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著作権判例セレクション
【引用】適法引用を認めなかった事例
▶令和4年5月31日東京地方裁判所[令和3(ワ)4081]▶令和5年4月26日知的財産高等裁判所[令和4(ネ)10080]
1 本件投稿
1 について
(1) 争点 1(本件投稿 1 は本件写真を適法に引用したものか)について
著作物を引用した利用が適法といえるためには、引用が、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない(著作権法 32 条 1 項後段)。
本件投稿1は、アカウント名を「こめすけ
A 門下#検察庁法改正案を廃案に(脱原発に一票、こんな人たち)」とするアカウントにより投稿されたものであり、その本文には「5・3 に改めて思う。/A 第三代会長とご一緒に!/アベ#自民党
ダ~ハラ #創価学会/政治を許さない!」と記載されている。こうした内容や体裁に照らすと、本件投稿1は、原告のB会長が安倍晋三元首相ないし安倍政権と近しい関係にあり政治的立場を同じくしているという見方に基づき、同会長ないし同会長を代表者とする原告の政治活動の状況につき批判的な立場から行われたものと見る余地はある。もっとも、本件投稿1の本文の内容は抽象的主観的な見解ないし意見にとどまり、具体的な意味内容を客観的に了知し得るものではない。このため、本件投稿1において本件投稿画像1を添付する必要性や相当性は具体的にはうかがわれない。そうである以上、本件投稿1に本件投稿画像1を添付した行為は、引用として公正な慣行に合致し、かつ引用の目的上正当な範囲内で行われたものということはできない。
したがって、本件投稿1による本件写真の引用は法所定の要件を満たすものとはいえない。そうすると、前記前提事実に照らし、本件投稿1の流通により原告の本件写真に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかと認められる。
これに対し、被告は、本件投稿1は A名誉会長を慕う立場からB会長が安倍晋三元首相ないし安倍政権と近しい関係を築いて政治的立場を同じくしていることを批判する趣旨の投稿であり、A名誉会長を慕う立場を明確化するためには本件写真を引用する必要性があるなどと主張する。しかし、上記のとおり、本件投稿1から具体的な意味内容が客観的に了知できず、また、被告の主張に係る上記意味内容を前提としても、本件写真を引用する必要性や相当性があるとはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
2 本件投稿2について
(1) 争点 4-1(本件座談会記事は原告を著作者とする編集著作物に当たるか)について
(略)
(2) 争点
4−2(本件投稿2は本件座談会記事を適法に引用したものか)について
前記のとおり、著作物を引用した利用が適法なものとなるためには、引用が、公正な慣行に合致するものであり、かつ報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。
本件投稿2の本文には、「多くの真面目な会員さんを、安保法制など、公明党の政策に異を唱えただけで、査問し除名・活動停止処分等に付してきたB会長が、どの口で『多様性の尊重』『桜梅桃李』などと、ほざけるのか。」などと記載されている。一方、本件座談会記事には、B会長の発言として、「『多様性の尊重』は、現代における重要なキーワードですね。」、「御書には『桜梅桃李の己己の当体を改めずして』…と仰せです。」との記載がある。これらを踏まえると、本件投稿2が本件投稿画像2(本件座談会記事の全体)を添付した目的は、B会長の言行が一致していない旨等の本文記載の批判をするに当たり、同会長が実際に「多様性の尊重」や「桜梅桃李」という言葉を用いて発言した事実を示すことにあったことがうかがわれる。
しかし、本件座談会記事における同会長の発言として上記各言葉が掲載されているのは上記認定の箇所にとどまる。しかも、同箇所を含む同会長の発言部分は、分量的には記事全体のうちの14分の1程度にすぎない。その他の部分は、九州南部の大雨被害への原告の対応、原告青年部における7月の活動の意義、記念上映会の開催とこれに関連して新型コロナウィルス感染予防に関する情報提供等という、上記各言葉とは無関係な内容である。
このため、B会長による上記発言は、本件座談会記事の上記その他の部分の記載を参照しなければその意味内容を客観的に了知できないものではない。そうである以上、本件投稿2において本件座談会記事の全体を画像として添付する必要性があったとはいいがたい。
また、本件投稿2の本文が比較的短い2つの文章でB会長等を批判するものであるのに対し、本件座談会記事は、テーマを異にする多くの文章や写真等から構成された一つの完結した新聞記事であり、それぞれに含まれる情報量等には大きな差がある。しかも、本件投稿2の表示において、本件座談会記事部分は少なくともその7割程度を占めている。
これらの事情に鑑みると、本件投稿2における本件座談会記事の引用の方法及び態様の点で、その引用は、社会通念に照らし、公正な慣行に合致し、かつ、引用目的との関係で正当な範囲内で行われたものということはできない。
したがって、本件投稿2による本件座談会記事の引用は法所定の要件を満たすものとはいえない。そうすると、前記前提事実に照らし、本件投稿2の流通により原告の本件座談会記事に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかと認められる。
これに対し、被告は、B会長の具体的な発言に対する批判であることを明確化し、同会長の姿勢と発言が整合していないことを示すため、批判の対象となる発言が含まれる本件座談会記事の全体を引用する必要があるなどと主張する。しかし、上記のとおり、そのような必要性や相当性は認められない。この点に関する被告の主張は採用できない。
[控訴審同旨]