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著作権判例セレクション

【権利濫用】権利濫用を否認した事例

令和41124日東京地方裁判所[令和3()24148]▶令和5713日知的財産高等裁判所[令和5()10001]
() 本件は、原告が、被告の管理するブログに原告が著作権を有する各動画(「本件各動画」)をキャプチャした静止画が投稿され、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害された旨を主張して、被告に対し、不法行為(民法 709 条)に基づき、所定の損害賠償金等の支払を求めた事案である。

権利濫用の抗弁の成否について
被告は、原告が「切り抜き動画」制作者による本件各動画の拡散を積極的に利用して原告チャンネルの登録者数の増加を図り、実際にその恩恵を享受しているにも関わらず、被告に対して本件各動画の著作権を行使することは権利の濫用に当たる旨を主張する。
しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告が利用する「切り抜き動画」とは、原告が、特定のウェブサイトで提供されるサービスを通じて、原告チャンネル上の動画をより個性的に編集して自己のチャンネルに投稿することを希望するクリエイターに対し、その収益を原告に分配すること等を条件に、当該動画の利用を許諾し、その許諾のもとに、クリエイターにおいて編集が行われた動画であると認められる。他方、弁論の全趣旨によれば、被告は【、「切り抜き動画」の作成を含め】、本件各動画の利用につき、原告の許諾を何ら受けていないことが認められる。
そうすると、原告が「切り抜き動画」の恩恵を受けているからといって、被告に対する本件各動画に係る原告の著作権行使をもって権利の濫用に当たるなどと評価することはできない。他に原告の権利濫用を【根拠付ける】に足りる事情はない。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
【この点に関し、控訴人は、当審において、被控訴人が(証拠)に記載されるような「切り抜き動画」に関する募集を開始したのは、本件各記事が投稿された後のことであり、本件各記事の投稿の際には、そのような募集はされていなかった、
被控訴人は、上記の募集を開始した時点において、意図的に控訴人との連絡手段(ツイッター等)を断ち、控訴人が本件各動画の利用の許諾について申入れをする機会を与えなかったとして、被控訴人は、控訴人のみを許諾を得ていない者に仕立て上げるために意図的に上記の募集を開始した蓋然性が高いから、控訴人が「切り抜き動画」に係る許諾を得ていないことをもって、控訴人による本件各動画の利用に係る被控訴人の著作権の行使が権利の濫用に該当しないとするのは相当でないと主張する。
しかしながら、仮に控訴人が主張する上記の事情があったとしても、上記の募集がされる前の時期において、控訴人が主張するような事情(被控訴人において、「切り抜き動画」の制作者による本件各動画の拡散を積極的に利用して原告チャンネルの登録者数の増加を図る意図を有し、実際、「切り抜き動画」の制作者による本件各動画の拡散の恩恵を享受しているとの事情)があったものと認めるに足りる証拠はない。また、上記についても、仮に控訴人が主張するように被控訴人が控訴人との連絡手段(ツイッター等)を断っていたとしても、控訴人が(証拠)のようなウェブサイト(原告チャンネルに係る「切り抜き動画」の作成の許諾を求める申請フォームへのリンクが貼られているウェブサイト)におよそアクセスすることができなかったものと認めるに足りる証拠はないし、さらに、控訴人が当該申請フォームを通じて当該許諾を求めた場合に、被控訴人がこれを拒否したものと認めるに足りる証拠もない。加えて、被控訴人において、既に被控訴人の許諾なく本件各記事を投稿して被控訴人の著作権を侵害していた控訴人に対し、もはや「切り抜き動画」の作成の許諾を与える意思を有せず、控訴人との連絡手段を断っていたとしても、それをもって、被控訴人が控訴人に対して著作権侵害を主張することが許されないとすべきものでもない。そうすると、控訴人の上記主張は、控訴人による本件各動画の利用に係る被控訴人の著作権の行使が権利の濫用に該当すると評価することはできないとの上記結論を左右するものではない。】