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役立つ記事

『共有著作権とは?著作権の共有には注意すべき点があります』

▶ 「共有著作権」とは

「共有著作権」とは、「共同著作物の著作権その他共有に係る著作権」をいいます(651項かっこ書)。そして、著作権の共有とは、数人の者が共同で1つの著作権を保有する状態をいいます。共同著作物(2112号参照)を作成した場合、同一の著作権を数人の者が譲り受けた場合、同一の著作権を数人の相続人が共同相続した場合などにこのような共有関係が発生します。
共有著作権については、原則として(共有著作権の性質に反しない限り)、民法の共有に関する規定(民法249条~264条)が適用されることになります**が、著作権法では、著作権の特質等の観点から特別の定めが設けられていますので、その点に留意する必要があります。

**共有著作権の各共有者は、原則として、当該著作権について各自「持分」を有し、共有著作物の全部について、その持分に応じた使用をすることができます(民法249条)。「持分の割合」は、共有者間の協議や法律の規定(例えば、民法900条)によって定められますが、それ以外の場合には、各共有者の持分は相等しいものと推定されます(民法250条)。

▶ 共有著作権の行使(65)

共有著作権の各共有者は、原則として、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を質権の目的とすることができません(1項)。もっとも、各共有者は、「正当な理由」がない限り、以上の同意を拒むことができないとされています(3項)。一方、相続による持分の移転、持分の放棄、(他の共有者の同意を得て設定された)持分上の質権の実行による移転等の場合には、他の共有者の同意は不要です。なお、ある共有者の持分が放棄されますと、当該持分は他の共有者に帰属することになります(民法255)

共有著作権は、原則として、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができません(2項)。単独での行使を認めた場合、他の共有者が不測の不利益を被る場合があろうことを考慮したものです。したがって、例えば、共有者の一人が、他の共有者との合意によらないで、単独で第三者と共有著作物の利用許諾契約をした場合、かかる著作権の行使は、他の共有者の持分権を侵害するものと解されます。
なお、民法252条においては、共有物の管理に関する事項は「各共有者の持分の価格に従い、その過半数で」決せられることになっていますが、共有著作権の行使の場合には、そのようないわゆる多数決原理によるのではなく、各共有者の持分の多少に関わらず、全員の合意によるというルールが原則的に適用されることになります。ここで共有著作権の「行使」とは、著作権の内容を積極的に実現すること、すなわち、共有著作権の目的となっている著作物について他人に利用許諾を与えること(631項参照)等を意味し、共有著作権の侵害に対する差止請求権の行使(保存行為)等は含まれないと解されます(117条参照。後述)。もっとも、各共有者は、著作権の円滑な利用を確保する観点から、「正当な理由」がない限り、以上の合意の成立を妨げることはできないとされています(3項)。ここにいう「正当な理由」は、共同著作物の著作者人格権の行使に関して各共同著作者が合意の成立を拒絶しうる場合(642項参照)と比べて、より客観的な合理性が求められると解されます。

共有著作権の行使について「代表して行使する者」をあらかじめ各共有者間で定めることができますが、この代表権に制限が加えられている場合には、対内的には拘束力があっても、その制限を知らない善意の第三者(代表者が一定の行為につき権限を有すると信じて行動した第三者)には対抗することはできません(そのような制限があることを主張することはできません)(4項)。

共同著作物の著作者人格権の行使

共同著作物(2112号参照)の著作者人格権は、原則として、著作者全員の合意によらなければ、行使することができません(法641項)。共同著作物における著作者の(人格の)一体性を考慮した規定であるといわれています。ここで、著作者人格権の「行使」とは、著作者人格権の内容を積極的に実現すること、すなわち、自己の著作物の公表(181項参照)・氏名表示(191項参照)・同一性保持(201項参照)について他人に一定の許諾を与えること等を意味し、著作者人格権の侵害に対する差止請求権の行使(保存行為)等は含まれないと解されます(117条参照。後述)。
共同著作者のうちすでに死亡した者がある場合には、生存している著作者の合意のみで著作者人格権を行使することが可能です。死亡した著作者の相続人の合意を得る必要はありません。著作者人格権は、著作者の一身に専属し、相続の対象にもなり得ないからです(59条)。もっとも、著作者の死後においても法によってその人格的利益が保護されているため(60条・116条参照)、生存共同著作者の合意に基づく著作者人格権の行使によっても、すでに死亡している共同著作者の人格的利益を害することはできません。

各共同著作者は、単なる嫌がらせのような信義に反する行為(倫理観念等に反する行為)によって、上記の権利行使の合意の成立を妨げることはできません(2項)。恣意的な共同著作者の不当な拒絶によって人格権の行使が妨げられる事態を防止するための規定です。信義に反して合意の成立を拒む者に対しては、訴訟を提起して、民事執行法177条の規定による合意判決を得て、それによって反対著作者の認諾があったものとみなすという取扱いで著作者人格権を行使することになります。

