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著作権判例セレクション

【地図図形著作物】実験の様子を示した模式図, 実験結果を示したブラフ等の著作物性

令和41128日東京地方裁判所[令和2()29570]
写真及び図表の著作物性
原告は、原告報告書[注:「脳機能NIRSを活用した交通安全対策の評価手法に関する調査(平成28年度)」と題する報告書のこと]に掲載された写真及び図表のうち、本件図4ないし8、図13、図16~22、図33~36にそれぞれ創作性が認められる旨主張するため、以下、原告報告書に記載された順に従って、その著作物性の有無を検討する。
(略)
イ 本件図5について
(略)
() 本件図5(模式図部分)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図5(模式図部分)は、DSの全体像と設定を示すために、平面図の方式で、線と四角形、三角形及び円等をもって、本件実験に用いられたDS及びfNIRSの状況を模式図として簡潔に説明するものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図5(模式図部分)は、実験状況を簡潔に説明するために通常の模式図を利用するものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図5(模式図部分)は、著作物に該当しない。
ウ 本件図6について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図6は、fNIRSの計測原理の概要を示すために、人間の頭部を左側面から見た断面図を使用した上で、頭部の断面図の画像に赤や青の線を付記し、入光プローブと受光プローブの位置関係を記載したもの(図6A)と、脳の活動とヘモグロビンの関係を示すために、動脈及び静脈の状態を簡略化して図示したもの(図6B)であることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図6Aは、頭部の断面図の画像に赤や青の線を付記したものにすぎず、また、本件図6Bは、動脈を示す赤色の管と静脈を示す青色の管を組み合わせるものにすぎず、いずれもごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図6は、著作物に該当しない。
エ 本件図7について
(略)
() 本件図7Cについて
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図7Cは、頭部アタッチメントを被験者の頭部に装着した際の状況を3D-MRIにより撮影した図であり、人間の頭部を前方、後方、右方及び左方の4方向から撮影した上で、当該頭部の該当箇所に位置する計測チャンネルの番号を記載したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図7Cは、3D-MRIにより機械的に表示された図に、関連する数字を端的に付記したものにすぎず、ごくありふ25 れた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図7Cは、著作物に該当しない。
() 本件図7Dについて
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図7Dは、頭部アタッチメントに設置された計測チャンネルとブロードマンの領野との対応関係を示すために、これらを模式化した図であることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図7Dは、赤、青、黄色、緑といった一般的な色彩を用いて、頭部アタッチメントを上から見た際の計測チャンネルを模式図化した上で、これに対応するブロードマンの領野の各番号を記載するものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図7Dは、著作物に該当しない。
(略)
カ 本件図13について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図13は、頭頂葉に位置する測定チャンネル38における実車実験の際の情報板への反応を示すために、横軸に地点(距離)、縦軸にCOE(Cerebral Oxygen Exchangeの変化量)を記載する形式で、特定の区間における脳活動のデータをグラフ化したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図13は、計測チャンネルの位置を示すために頭部の3D画像に数字を付したり、COEのようなデータの数量的な変化を示すために一般的な折れ線グラフを使用したりしたものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図13は、著作物に該当しない。
キ 本件図16及び20について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図16及び20は、いずれも、脳反応の比較をするために、横軸に地点(距離)、縦軸にCOE又は進行方向への加速度を記載する形式で、頭部の3D画像をも組み合わせて、当該計測チャンネルに対応する部位の脳活動に係るCOE及び加速度の各変化を折線グラフ化したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図16及び20は、計測チャンネルの位置を示すために頭部の3D画像を使用したり、COEや加速度のようなデータの数量的な変化を示すために一般的な折れ線グラフを使用したりしたものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図16及び20は、著作物に該当しない。
(略)
ケ 本件図18及び21について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図18及び21は、いずれも、特定の計測チャンネルにおける、非表示の場合と渋滞表示の場合のCOEの平均波形の比較を示すために、横軸に地点(距離)、縦軸にCOE又は進行方向への加速度を記載する形式で、頭部の3D画像をも組み合わせて、当該計測チャンネルに対応する部位の脳活動に係るCOE及び加速度の各変化を折線グラフ化したものであり、本件図16及び20と同種の図であることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図16及び20(前記キ)において説示したところは、これと同種の本件図18及び21にも当てはまるというべきである。
したがって、本件図18及び21は、著作物に該当しない。
コ 本件図19及び22について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図19及び22は、実車実験及びDS実験のいずれにおいても、「渋滞」表示又は 「工事」表示に対する脳反応のパターンが共通することを示すために、横軸に地点(距離)、縦軸にCOE又は進行方向への加速度を記載する形式で、頭部の3D画像をも組み合わせて、当該計測チャンネルに対応する部位の脳活動に係るCOE及び加速度の各変化を折線グラフ化したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図19及び22は、計測チャンネルの位置を示すために頭部の3D画像を使用したり、COEや加速度のようなデータの数量的な変化を示すために一般的な折れ線グラフを使用したりしたものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図19及び22は、著作物に該当しない。
サ 本件図33について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図33は、解析方法として、ドライバーが速度計を目視している区間を解析区間として設定したことや、脳活動を解析する指標としてCOEを、行動データを解析する指標としてアクセル開度を選択したことを説明するために、その解析データの算出に係るイメージをグラフ化したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図33は、その算出イメージを一般的な折れ線グラフを使用して示したものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図33は、著作物に該当しない。
シ 本件図34について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図34は、アクセル開度の増減と各計測チャンネルにおけるCOEの平均変化量の関係をグラフ化したものであり、その形式や色合い等において特色となるような点はなく、ごく一般的な棒線グラフにすぎないことが認められる。
上記認定事実によれば、本件図34は、ごく一般的な棒線グラフにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図34は、著作物に該当しない。
ス 本件図35について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図35は、アクセル開度増加群と減少群とで共通してCOEがプラス値を示した脳の部位(計測チャンネル)を示すために、青、緑、オレンジなどといった一般的な色の円の中に数字を示した図を、頭部の3D画像に付記したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図35は、ありふれた図を頭部の3D画像に付記したものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図35は、著作物に該当しない。
セ 本件図36について
() 一番左側の頭部の画像(以下「本件図36(画像部分)」という。)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図36(画像部分)は、アクセル開度増加群と減少群とでCOEに有意な差があった脳の部位(計測チャンネル)を示すために、青や緑といった一般的な色の円の中に数字を示した図を、頭部の3D画像に付記したものであり、本件図35と同種のものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図35(前記ス)において説示したところは、これと同種の本件図36(画像部分)にも当てはまるというべきである。
したがって、本件図36(画像部分)は、著作物に該当しない。
() 残りの3つのグラフ(以下「本件図36(グラフ部分)」という。)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件図36(グラフ部分)は、3つのグラフから成るところ、いずれも、アクセル開度の増加群が減少群に比較して、COEに有意な差があった脳の部位(計測チャンネル)につき、その差を視覚的に明らかにするために、それぞれの変化量を棒グラフ化したものであることが認められる。
上記認定事実によれば、本件図36(グラフ部分)は、数値の比較を行う際に一般的な棒グラフを使用したものにすぎず、ごくありふれた表現にとどまるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
したがって、本件図36(グラフ部分)は、著作物に該当しない。
ソ 以上によれば、原告報告書のうち、本件図4、5(写真部分)、図7A及びB、図8(以下、併せて「原告各著作物」という。)については著作物性が認められ、かつ、原告がその著作権を有するものと認められる。その他に、原告のその余の主張及び原告提出の証拠を改めて検討しても、上記において説示した当該図の内容、性質等を踏まえると、前記判断を左右するに至らない。
したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。