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著作権判例セレクション
【引用】 動画からキャプチャした静止画の投稿が問題となった事例
▶令和4年11月24日東京地方裁判所[令和3(ワ)24148]▶令和5年7月13日知的財産高等裁判所[令和5(ネ)10001等]
(注) 本件は、原告が、被告の管理するブログに原告が著作権を有する各動画(「本件各動画」)をキャプチャした静止画が投稿され、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害された旨を主張して、被告に対し、不法行為(民法 709 条)に基づき、所定の損害賠償金等の支払を求めた事案である。
1 著作権(複製権、公衆送信権)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の成否
(1)
前提事実のとおり、著作物である本件各動画につき、原告は著作権を有する。
また、前提事実のとおり、被告は、別紙投稿記事目録記載の「投稿日時(タイムスタンプ)」欄記載の日時から令和2年 5月11日までの間、本件各記事に、本件各動画からキャプチャした本件静止画を掲載した。
以上の事実によれば、被告は、少なくとも過失により、本件各動画をキャプチャした本件静止画を自己の端末内で複製し、これを本件各記事に掲載して本件ブログに投稿することによってウェブサイト上で公開し、もって、原告の本件各動画に係る著作権(複製権、公衆送信権)を侵害したものと認められる。
したがって、原告は、被告に対し、著作権(複製権及び公衆送信権)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有することが認められる。
(2)
被告の主張について
ア 争点(1)(引用の抗弁の成否)について
被告は、本件各記事による本件各動画の利用は適法な引用(法32条1項)に当たる旨を主張する。
しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各記事は、いずれも、約30枚~60枚程度の本件各動画からキャプチャした静止画を当該動画の時系列に沿ってそれぞれ貼り付けた上で、各静止画の間に、直後に続く静止画に対応する本件各動画の内容を1行~数行程度で簡単に要約して記載し、最後に、本件各動画の閲覧者のコメントの抜粋や被告の感想を記載するという構成を基本的なパターンとして採用している。各静止画の間には、上記要約のほか、被告による補足説明やコメント等が挟まれることもあるが、これらは、関連する動画(URLのみのものも含まれる。)やスクリーンショットを 1個~数個張り付けたり、1行~数行程度のコメントを付加したりしたものであり、概ね、各静止画及びこれに対応する本件各動画の内容の要約部分による本件各動画全体の内容のスムーズな把握を妨げない程度のものにとどまる。また、本件各記事の最後に記載された被告の感想は、いずれも十数行~二十数行程度であり、本件各動画それぞれについての概括的な感想といえるものである。
以上のとおり、本件各記事は、いずれも、キャプチャした静止画を使用して本件各動画の内容を紹介しつつそれを批評する面を有するものではある。しかし、本件各記事においてそれぞれ使用されている静止画の数は約30枚~60枚程度という多数に上り、量的に本件各記事のそれぞれにおいて最も多くの割合を占める。また、本件各記事は、いずれも、静止画と要約等とが相まって、45分程度という本件各動画それぞれの内容全体の概略を記事の閲覧者が把握し得る構成となっているのに対し、本件各記事の最後に記載された投稿者の感想は概括的なものにとどまる。
以上の事情を総合的に考慮すると、本件各記事における本件各動画の利用は、引用の目的との関係で社会通念上必要とみられる範囲を超えるものであり、正当な範囲内で行われたものとはいえない。
したがって、本件各記事による本件各動画の利用は、適法な「引用」(法32条1項)とはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
[控訴審同旨]
2 争点(1)(引用の抗弁の成否)について
(1)
他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要である(法32条1項後段)。
(2)
これを本件についてみるに、証拠によると、本件動画1ないし7は、三十数分ないし五十数分の動画であるところ、本件記事1ないし7は、いずれも30枚ないし70枚程度の本件静止画を用い、これらをそれぞれ本件動画1ないし7における時系列に従って貼り付けた上、各静止画の間に、直後の静止画に対応する本件動画1ないし7の内容を1行ないし数行でまとめた要約を記載し、最後に、動画閲覧者のコメント及び本件動画1ないし7に対する控訴人の概括的な感想ないし批評を記載したものであると認められる。そうすると、本件記事1ないし7については、本件動画1ないし7に対する控訴人の感想ないし批評を述べる目的で本件動画1ないし7を引用したという側面を有することは否定できないものの、30枚ないし70枚程度にも及ぶ本件静止画の貼付けは、各静止画の間に記載された要約ともあいまって、本件記事1ないし7の閲覧者において、本件記事1ないし7の内容を見ただけで三十数分ないし五十数分の本件動画1ないし7の全体をほぼ把握できるようにするものであるといえ、本件記事1ないし7における本件動画1ないし7の引用の方法ないし態様は、本件動画1ないし7に対する控訴人の感想ないし批評を述べるとの目的との関係で、社会通念上合理的な範囲内のものであるということはできない。
(3)
また、証拠によると、本件動画8は、四十数分程度の動画であるところ、本件記事8は、冒頭部分で、本件動画8の出演者(「虎」と呼ばれる投資家に対して投資を依頼する「志願者」と呼ばれる者)の属性、同出演者と被控訴人代表者との関係等を紹介した上、これらに関して本件動画8に係る静止画3枚を貼り付け、次いで、本件動画8の終盤部分に関して本件記事1ないし7と同様の記載及び静止画4枚の貼付けをし、最後に、本件動画8に対する控訴人の概括的な感想ないし批評を記載したものであると認められる。そうすると、本件記事8についても、本件動画8に対する控訴人の感想ないし批評を述べる目的で本件動画8を引用したという側面を有することは否定できないものの、少なくとも同出演者の属性、同出演者と被控訴人代表者との関係等に係る静止画の貼付けは、本件動画8に対する控訴人の感想ないし批評を述べるとの上記目的との関係で必要なものではなく、この点で、本件動画8の引用の方法ないし態様は、本件動画8に対する控訴人の感想ないし批評を述べるとの目的との関係で、社会通念上合理的な範囲内のものであるということはできない。
(4)
この点に関し、控訴人は、本件各動画の引用は①主従関係の明確性、②明瞭区分性、③引用の必要性、④出典の明示、⑤改変しないことの5つの要件を満たすから適法であると主張するが、前記(2)及び(3)のとおり、本件各動画の引用は、引用の目的上正当な範囲内で行われたものではないから、仮に控訴人の主張を前提としても、本件各動画の引用については引用の必要性を欠くというべきである。
(5)
以上のとおりであるから、控訴人による本件各動画の引用が法32条1項により許されるということはできない。