共同著作物の著作者は、著作者人格権の行使について「代表して行使する者」をあらかじめ各共有者間で定めることができます(3項)が、この代表権に制限が加えられている場合には、対内的には拘束力があっても、その制限を知らない善意の第三者(代表者が一定の行為につき権限を有すると信じて行動した第三者)には対抗することはできません(そのような制限があることを主張することはできません)(4項)。

▶ 共同著作物等の権利侵害

共同著作物の各著作者は、他の著作者の同意を得ないで各人がそれぞれ、著作者人格権の侵害に対し差止請求権(112条)を行使することができます(法1171項)。侵害行為に対して著作者全員の共同意思に基づかなければその差止が請求できないとすることは権利の実効性の面で著作者に不利であると考えられるからです。
一般に、共有財産権の侵害については、各共有者は単独で共有財産権全体に対する妨害の排除を請求することができるものとされていて、共有著作権や共有著作隣接権の侵害の場合における差止請求権についても、各共有権者による単独の行使が認められるところです(2項)。共同著作物の著作者人格権の侵害の場合にも、各著作者の人格的利益がその1つの共同著作物に混然一体となって融合していることから、その侵害に対する差止請求権の行使については、共有財産権の場合と異なる取扱いをする必要性はありません。ただ、法64条に引きずられて反対に解されるおそれもあるため、法1171項で確認的に規定したものです。

共同著作物の著作者人格権が侵害された場合において各著作者が単独でそれぞれの損賠賠償を請求できるかについては、著作者人格権にはその性質上「持分」を考えることができないため、法117条では規定されていません。もっとも、規定されていないことは、各著作者が自ら蒙った精神的損害を立証して、かかる損害の賠償を請求することを排除する趣旨ではないと考えます。したがって、各著作者が自らが蒙った精神的損害を立証できれば、かかる賠償請求を違法・不当とするべきではないと思います。
117条では、著作者人格権の侵害を理由とする名誉回復等の措置請求(115条)についても明記されていません。この場合、通説は、どのような名誉回復等の措置を請求するかは著作者全員の合意を必要とする、と解しているようです。ただ、例えば、共同著作者の一人の氏名だけが意図的にないし明らかな悪意をもって削除されていたり、表示されていないような場合には、必ずしも他の著作者の同意を得る必要はないと思います。事案に応じて、裁判所の合理的判断が期待されるところです。

共同著作物の各著作権者又は共有に係る著作権の各著作権者は、他の著作権者の同意を得ないで各人がそれぞれ、差止請求(112条)又はその著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償の請求(民法709条参照)若しくは自己の持分に応じた不当利得の返還の請求(民法703条参照)をすることができます(1171項・2)。共有に係る著作隣接権についても同様です(同2項)。

共有者のよる不実な登録に対する他の共有者による抹消請求の可否

この点については、以下の裁判例(▶平成140829日大阪地方裁判所[平成11()965])が参考になります:

『また、本件ソフトウエアの著作権は、前記(1)のとおり、本件登録[注:被告Eは、平成10年1月28日、本件ソフトウエアのプログラムの著作権者として、財団法人ソフトウエア情報センターにおいて、プログラムの第一発行年月日等の登録を行った。]において著作物が最初に公表された年月日とされた平成9年8月4日時点では、原告と被告Eの共有であり、著作権者を被告Eのみとする本件登録は、この点で実体に反するものといえる。
著作権法76条1項の第一発行年月日等の登録は、著作権者が当該著作物が最初に発行され又は公表された年月日の登録を受ける制度であり、その法律上の効果は、登録に係る年月日にその著作物が第一発行又は第一公表されたものと推定されることにあるが(同条2項)、加えて、著作権登録原簿に著作者として登録されている者が著作権者であることを公示する事実上の効果があり、この事実上の効果を期待して登録が行われることも少なくない。
共有著作物について、共有者の一部の者が単独で著作者として第一発行年月日の登録をした場合、著作権者として登録されなかったその余の共有者は、その後、著作権登録申請(著作権法77条)をしようとしても、著作権登録申請書に前登録の年月日及び登録番号を記載することが要求されていること(著作権法施行規則8条の3第1項、別記様式第六4〔備考〕2、同様式第三〔備考〕6)から、前登録である第一発行年月日登録の内容と齟齬するものとして拒絶されるおそれがあり、また、第三者に対する権利行使において、自己が著作権者の一人であることの立証につきより重い負担を負うことになるなど、円満な著作権の行使を事実上制約されることになる。この点において、著作権者以外の者が第一発行年月日の登録を受けた場合と変わりない。したがって、著作権の共有者は、自己が持分を有する著作物について、共有者の一部の者が自分を単独の著作者と表示して著作年月日登録をした場合には、当該他の共有者に対して、当該著作年月日登録の抹消登録手続を求めることができると解するのが相当である。
以上によれば、原告の被告Eに対する本件登録の抹消登録手続請求は理由がある。』
AK