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著作権判例セレクション

【損害額の算定例】1143項適用事例(動画からキャプチャした静止画を投稿した事例)

令和41124日東京地方裁判所[令和3()24148]▶令和5713日知的財産高等裁判所[令和5()10001]
() 本件は、原告が、被告の管理するブログに原告が著作権を有する各動画(「本件各動画」)をキャプチャした静止画が投稿され、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害された旨を主張して、被告に対し、不法行為(民法 709 )に基づき、所定の損害賠償金等の支払を求めた事案である。

2 争点(4)(原告の損害及びその額)
(1) 「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」
ア 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、映像の使用料又は映像からキャプチャした写真の使用料に関し、以下の事実が認められる。
() 映像からキャプチャした写真の使用料
NHKエンタープライズが持つ映像・写真等に係る写真使用の場合の素材提供料金は、基本的には、メディア別基本料金及び写真素材使用料により定められるところ(更にこの合計額に特別料率が乗じられる場合もある。)、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は5000円(ライセンス期間3年)、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」、「国内撮影」の場合、1カットあたり 2 万円とされている。
なお、共同通信イメージズも写真の利用料金に関する規定を公表しているが、ウェブサイト利用についてはニュースサイトでの使用に限ることとされていることなどに鑑みると、本件においてこれを参照対象とすることは相当でない。
() 映像の使用料
映像の使用については、次のとおり、テレビ局その他の事業者が使用料を定めている。
(略)
イ 本件各動画については、前記「切り抜き動画」に係る利用許諾と原告への収益の分配がされていることがうかがわれるものの、その分配状況その他の詳細は証拠上具体的に明らかでない。その他過去に第三者に対する本件各動画の利用許諾の実績はない。そこで、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(法1143項)を算定するに当たっては、本件各動画の利用許諾契約に基づく利用料に類するといえる上記認定の各使用料の額を斟酌するのが相当である。
【控訴人による本件各動画の利用態様は、本件各動画からキャプチャした本件静止画を本件各記事に貼り付け、これを本件ブログ上に投稿して掲載するというものである。そうすると、その使用料相当額の算定に当たっては、他に映像からキャプチャした写真の使用料に関する証拠がない以上、前記ア()のとおりのNHKエンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
なお、本件記事1ないし7は、30枚ないし70枚程度の本件静止画を用い、これらをそれぞれ本件動画1ないし7における時系列に従って貼り付けた上、各静止画の間に、直後の静止画に対応する本件動画1ないし7の内容を1行ないし数行でまとめた要約を記載したものであり、本件記事1ないし7の内容を見ただけで三十数分ないし五十数分の本件動画1ないし7の全体をほぼ把握できるようにするものであって、その実質は、映像そのものに準ずるものとも解し得るが、前記アのとおりの各使用料によると、本来であれば、静止画(写真)を使用する枚数が多くなると、その使用料(映像からキャプチャした写真の使用料)も高額になるところ、その枚数が更に多くなり、静止画を利用したコンテンツの実質が映像に準ずる域に達した場合に、映像の使用料が参酌されることになってかえって使用料が低額になるというのは不合理であるから、本件記事1ないし7の上記内容を考慮しても、本件各記事については、上記のとおり、映像からキャプチャした写真の使用料に係るNHKエンタープライズの規定を参酌するのが相当である。
映像からキャプチャした写真の使用料に係るNHKエンタープライズの規定によると、使用目的が「通信(モバイル含む)」の場合の基本料金は、5000円とされ、また、写真素材使用料は、「カラー」、「一般写真」及び「国内撮影」の場合、1カット当たり2万円とされ、さらに、証拠及び弁論の全趣旨によると、控訴人が利用した本件静止画は、合計362枚であると認められるから、これらによると、同規定に基づく使用料は、合計724万5000円(2万円×362枚+5000円)となる。
そして、弁論の全趣旨によって認められるNHK(NHKエンタープライズが取り扱う映像の制作者であると認められる。)と原告チャンネルとの相違(規模、事業内容、社会的影響等)及びNHKが制作した映像と本件各動画との相違(コンテンツが配信される媒体、視聴者数、映像ないし動画の制作に要する費用、労力及び時間、コンテンツとしての社会的価値等)が大きく、上記の額をそのまま採用することが相当とはいえないこと等の事情に加え、著作権侵害があった場合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」(法114条3項)が通常の使用料に比べておのずと高額になることを併せ考慮すると、被控訴人が本件各動画に係る「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は、これを150万円と認めるのが相当である。】
ウ これに対し、被告は、原告が本件各動画の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は著作権の買取価格を上回ることはないことを前提とし、本件各動画の著作権の買取価格(3万円)のうち本件各記事において静止画として利用された割合(2%)を乗じたものをもって、原告の受けるべき金銭の額である旨を主張する。
もとより、著作物使用料の額ないし使用料率は、当該著作物の市場における評価(又はその見込み)を反映して定められるものである。しかし、その際に、当該著作物の制作代金や当該著作物に係る著作権の譲渡価格がその上限を画するものとみるべき理由はない。すなわち、被告の上記主張は、そもそもその前提を欠く。
したがって、その余の点につき論ずるまでもなく、この点に関する被告の主張は採用できない。
(2) 発信者情報開示手続費用
本件のように、ウェブサイトに匿名で投稿された記事の内容が著作権侵害の不法行為を構成し、被侵害者が損害賠償請求等の手段を【執ろうとする】場合、権利侵害者である投稿者を特定する必要がある。このための手段として、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律により、発信者情報の開示を請求する権利が認められているものの、これを行使して投稿者を特定するためには、多くの場合、訴訟手続等の法的手続を利用することが必要となる。この場合、手続遂行のために、一定の手続費用を要するほか、事案によっては弁護士費用を要することも当然あり得る。
そうすると、これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為による損害賠償請求をするために必要な費用という意味で、不法行為との間で相当因果関係のある損害となり得るといえる。
【本件においては、補正して引用する原判決のとおり、被控訴人は、発信者情報開示手続費用合計2万4405円及びこれに係る弁護士費用合計165万円を支払ったものであるが、前者については、その全額を被控訴人の損害と認め、後者については、そのうち20万円を被控訴人の損害と認めるのが相当である。これに反する控訴人及び被控訴人の主張は、いずれも採用することができない。】
(3) 弁護士費用
本件事案の性質・内容、本件訴訟に至る経過、本件審理の経過【、認容額】等諸般の事情に鑑みれば、被告の不法行為と相当因果関係のある本件訴訟に係る弁護士費用相当額は、【20万円】と認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
(4) 合計 192万4405円】