」と認められるに至っている場合にその出所の明示を怠ると、その点において「公正な慣行」に合致していないとして、結局、「適法引用」には当たらないと解される余地がありますので、著作権侵害を回避する意味でも、他人の著作物を引用する際には、その出所を明示しておいた方が賢明です。
AK