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『アメリカ著作権制度の解説/著作権の移転』
▶「著作権の移転」の定義
まず、用語の意味を正確に把握することからはじめましょう。米国著作権法上「著作権の移転」という用語からして、わが国のそれとは内容を異にするからです。
ここで「著作権の移転」(a transfer of copyright ownership)とは、著作権又は著作権に含まれる排他的権利のいずれかについての「譲渡」(an assignment)、その「抵当[譲渡担保]設定」(a mortgage)、「独占的使用許諾」(an exclusive license:第三者に重ねて許諾しないことを約束するもの)その他の移転、譲渡又は担保設定(時間的又は地域的制限の如何を問わない。)をいい、「非独占的な使用許諾」(a nonexclusive license:第三者の使用との併存を認めるもの)については、これを含まないこととされています(101条の定義参照)。
米国著作権法の下では、「移転」の概念の中に、「独占的使用許諾」を含めている点が日本とは大きく異なりますので、注意を要します。
▶著作権の移転の態様
著作権は、その「全部」(in whole)又は「一部」(in part)を移転することができます(201条(d)(1))。この点は、わが国も同様です(著作権法61条1項参照)。著作権は、当然、相続の対象にもなりえます。
もう少し具体的に言うと、「著作権」には、以下の①~⑥の排他独占的権利(支分権)含まれる(106条)ため、これらをまとめて「全部」移転することも可能ですし、このうちの「一部」の支分権だけを移転することも可能になるわけです。そして、このようにして著作権の移転を受けた者は、その限りで、米国著作権法が著作権者に与えるすべての保護及び法的救済を受ける権利を保有することになります(201条d(2)参照)。
① 複製権
② 派生的著作物の創作翻案権
③ 頒布権
④ 公の実演権
⑤ 公の展示権
⑥ デジタル音声送信による公の実演権
▶著作権の移転と所有権の移転の関係
米国著作権法202条は、「有体物の所有権とは別個の著作権」(Ownership of
copyright as distinct from ownership of material object)との見出しのもとで、次のように規定しています:
「著作権又は著作権に基づくいかなる排他独占的権利も、その著作物が収録されている有体物の所有権とは別個のものである。その著作物が最初に固定されたコピー又はレコードを含めて、いかなる有体物の所有権の移転も、それ自体では[自動的に]、当該有体物に収録されている著作権のある著作物に対するいかなる権利をも移転するものではない。また、合意がない場合には、著作権又は著作権に基づく排他独占的権利の移転は、有体物に対する財産権を移転するものではない。」
(原文) Ownership of a
copyright, or of any of the exclusive rights under a copyright, is distinct
from ownership of any material object in which the work is embodied. Transfer
of ownership of any material object, including the copy or phonorecord in which
the work is first fixed, does not of itself convey any rights in the
copyrighted work embodied in the object; nor, in the absence of an agreement,
does transfer of ownership of a copyright or of any exclusive rights under a
copyright convey property rights in any material object.
著作権は、その客体である著作物が表現されている「有体物」の所有権とは別個の権利です。この点、米国著作権法では、上記の1か条を設けて明確に述べています。セクション202条に規定するように、著作物が最初に固定されたコピーやレコードを含めて、有体物(の所有権)の移転(売買等)が行われても、それだけでは、当該有体物で表現されている著作物に対する著作権が移転されたことにはなりません。また、逆に、合意がない限り、著作権の移転があったからといって、直ちに著作物が表現されている有体物に対する所有権まで無条件で移転するものではありません。
わが国でも、以上と同様に解されますが、著作権法にはそれを明示した規定はありません。最高裁の判例として確立した解釈があります(「顔真卿自書告身帳事件」昭和59年1月20日最高裁判所第二小法廷[昭和58(オ)171]参照)。
▶著作権の移転の実行
著作権の移転は、通常、当事者間による契約(売買契約や譲渡契約等)によって行われますが、これが法律上有効(valid)であるためには、一定の法定要件を満たさなければなりません。セクション204条(a)は、このことを明確に規定しています:
§ 204. Execution of transfers of copyright ownership
(a)
A transfer of copyright ownership, other than by operation of law, is not valid
unless an instrument of conveyance, or a note or memorandum of the transfer, is
in writing and signed by the owner of the rights conveyed or such owner's duly
authorized agent.
《対訳》
(a)
著作権の移転は、法の作用によるものを除き、譲渡証書又は移転の覚書若しくは予備的合意書が文書で書面化されており、かつ、移転される権利の所有者又はその適法に授権された代理人によって署名されていない限り、効力を有しない。
以上のように、著作権の移転は、原則として、譲渡証書又は移転の覚書若しくは予備的合意書によって書面化(文書化)されており、かつ、著作権者又はその適法に授権された代理人によって署名されていない限り、「効力を有さない」(not valid)ものとされています。アメリカにおいては、わが国と異なり**、「著作権の移転」に「著作権者の署名の入った書面」(an instrument in writing and signed by the copyright owner)が要求され、これがないと、当該移転は効力を生じないものとされているわけです。これは、詐欺的な行為の防止、将来の紛争の未然防止、当事者(特に著作権者)の慎重な行動を促すといった狙いから設けられたものです。当事者双方の署名ではなく著作権者側の署名のみを問題としている点が特徴的です(したがって、著作権者が権利の移転を受ける者に対して一方的に「差し出す」形式の「売渡証」のような書面であっても構いません)。
**わが国において著作権の移転が有効となるためには、「署名」はもちろんのこと、そもそも「書面化(文書化)」すら要求されていません(署名や文書がなくても、著作権の移転は有効に生じ得る。民法176条参照)。
なお、非独占的な使用許諾(使用権)の移転(transfer of
a right on a nonexclusive basis)については、上述しましたように「著作権の移転」という範疇に入りませんので、必ずしも書面によらなくても(口頭だけでも)有効に成立する余地があります(詐欺防止法[Statute of Frauds]に抵触しない限り、ケースによっては黙示による許諾が認定される場面もありえます)。
▶著作権の移転の「登記」
上述しましたように、著作権の移転自体は、204条の要件を満たすものであれば「有効」なものとなり、著作権局への「登記」(recordation)は必須(mandatory)なものではありません(登記は著作権移転の効力発生要件ではない)。しかし、著作権の移転の事実を(関係書類を含めて)著作権局へ登記をしておきますと、「一定の法律的な利点」(certain legal
advantages)が得られます。
セクション205条(a)は、以上のような「登記の条件」(Conditions for Recordation)を定めています。かなり実務的な話になるので、ここでは詳しい解説は割愛しますが、登記の利点については、特に次の2点について知っておいてください:
① いわゆる「二重移転(譲渡)」における対抗要件(優先的取扱い)の取得(205条(d); Priority
between Conflicting Transfers.)
② 擬制的告知(登記された文書で述べられている事実に関し、すべての者に対し告知したものと擬制されるという効果)の発生(205条(c); Recordation
as Constructive Notice.)
AK