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『アメリカ著作権制度の解説/著作権表示』


▶ 方式主義から無方式主義へ

アメリカは、伝統的に、「著作権表示」(notice of copyright, copyright notice)を著作権による保護の重要な要件と考え、長い間、発行された著作物のコピー又はレコードに「著作権表示」が付されていることを著作権保護の要件としてきました(方式主義の採用)。現行著作権法である1976年制定法(197811日発効)のもとでも、著作権表示は依然として著作権による保護の要件とされ、「方式主義」は堅持されました。
以上のようなアメリカの考え方に対し、現在の国際的なメインストリーム(主流)は、著作権による保護には何らの方式や登録を必要としないとする「無方式主義」の考え方です(ベルヌ条約5(2)**参照)。このように、著作権保護の基本に関する国際的な流れが方式主義を採るアメリカとは180度違っていたため、アメリカは長らくベルヌ条約の枠組みに加わりませんでした。ところが、国境を越えた国際間の保護の必要性がより高い著作権の分野で、その本流(ベルヌ同盟)から取り残されることを危惧したアメリカは、いよいよ198931日にベルヌ条約に加盟することになりました。

**ベルヌ条約5(2)1文:The enjoyment and the exercise of these rights shall not be subject to any formality.
これらの権利[著作権]の享有及び行使には、いかなる方式(の履行)も条件とされない。

以上のような経緯でベルヌ条約に加盟することになったアメリカでは、現行法(1976年法)に、ベルヌ条約の内容に適合させる修正を加えるため(特に方式主義を撤廃するため)に、ベルヌ条約執行法(the 1988 Bern Convention Implementation Act)が制定されました。これにより、「198931日以降」に最初に発行された著作物については、著作権表示を付すことは、「選択的な(optional)」ものとなり、もはや米国における著作権保護の要件とはならなくなりました。もっとも、後述するように、現在でも、一定の要件を備えた著作権表示を付すことによる利点は認められます。

著作権表示が選択的になった現在では、著作権表示を付すか否かは、当該著作権の保有者(著作権者)が自己の責任と判断で行うことになり、著作権表示を付すことに関するアメリカ著作権局の許可や当局への登録などは必要ありません。一方で、適切な著作権表示をすることは、著作物を利用する側(一般大衆)に当該著作物が著作権によって保護されている旨を告知(主張)する機能があり、このことに関連して、著作権の侵害訴訟において一定の法律的な効果が認められています(後述)。そのため、保護要件からはずされたとはいえ、米国においては、現在でも著作権表示を付すことが実務上妥当といえるでしょう。

▶ 著作権表示の意義

著作物又は録音物が著作権者の権限によって合衆国又はその他の場所で「発行される(published)」場合には、その「公に頒布されたコピー(publicly distributed copies)」、又は録音物の「公に頒布されたレコード(publicly distributed phonorecords)」に、著作権表示を付すことができます(米国著作権法401(a)**, 402(a)**)

**米国著作権法401(a)
401. Notice of copyright: Visually perceptible copies
(a) General Provisions.—Whenever a work protected under this title is published in the United States or elsewhere by authority of the copyright owner, a notice of copyright as provided by this section may be placed on publicly distributed copies from which the work can be visually perceived, either directly or with the aid of a machine or device.
《対訳》
401(著作権表示:視覚的に知覚できるコピー)
(a) 総則 - 本編に基づいて保護される著作物が、著作権者の権限によって、合衆国その他の場所で発行される場合には、直接に又は機械若しくは装置を用いて当該著作物を視覚的に知覚できる公に頒布されたコピーに、本条に規定する著作権表示を付すことができる。

**米国著作権法402(a)
402. Notice of copyright: Phonorecords of sound recordings
(a) General Provisions.—Whenever a sound recording protected under this title is published in the United States or elsewhere by authority of the copyright owner, a notice of copyright as provided by this section may be placed on publicly distributed phonorecords of the sound recording.
《対訳》
**402(著作権表示:録音物のレコード)
(a) 総則 - 本編に基づいて保護される録音物が、著作権者の権限によって、合衆国その他の場所で発行される場合には、公に頒布された当該録音物のレコードに本条に規定する著作権表示を付すことができる。

ここで、「発行」(publication)**とは、「販売その他の所有権の移転又は貸与によって、公衆に著作物のコピー又はレコードを頒布すること」をいいます(101条)。「その後の頒布、公の実演又は公の展示を目的として、ある1の集団にコピー又はレコードを頒布するための提供」もまた、「発行」に当たるとされています。一方、著作物の公の実演や公の展示、コピーの印刷ないし増刷、さらには著作権局へのコピーの提出などは、それ自体のみでは「発行」に該当するものではありません。
なお、「発行」(「頒布」についての定義規定はありませんが、これは、基本的には「発行」と同義になる場合が多いと考えて差し支えないと思います。)の他、「公に」、「コピー」、「レコード」、「実演する」、「展示する」についても定義規定が設けられていますので、そちらも参照してください。

