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毎日新聞東京本社出版局『サンデー毎日』編集部の取材に対するコメント(2008年11月23日号記事『小室哲哉と女たちのセレブレートできない決算』に関連して)
「小室事件」について
「著作物」という眼に見えない無体物を対象とする著作権取引(登録制度を含めて)の不確実性と、音楽著作権特有の権利関係の複雑さが、今回の事件の根底にあるように思います。
今回の事件がこの「不確実性」と「複雑さ」を意図的に悪用したものであれば、著作権ビジネスを支援している者として、非常に残念です。
楽曲や歌詞などの音楽著作物に対して認められる音楽著作権の場合、著作者(作曲家や作詞家)が自ら音楽著作権を管理するケースは、特にプロとして活躍されているアーティストの場合には、ほとんどないのが現状です。著作権法上、作曲家や作詞家が「著作者」であり、彼らが「原始的に」著作権を保有することになるのですが、音楽業界では、自らの著作権を音楽出版者や所属プロダクションに「譲渡」している場合がほとんどで、さらに、かかる「譲渡」を受けた音楽出版者等は、ジャスラック(日本音楽著作権協会)のような「著作権等管理事業者」(注1)と「管理委託契約」を結んで、当該著作権を主として「信託譲渡」する形で、その管理を任せています。そして、この管理事業者(ジャスラック)が、信託譲渡された著作権の管理によって得た「著作物使用料等」を受益者である音楽出版者や作曲家・作詞家等に分配する仕組みになっています。
音楽著作権の場合、以上のような管理システムがほぼ定着しているため、個人の権利者(アーティスト)が自ら著作権を管理しているケースはほとんどありません。
(注1)権利者から著作権の信託譲渡を受けて著作権の管理をしている事業者は、ジャスラック以外にもあるのですが、ジャスラックが圧倒的な数の音楽著作権を管理しているのが実情です。
著作権は、著作者に原始的に発生する権利ですが、財産権ですので、これを他人に「譲渡」することが可能です。「譲渡」のやり方としては、売買や贈与、信託などの方法がありますが、いずれにしても非常に簡単に譲渡することができます。例えば、今回のケースのように億単位の売買による譲渡であっても、書面を交わす必要もなければ、文化庁に登録する必要もありません。実に気軽に当事者の口約束だけでも有効に成立します。
しかし、一方で、著作権の対象である「著作物」というのは、土地建物や自動車などの有体物とは異なり、形がなく、触れることもできません(そのため、著作権や特許権を「無体」財産権と呼ぶ場合があります)。
以上のように、権利の譲渡(のやり方)が簡単で、しかもその権利の対象物が眼に見えないものであるため、著作権取引の現場においては、現在の真の著作権者が一体誰であるのか、問題の著作権がどのような取引過程をたどって現在に至っているのかを外から把握することが非常に難しいという宿命的な問題点があります。
著作権の譲渡が行われた場合、その事実を文化庁に登録しておく制度があります(著作権法77条1号)。不動産取引のように、売買が行われた場合にその事実を法務局に登記することがなかば常識化していれば、取引(譲渡)の実態も把握しやすいのですが、著作権取引においては、残念ながら、この文化庁への登録制度はあまり活用されていないのが実情です。譲渡を受ける音楽出版者やジャスラックでさえ、ほとんど文化庁への登録をしていません。つまり、文化庁への登録は取引の実態を反映していないという問題点もあります。
しかし、今回のケースのように「二重譲渡」が問題となった場合、法律的には、契約締結時期の先後とは関係なく、譲渡の事実を文化庁へ登録してある方が「こちらの譲渡の方が有効だ」と、二重譲渡のもう一方の相手方に堂々と主張することができます(登録している方が強い)。今回、すでにエイベックスやジャスラック等に正式に譲渡されている著作権を、これらが登録されていないことを奇貨として、小室氏の関係する会社名義で文化庁に登録している事実が報道されています。小室氏サイドが、著作権取引の交渉を自己に有利に働かせるために、業界ですらあまり利用されていない文化庁への登録制度を悪用したとすれば(相手方を信用させるために、文化庁の著作権登録原簿の謄抄本が悪用されるケースも考えられます)、業界の慣行も考慮に入れて登録制度そのものを見直す議論が再燃するかもしれません。
文化庁を管轄する塩谷文部科学相は、7日の閣議後の会見で、「著作権登録制度そのものに問題があるとは考えていないが、国民への周知が不十分だった」との見解を示したということです(毎日新聞)。
以下、小室事件の取材に対する金田のコメントです:
