Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【引用】 SNS動画からキャプチャした画像(静止画)のアンチスレへの投稿を適法引用と認めなかった事例
▶令和4年11月10日東京地方裁判所[令和4(ワ)11853]
1 争点 1-1(本件各原動画の著作物性及び原告の著作権の有無)
証拠によれば、本件各原動画は、いずれも、原告及び原告の家族を被写体として、原告の自宅や外出時における原告の家族の日常生活の様子等を撮影したものであることが認められる。また、その内容から、その撮影にあたり、原告の子どもの成長の様子や、原告と原告の妻、原告の子どもとの間のやり取りを通じた家族それぞれの表情等が伝わるように、撮影の場面及び方法を工夫して制作されたものであることがうかがわれる。これらの事情に鑑みると、本件各動画は、撮影者の思想又は感情を創作的に表現したものとして、いずれも著作物性が認められる。
さらに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各原動画は、いずれも、原告が、原告又は原告の妻の撮影機器を用いて、被写体の配置、ポーズ、調光、撮影の流れ、展開等を考えて自ら撮影し、又は原告の妻に指示をして撮影させたものと認められる。このため、本件各原動画は、いずれも、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、原告又は原告の妻の撮影機器の記録媒体に電磁的に記録されて固定されたものといえるから、映画の著作物(著作権法2条3項)に該当し、その全体的形成に創作的に寄与した者である原告が著作者としてその著作権を有するものと認められる。
加えて、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、原告又は編集業者において本件各原動画にテロップ付け等の編集を施して本件各SNS動画を作成し、これを原告チャンネルに投稿したものの、上記編集は、本件各原動画の場面を説明したり、原告やその家族の発言内容を視覚的に表示したりしたものに過ぎないことがうかがわれる。そうすると、本件各 SNS動画も、本件各原動画と同じく、原告が著作権を有する著作物と認められる。
上記認定に反する被告らの主張はいずれも採用できない。
2 争点 1-2(複製権及び公衆送信権侵害の有無)
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各画像は、本件各SNS動画の一時点の映像をキャプチャして静止画として作成したものであることが認められる。すなわち、本件各画像は、本件各原動画及び本件各SN 動画(以下、併せて「本件各原動画等」という。)の一場面と同一のものである。
そうすると、本件各記事の各発信者は、それぞれ、被告らが提供するインターネット接続サービスを利用して本件各画像を含む本件各記事を本件スレッド上に投稿することにより、本件各原動画等の一部を有形的に再製すると共に、インターネットを通じて本件スレッド上の本件各記事にアクセスする不特定又は多数の者に対し、本件各画像を閲覧できる状態に置いたということができる。したがって、本件各投稿は、著作物である本件各原動画等の複製及び公衆送信行為に該当する。
また、原告が本件各投稿の各発信者に対して本件各原動画等の利用を許諾したことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。
以上より、本件各投稿により、本件各原動画等に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたといえる。これに反する被告らの主張はいずれも採用できない。
3 争点 1-3(引用の抗弁の成否)
(1)
証拠によれば、本件各記事は、いずれも「(省略)アンチスレ」と題するスレッド(本件スレッド)に投稿されたものであること、本件各記事には、本件各画像と共に、以下のコメントが記載されていることが認められる。
・「迎えるシリーズ」(本件記事1)
・「今日のサブで気になったのはゴミ箱のふたあきっぱなしってのと床の裂け目かな
床だんだんひどくなってる気がする」(本件記事2)
・「申し訳ないけど顔…」(本件記事3)
・「ゴミ箱パンパンで開けっ放しだし、実家では切られた大根の近くにたばこが置いてあるし、パピコの顔をメガネとバンダナ具合が不潔すぎる家系ww」(本件記事4)
・「6:15~新年の挨拶がじょうずうううの刑でよろめくB」(本件記事5)
・「仙川湯けむりの里」(本件記事6)
・「イブも埋め作業を応援シテルヨ!庭はボコボコだけどね!」(本件記事7)
また、本件スレッドには、本件各記事のほか、「オタサーの姫とその囲いって感じ。」、「家事育児しんどい疲れたばかり投稿してきて急に育児って楽しいは笑った」、「今からハッピーアピールしてももうだいぶ無理あるよね」、「そば食べてるときズルズルクチャクチャ食べ方汚い」、「正直、色々分かる頃の娘にめちゃくちゃ嫌われればいいと思ってる。自分で稼いでる親ってやばくない?ずーっとカメラ回して異常って子供達早く気づいて欲しい」、「一年でだいぶ落ちぶれたよね」などといった投稿もされている。
このように、本件各記事は、原告チャンネルのタイトルに「反対」や「嫌悪」に基づく攻撃的感情を意味する「アンチ」とのネットスラングを付した名称の本件スレッドに投稿されたものである。実際にも、本件スレッドには、原告やその家族を揶揄したり、攻撃対象としたりする投稿が散見される。
これらの事情を踏まえると、本件各記事は、いずれも、原告チャンネルの投稿動画を題材として、原告やその家族を揶揄したり、攻撃対象としたりする文脈において、本件スレッドに投稿されたものと理解される。
さらに、本件各記事における本件各画像と上記各コメントとを対比すると、本件各画像はいずれも本件各記事の枠の中でも相応のウェイトを占めるように比較的大きく表示されており、上記各コメントに比して閲覧者の注意を強く惹く態様であること、本件各画像と結び付ける形でその出典である本件各SNS動画に係る表示がされていないことも認められる。
このような本件各記事の内容、目的、本件各画像の引用態様等に鑑みると、本件各記事における本件各SNS動画の引用は、その目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとはいえず、また、公正な慣行に合致する方法・態様で行われたものであるともいえない。
したがって、本件各記事における本件各SNS動画ひいては本件各原動画の利用は、適法とはいえない。
(2)
これに対し、被告らは、それぞれ、本件スレッドは、原告チャンネルに直接批判的意見を投稿することができなくなり、これに代わる意見交換の場として利用されているものであること、本件各記事は、親の子どもへの対応や教育方法等についての正当な批判的意見を述べるものであること、本件各記事の態様も、意見の内容を明確にするために最低限必要なものであること、本件スレッドのタイトルから本件各画像の引用元は明確であることなどを指摘して、本件各記事における本件各SNS 動画の利用は適法な引用であると主張する。
しかし、上記のとおり、本件各記事の内容に加え、同じく本件スレッドに投稿されている他の記事の内容にも鑑みると、本件各記事は、原告及びその家族の子への対応や教育方法について批判的意見を述べる趣旨のものというより、原告及びその家族を揶揄したり、攻撃対象としたりする文脈において投稿されたものと理解するのが実態に即したものと思われる。また、本件各画像は、本件各記事のコメントの対象を明確にする目的で利用されたものとは一応理解し得るものの、本件各記事における本件各画像及び各コメントの表示態様や本件各記事の上記趣旨を考慮すると、このような大きさで本件各画像を表示する必要性ないし合理的理由は見当たらない。
さらに、本件スレッドのタイトルから、本件各画像が本件各SNS動画からキャプチャしたものである可能性はうかがわれるものの、原告チャンネルのURL等具体的な引用元までは記載されていない。以上を踏まえると、上記のとおり、本件各投稿における本件各SNS動画の利用は、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内のものであるということはできない。この点に関する被告らの主張はいずれも採用できない。