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著作権判例セレクション
【写真著作物】実験の様子を撮影した写真等の著作物性
▶令和4年11月28日東京地方裁判所[令和2(ワ)29570]
写真及び図表の著作物性
原告は、原告報告書[注:「脳機能NIRSを活用した交通安全対策の評価手法に関する調査(平成28年度)」と題する報告書のこと]に掲載された写真及び図表のうち、本件図4ないし8、図13、図16~22、図33~36にそれぞれ創作性が認められる旨主張するため、以下、原告報告書に記載された順に従って、その著作物性の有無を検討する。
ア 本件図4について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図4は、本件実験に用いる実験車内の機器設定の状況を示すために、その右側面(本件図4A)及び後方(本件図4B)から実験車両を撮影したものであり、いずれも、実験車両の外観や機器の状況を視覚的に端的に理解することができるように、被写体の状況を踏まえ、構図、撮影ポジション・アングルの選択、明るさ等を工夫して撮影したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図4は、上記の工夫において創作性を認めるのが相当であるから、写真の著作物に該当するものといえる。
イ 本件図5について
(ア) 本件図5(写真部分)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図5(写真部分)は、本件実験に用いられたDS及びfNIRSの形状等を示すために、被験者がシミュレーションを実施中のDSの外観を左後方からそれぞれ撮影したものであり、DSが実車乗車時と同様の視界や道路環境を再現したものであることを視覚的に端的に理解することができるように、被写体の状況を踏まえ、構図、撮影ポジション・アングルの選択、明るさ等を工夫して撮影したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図5(写真部分)は、上記の工夫において創作性を認めるのが相当であるから、写真の著作物に該当するものといえる。
(略)
エ 本件図7について
(ア) 本件図7A及びBについて
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図7A及びBは、頭部アタッチメントを装着した様子を示すために、①本件実験に用いられた頭部アタッチメントの形状を真上から撮影したもの(図7A)及び②当該頭部アタッチメントを被験者が実際に装着した際の様子を前方、後方、右方、左方の4方向から撮影したもの(図7B)であり、いずれも、頭部アタッチメントの形状やその装着状況を視覚的に端的に理解することができるように、被写体の状況を踏まえ、構図、撮影ポジション・アングルの選択、明るさ等を工夫して撮影したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図7A及びBは、上記の工夫において創作性を認めるのが相当であるから、写真の著作物に該当するものといえる。
(略)
オ 本件図8について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図8は、被験者の実験時の様子を示すために、実車運転中の被験者を左方及び右方から、それぞれ撮影したものであり、頭部アタッチメントを装着して実車を運転中の被験者の状況を視覚的に端的に理解することができるように、被写体の状況を踏まえ、構図、撮影ポジション・アングルの選択、明るさ等を工夫して撮影したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図8は、上記の工夫において創作性を認めるのが相当であるから、写真の著作物に該当するものといえる。
(略)
ク 本件図17について
(ア) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図17の作成経緯として、①本件実験において、被告I及びJは、東京大学の所有するアイトラッカーを被験者に着用させ、その状態で自動車を運転させることにより、映像データ及びドライバーの視線の座標情報を取得したこと、②上記映像データ及び座標情報は、脳の活動の計測と関係するものではないこと、③東京大学は、上記映像データ及び座標情報を持ち帰り、これらを解析した上で合成した動画(以下「本件動画」という。)を作成したこと、④その後、東京大学は、本件動画を原告に共有したこと、⑤原告は、本件動画の一部をトリミングして静止画を作成し、本件図17を作成したこと、⑥本件図17は、本件実験の結果、脳活動の亢進が始まったと考えられる664m地点において、被験者から情報板が視覚的に確認できることを示すために、同地点における実験車両から前方の視界を示したものであること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、本件動画は、原告が担当していた脳の活動の計測等とは関係なく、東京大学が、自らの研究目的のために、自らが準備した機材を用いて取得した映像及びデータを解析・統合し、これを編集して作成したものであることが認められる。そうすると、本件動画に創作性が認められるとしても、これに関与したのは東京大学であるから、その著作権は、東京大学に帰属するというべきである。
これに対し、原告は、アイトラッカーを被験者に装着させるに当たって、fNIRSとの干渉を避けるために原告の従業員が調整を行った旨主張するものの、これを認めるに足りる的確な証拠は存在しない。仮に、原告が主張するとおり、原告の従業員が上記調整に関与していたとしても、上記認定に係る本件動画の撮影目的や撮影経緯に照らせば、当該従業員は、fNIRSとの干渉を避ける限度で付随的な調整をしたにすぎず、本件動画の製作に創作的に関与したものとはいえないから、創作性に関する上記判断を左右するものとはいえない。
(イ) そして、上記認定事実によれば、本件図17は、本件動画の一部をトリミングしたものにすぎないことが認められることからすると、本件動画について原告に著作権が帰属しない以上、本件図17についても原告に著作権が帰属するものとはいえない。
したがって、本件図17は、原告に著作権が帰属しない以上、原告の著作権侵害が成立する余地はない。
これに対し、原告は、本件動画という連続する膨大な映像の中から本件図17の映像を選択する作業は、自動車の走行中に、適切と判断した瞬間に写真を撮影する行為と実質的に同じであるとして、仮に本件動画の著作権が東京大学に帰属するとしても、本件図17には二次的著作物としての著作物性が認められる旨主張する。
しかしながら、前記認定事実によれば、本件図17は、本件実験の結果、脳活動の亢進が始まったと考えられる664m地点において、被験者から情報板が視覚的に確認できることを示すために、同地点における実験車両から前方の視界を示したものであることが認められる。そうすると、本件図17は、本件動画から特定の地点のものを選択したものにすぎないことからすると、その選択自体に個性等が表出しているものとはいえず、これに二次的著作物としての創作性を認めることはできない。
したがって、原告の主張は、採用することができない。
(略)
ソ 以上によれば、原告報告書のうち、本件図4、5(写真部分)、図7A及びB、図8(以下、併せて「原告各著作物」という。)については著作物性が認められ、かつ、原告がその著作権を有するものと認められる。その他に、原告のその余の主張及び原告提出の証拠を改めて検討しても、上記において説示した当該図の内容、性質等を踏まえると、前記判断を左右するに至らない。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。