『サンデー毎日編集部:事の発端は、小室容疑者が自身の作品の全著作権を保有しており、それを10億円で譲渡すると投資家に持ちかけたことです。しかし、実際は容疑者の著作権は音楽出版社に譲渡され、日本音楽著作権協会が管理していました。そもそも日本では音楽著作権を作者が管理しているケースはどれくらいあるのでしょうか。また、一般的にはどのように管理されているものなのでしょうか。
金田:楽曲や歌詞などの音楽著作権を著作者(作曲家や作詞家)が自ら管理しているケースは、特にプロとして活躍されている方の場合には、ほとんどないのが現状です。著作権法上、作曲家や作詞家が「著作者」であり、彼らが原始的に「著作権」を保有することになるのですが、音楽業界では、自らの著作権を音楽出版者や所属プロダクションに事前に「譲渡」している場合がほとんどで、さらに、かかる「譲渡」を受けた音楽出版者等は、ジャスラック(日本音楽著作権協会)のような「著作権等管理事業者」(注1)と「管理委託契約」を結んで、当該著作権を主として「信託譲渡」する形で、その管理を任せています。そして、この管理事業者(ジャスラック)が、信託譲渡された著作権の管理によって得た「著作物使用料等」(注2)を受益者である音楽出版者や作曲家・作詞家等に分配する仕組みになっています。音楽著作権の場合、以上のような管理システムがほぼ定着しているため、個人の権利者が自ら著作権を管理しているケースはほとんどないと言っていいでしょう。
(注1)権利者から著作権の信託譲渡を受けて著作権の管理をしている事業者は、ジャスラック以外にもあるのですが、ジャスラックが圧倒的な数の音楽著作権を管理しているのが実情です(ほぼ独占状態です)。ちなみに、ジャスラックは「音楽出版社(者)」ではありません。
(注2)今回の報道記事の中で「著作権使用料の一部を差し押さえた」(読売新聞)・「担保は小室容疑者の著作権使用料請求権で、…」(読売新聞)・「著作権が(元妻に)差し押さえられていた」(週刊文春)・「著作権使用の印税収入が前妻により差し押さえられている」(週刊新潮)等ででてくる「著作権使用料(請求権)」・「著作権」・「印税収入」というのは、小室氏が有するこの「著作物使用料等」の請求権のことだと思われます。
サンデー毎日編集部:今回の事件は制度の死角や業界の慣行を悪用したものとする指摘もありますが、もしそうであるなら、一番の問題点は何だとお考えですか。
金田:「著作権」は著作者にもともと発生する権利ですが、財産権ですので、これを他人に「譲渡」することが可能です。「譲渡」のやり方としては、売買や贈与、信託などの方法がありますが、いずれにしても非常に簡単に譲渡することができます。例えば、今回のケースのように億単位の売買による譲渡であっても、書面を交わす必要もなければ、文化庁に登録する必要もありません。実に気軽に当事者の口約束だけでも有効に成立します。しかし、一方で、著作権の対象である「著作物」というのは、土地建物や自動車などの有体物とは異なり、形がなく、触れることもできません(そのため、著作権や特許権を「無体」財産権と呼ぶ場合があります)。以上のように、権利の譲渡が簡単で、しかもその権利の対象物が眼に見えないものあるという宿命を背負っているため、現在の真の著作権者が一体誰であるのか、問題の著作権がどのような取引過程をたどって現在に至っているのかを外から把握することが非常に難しいという問題点があります。著作権の譲渡が行われた場合、その事実を文化庁に登録しておく制度があります(著作権法77条1号)。不動産取引のように、売買が行われた場合にその事実を法務局に登記することがなかば常識化していれば、取引(譲渡)の実態も把握しやすいのですが、著作権の取引においては、残念ながら、この文化庁への登録制度はあまり活用されていないのが実情です。譲渡を受ける音楽出版者やジャスラックでさえ、ほとんど文化庁への登録をしていません。つまり、文化庁への登録は取引の実態を反映していないという問題点もあります。しかし一方で、今回のケースにおいて「二重譲渡」が問題となった場合、法律的には、契約締結時期の先後とは関係なく、譲渡の事実を文化庁へ登録してある方が「こちらの譲渡の方が有効だ」と、二重譲渡のもう一方の相手方に堂々と主張することができます(登録している方が強い)。今回、すでにエイベックスやジャスラック等に正式に譲渡してある著作権を、これらが登録されていないことを奇貨とし、小室氏の関係する会社名義で文化庁に登録してあることが判明しているようですが、業界ですらあまり利用されていない文化庁への登録制度を逆手に取ったとしたら、業界の慣行も考慮に入れて登録制度そのものを見直すきっかけになるかもしれません。さらに、実際は他人にすでに著作権を売却(譲渡)してしまったのに、その他人が登録していないことを幸いとして、現在もまだ自らが正式な著作権者であることを装って、二重譲渡の相手方を信用させるために、文化庁の著作権登録原簿の謄抄本が悪用されるケースも考えられます。』