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『アメリカ連邦著作権法における“編集著作物,”
”集合著作物,” “寄与著作物”の取扱い』
編集著作物とは
「編集著作物」については、定義規定(101条)がありますので、まずは、それを見てみましょう。
A
“compilation” is a work formed by the collection and assembling of preexisting
materials or of data that are selected, coordinated, or arranged in such a way
that the resulting work as a whole constitutes an original work of authorship.
The term “compilation” includes collective works.
《対訳》
「編集著作物」とは、既存の素材又はデータを収集し編成して作成される著作物で、結果として生じる当該著作物が全体として著作者の作成に係る創作的な著作物になるような方法でその既存の素材又はデータが選択され、調整[整理]され、又は配置[配列]されているものをいう。「編集著作物」という用語には、集合著作物を含む。
続いて、「集合著作物」の定義・・・
A
“collective work” is a work, such as a periodical issue, anthology, or
encyclopedia, in which a number of contributions, constituting separate and
independent works in themselves, are assembled into a collective whole.
《対訳》
「集合著作物」とは、定期刊行物、アンソロジー[選集・作品集]、又は百科事典などのように、それ自身が別個独立の著作物となる多数の寄与物が1つの集合体に編成されている著作物をいう。
《解説》
米国著作権法において「編集著作物」(compilation)とは、「既存の素材又はデータ」(preexisting
materials or data)を収集し、編成して作成される著作物で、そのようにして作成された当該著作物が全体として創作的な著作物といえるような方法で、その既存の素材又はデータが「選択」され(selected)、「調整・整理」され(coordinated)、又は「配置・配列」されて(arranged)いるものをいいます。つまり、「編集著作物」は、その中で用いられている素材又はデータの「選択」(selection)・「調整・整理」(coordination)・「配置・配列」(arrangement)に「創作性」が認められるが故に著作物として保護される、という考え方によっています。したがって、既存の素材の収集等が何ら「編集的な選択」(editorial selection)の要素を伴わずに行われるような「機械的な作業」(a
purely mechanical task)に過ぎないものであれば、そのようにして作成された編集物(収集物)は、著作権による保護を受けることはできません。
著作権による保護を受けることができる「編集著作物」としては、以下のような例を挙げることができます。
〇『2023年度ベスト短編小説集』
〇『1980年代懐かしのベストポップミュージック』
〇『2020年度衝撃の報道写真集』
※上の例で、「編集著作物」としてのオリジナリティー(創作性)の有無は、所定の編集方針にしたがって、どの「ベスト短編小説」・「懐かしのベストポップミュージック」・「衝撃の報道写真」を選び、全体の中で、それをどのような順序(配列)で整理したのか、という点にかかっています。
さらに、「編集著作物」には、「集合著作物」(collective work)が含まれるとしています(定義規定第2文参照)。
「集合著作物」とは、上述した定義規定にあるように、「それ自身が別個独立の著作物となる多数の寄与物が1つの集合体に編成されている著作物」のことで、その具体例として、「定期刊行物」・「アンソロジー(選集・作品集)」・「百科事典」を挙げています。「編集著作物」を構成することになるコンテンツは著作物性のない単なる事実やデータであっても、それ自身が著作物性を有する素材であっても構わないのですが、「集合著作物」と呼べるには、それを構成するコンテンツが「著作物」であることが前提となっています。
なお、ベルヌ条約では、「素材の選択及び配列によって」(by reason of the selection and arrangement of their contents)知的創作物となるような編集物をそれ自体として保護する、と明記しており(ベルヌ条約2条(5))、そのような「編集物」(collections)として、「百科辞典」と「アンソロジー(作品集・選集)」を挙げています。
なお、米国著作権法では、その102条(a)で、著作権による保護の対象となる著作物を列挙していますが、ここに「編集著作物」(集合著作物を含む。以下同じ。)という用語自体は直接には出てきません。しかしながら、102条(a)で列挙されている著作物には、「編集著作物」を当然に含んでいると解されます(後記103条(a)参照)。例えば、新聞の個々の記事は「言語の著作物」ですが、新聞全体としては、「編集著作物としての言語の著作物」に該当することになります。
編集著作権(編集著作物に対する保護)(103条)
(a)
The subject matter of copyright as specified by section 102 includes
compilations ……, but protection for a work employing preexisting material in
which copyright subsists does not extend to any part of the work in which such
material has been used unlawfully.