**米国著作権法101[「発行」の定義]
Publication is the distribution of copies or phonorecords of a work to the public by sale or other transfer of ownership, or by rental, lease, or lending. The offering to distribute copies or phonorecords to a group of persons for purposes of further distribution, public performance, or public display, constitutes publication. A public performance or display of a work does not of itself constitute publication.
《対訳》
「発行」とは、販売その他の所有権の移転又は貸与によって、公衆に著作物のコピー又はレコードを頒布することをいう。その後の頒布、公の実演又は公の展示を目的として、ある1の集団にコピー又はレコードを頒布するために提供すること[頒布しようとすること/頒布する申し出を行うこと]は、発行となる。著作物の公の実演又は公の展示は、それ自体で[自動的に]、発行となるものではない。

以上のように、著作権表示は、著作物が「発行」される場合に付すことができるもので、「未発行」の著作物については付す必要はありません。しかし、実際の場面で、ある行為が著作権法上要求される「発行」に該当するか否か容易に判断できない場合もあります(とりわけ、「発行」に向けての一連の作業が進行している場合に、その準備段階と実際の「発行」段階との線引きが難しい場面があります)。そのため、著作権者としては、「発行」に当たるか否か微妙な場面で、さらには明らかに「発行」に該当しない場合でも、自己の著作権を主張するために、自己の支配を離れる著作物のコピー又はレコードに適切な表示を付すことを望む場合があります。このような場合には、次のような表示を付すことができます:Unpublished work © 2024 Akihiko Kaneda

▶ 著作権表示の法律的効果

著作権表示が選択的になったとはいえ、適切な著作権表示をすることは、著作物を利用する側(一般大衆)に当該著作物が著作権によって保護されている旨を告知(主張)する機能があり、このことに関連して、著作権の侵害訴訟において一定の法律的な効果が認められていることは、前に一言しました。
ここに「一定の法律的な効果」は米国著作権法401(d)**及び402(d)に規定されています。その内容な次のとおりです:ある著作物について著作権の侵害が行われ、これが裁判所で問題となった場合、もし当該侵害者が「善意の侵害の抗弁」(innocent infringement defense)すなわち当該著作物が著作権によって保護されていることを知らなかったと主張するときは、賠償すべき損害額が裁判所によって減額される可能性があります。ところが、当該著作物について適切な著作権表示がなされていれば、裁判所は、被告側(侵害者側)のそのようの「善意の侵害の抗弁」を原則的に認めないということです。
なお、この点に関しては、「Maverick Recording Co. v. Whitney Harper」事件参照。

**米国著作権法401(d)
(d) Evidentiary Weight of Notice. If a notice of copyright in the form and position specified by this section appears on the published copy or copies to which a defendant in a copyright infringement suit had access, then no weight shall be given to such a defendant's interposition of a defense based on innocent infringement in mitigation of actual or statutory damages, except as provided in the last sentence of section 504(c)(2).
《対訳》
(d) 表示の証拠的価値 - 本条に明記する形式及び位置の著作権表示が、著作権侵害訴訟の被告がアクセス[接近・入手]した、すでに発行されているコピーに現われている場合には、被告の善意の侵害に基づく抗弁は、第504(c)(2)の最終文に定める場合を除き、現実的損害賠償金又は法定損害賠償金を減額する上で、一切考慮されないものとする。

©記号に代表される著作権表示は、現在では保護要件となっていませんが、法令に準拠した適切・適式な著作権表示をすると、以上のような重要かつ有用な法律上の効果が得られます。したがって、著作権表示を適切・適式に付すことが実務上賢明であるといえるでしょう。なお、法令に準拠した適切・適式な表示でないとかかる効果が認められないため、著作権表示を実行するのであれば、是非とも、以下に解説するような「適切・適式」な表示に心がけてください。

▶ 著作権表示の形式(form of notice)

著作権表示の形式は、「視覚的に知覚できるコピー」(visually perceptible copies)-例えば、書籍やフィルムなど、直接に又は機械・装置を用いて視覚的に著作物を知覚できる有体物のこと-と、「録音物のレコード」(phonorecords of sound recordings)-例えば、CDやカセットなど、音声が固定された有体物のこと-とで若干異なりますので、以下分けて解説します。

(a) 視覚的に知覚できるコピーの場合(401(b)

適切・適式な表示の例: © 2024 Akihiko Kaneda

視覚的に知覚できるコピーに対して著作権表示を適切に付すためには、次の3つの要素(elements)が含まれていなければならず、かつ、これらの3つの要素が一体的に(一緒に又は隣接して)表示されていなければなりません。
① ©の記号(円の中のCの文字)、又は「Copyright」の語、又は「Copr.」の略語。
参考までに、方式主義の採用している万国著作権条約(the Universal Copyright Convention/日米ともにUCC同盟国です。)では、©の記号のみが認められ、“Copyright”の語又はその略語の表記は、適正な表示として認められていません(UCC31参照)。
② 著作物が最初に発行された年。
編集物(例えば、アンソロジー[選集・作品集])又は以前に発行された素材を包含する二次的著作物(例えば、原作を翻訳や脚色したもの)の場合には、その編集物又は二次的著作物の最初の発行年を表示すれば十分です。
なお、絵画、図形又は彫刻の著作物については、当該著作物が(これに付属する文章があれば、それとともに)グリーティング・カード、はがき、文房具類、宝飾品、人形、玩具その他の実用品に複製される場合には、発行年を省略することができます。
③ 著作物の著作権者の氏名・名称、又はその氏名・名称を認識できる略称、又は当該著作権者の一般的に知られている代わりの名称。

(b) 録音物のレコードの場合(402(b)

適切・適式な表示の例: (P)(マルの中にPの文字) 2024 ABC. Records, Inc.

上述しました©記号は、「視覚的に知覚できるコピー」にのみ表示することができます。米国著作権法上、テープやCD等のディスク、LPレコードなど、音声が固定(録音)されている有体物は、「コピー」ではなく、「レコード」として扱われます(そこに固定されたサウンド(音声)が「録音物」(Sound recordings)という概念です)。「録音物」とそこに収録(録音)されている「もともとの著作物」(the underlying work)とは別個の著作物として扱われることになるため(つまり、アメリカでは、例えば、ある音楽著作物A、演劇著作物B、言語著作物Cを音声によってテープに録音したとすると、その「録音物」(テープの中の音声)と、もともとの著作物ABCとは区別しなければなりません)、「コピー」とは別に、「録音物のレコード」についての著作権表示を規定しておく必要があります。

録音物のレコードに対して著作権表示を適切に付すためには、次の3つの要素(elements)が含まれていなければならず、かつ、これらの3つの要素が一体的に(一緒に又は隣接して)表示されていなければなりません。
   (P)の記号(円の中にPの文字)。
② 録音物の最初の発行年。
③ 録音物の著作権者の氏名・名称、又はその氏名・名称を認識できる略称、又は当該著作権者の一般的に知られている代わりの名称。
当該録音物の製作者の氏名・名称がレコードのラベル又はケースに記されており、かつ、その表示とともに他のいかなる氏名・名称も記されていない場合には、当該製作者の氏名・名称は、著作権表示の一部とみなされます。

▶ 著作権表示の位置(position of notice)

著作権表示は、「著作権の主張を適切に表示するような態様と位置もって」、コピーに付されなければなりません(401(c))。また、同条では、著作権局長は、実例として、この要件を満たす、さまざまな種類の著作物への表示にかかる特定の添付及び配置の方法を規則により定めなければならないと述べ、より具体的な表示のやり方及び実例について、著作権局長による規則(regulation)に委任しています(米国著作権法規則201.20参照)。なお、当該規則で明記される実例は、「網羅的な」(exhaustive)ものであってはならないとされています(401(c)最終文参照)。
一方、録音物のレコードについても、「著作権の主張を適切に表示するような態様と位置もって」、レコードの表面又はレコードのラベル若しくはケースに付されなければならないと規定しています(402(c))。

以上にいう「著作権の主張を適切に表示するような態様と位置もって」という要件は未だ抽象的過ぎるため、上述しましたように、この要件を満たすような「実例」が、著作権局長によって、規則に、それもかなり細かく定められています。ただ、ここで1つ注意していただきたいことは、条文にも明記されているとおり、著作権局長が当該規則で定める著作権表示の「添付及び配置の方法」(実例)は、決して”exhaustive”な(「網羅的な」)ものと解してはならず、規則に掲げられていない表示若しくはこれと異なる表示をしたからといって、それが直ちに「適切・適式なものではない」と評価されるものでは必ずしもないということです。もっとも、当該規則で定めているやり方が適切・適式な著作権表示に対する一定の有力な指針を与えていることは間違いなく、著作権表示をする場合には、この規則のやり方に準拠することをお勧めします。
適切・適式な表示の要点は、つまるところ、著作物の通常の使用状態で、普通のユーザーが永続的に明瞭に判読できるような表示であるべきだ、ということになりそうですが、ここでは、これ以上の細かな規則の解説は割愛します。具体的な著作物に関する表示の適切・適式な位置と配置方法について更に詳しく知りたい方は、お問合わせください。
AK