《対訳》
(a)
第102条に規定する著作権の対象には、編集著作物……を含むが、著作権が及ぶ既存の素材を使用する著作物に対する保護は、当該素材が不法に使用されている場合には、それが使用されている当該著作物のその部分には及ばない。
(b)
The copyright in a compilation …… extends only to the material contributed by
the author of such work, as distinguished from the preexisting material
employed in the work, and does not imply any exclusive right in the preexisting
material. The copyright in such work is independent of, and does not affect or
enlarge the scope, duration, ownership, or subsistence of, any copyright
protection in the preexisting material.
《対訳》
(b)
編集著作物……における著作権は、当該著作物の著作者が寄与した素材であって、当該著作物に使用された既存の素材と区別されるもののみに及び、その既存の素材におけるいかなる排他独占的権利を伴うものではない。そのような著作物における著作権は、既存の素材におけるいかなる著作権による保護とも別個独立したものであって、また、その保護の範囲、存続期間、帰属又は存在[有効性]に影響を与えず、又はこれらを拡大しない。
《解説》
編集著作物が「著作権が及ぶ既存の素材を使用するもの」(a work employing preexisting material in which copyright subsists)である場合、その使用が、正当な権利者から正当な許諾を得ずになされた場合など、「不法に」(unlawfully)なされたときには、そのような編集著作物に対する著作権による保護は、当該不法に使用された部分には及びません。わが国においては、旧法下においてこのような「適法要件」を規定していましたが、現行法では、採用されていません(著作権法12条参照)。したがって、米国では、他人の著作権の及ぶ既存の素材を使用して編集著作物を創作(選択・整理・配列)する場合には、当該他人からしかるべき許諾を得ておくことが重要になります。
編集著作物は、「編集物の部分を構成する各著作物の著作権を害することなく」(without prejudice to the copyright in each of the works forming
part of such collections)保護される、というのが国際的な了解事項です(ベルヌ条約2条(5)参照)。米国においても、当然にこのことは妥当し、編集著作権はそこで使用されている既存の素材の著作権とは別個独立のものであることが条文にも明記されています(上記103条(b)参照)。
「集合著作物への寄与物(寄与著作物)」について(201条)
(c)
Contributions to Collective Works.—Copyright in each separate contribution to a
collective work is distinct from copyright in the collective work as a whole,
and vests initially in the author of the contribution. In the absence of an
express transfer of the copyright or of any rights under it, the owner of
copyright in the collective work is presumed to have acquired only the
privilege of reproducing and distributing the contribution as part of that
particular collective work, any revision of that collective work, and any later
collective work in the same series.
《対訳》
(c)
集合著作物への寄与物―集合著作物を構成するそれぞれ別個の寄与物に対する著作権は、当該集合著作物全体に対する著作権とは別個のものであり、当該寄与物の著作者に原始的に帰属する。著作権又は著作権に基づく諸権利の明示的な移転がない場合には、集合著作物の著作権者は、その特定の集合著作物、その改訂版及びその同一の叢書[シリーズ]における以後の集合著作物の一部として、当該寄与物を複製し及び頒布する特別の権利のみを取得したものと推定する。
《解説》
新聞や雑誌などの定期刊行物(集合著作物)に含まれる個々の記事やコラムなどを「集合著作物への寄与物(寄与著作物)」(a
contribution to a collective work)と呼んでいます。米国著作権法の下、そのような、集合著作物を構成する個々の寄与物に対する著作権は、当該集合著作物全体に対する著作権とは別個のものである、と規定されています(201条(c))。さらに、同条において、個々の記事やコラムの著作者からの明示的な著作権の移転がない場合には、集合著作物(新聞や雑誌など)の著作権者は、その特定の集合著作物、その改訂版及びその同一のシリーズにおける以後の集合著作物の一部として、その記事やコラム(寄与物)を複製・頒布できる特別の権利のみを取得したものと推定されます。
AK