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著作権判例セレクション
【名誉権】名誉権侵害による不法行為の成否が争われた事例
▶令和3年5月26日東京地方裁判所[令和2(ワ)19351]▶令和4年3月29日知的財産高等裁判所[令和3(ネ)10060]
名誉感情毀損による不法行為の成否について
(1) 原告は,被告Yは,本件ツイートの「#kutoo」を「#KuToo」に改変し,本件ツイートの趣旨を,被告Yに対する「クソリプ」となるように歪めた上,原告が現実社会では存在しないほど特異な人物であるとの印象を読者に与えるなどしたものであり,同被告の係る行為は,社会通念上許容される範囲を超えて,原告の名誉感情を侵害するものであり,不法行為を構成すると主張する。
(2)
そこで検討するに,侮辱的な表現が,【同人の】人格的価値に関し,具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく,同人の名誉感情を侵害するにとどまるものである場合には,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて人の人格的利益の侵害が認められ得るものと解される(最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決参照)。
(3)
原告は,【本件見開き】において,本件ツイートの「#kutoo」を「#KuToo」に改変し,本件ツイートの趣旨を,被告Yに対する「クソリプ」となるように歪めたと主張する。
しかし,【本件見開き】における「#KuToo」との表記は「#kutoo」の誤記であると認められることは,前記で判示したとおりであり,被告Yが本件ツイートの趣旨を同被告に対する「クソリプ」となるように歪めたということができないことは,前記で判示したとおりである。
(4)
原告は,本件批評の「#KuTooを男性が海パンで出勤する話に繋げるこの人の思考回路,どうなっているんだろう。この人が海パンで出勤したい願望あるのかな?」,「こういう人たちって,リアルな会話はどうなってるんだろうか…。リアルでもこんなに会話が噛み合わないのかなぁ。でもさすがに対面でこんなへんてこりんな人に会ったことないしな…。Twitterになると急にバグるとか?」などの【記載】が,社会通念上許容される範囲を超えて,原告の名誉感情を侵害すると主張する。
【しかし,上記記載は,控訴人の人格的価値に関し,具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく,】「へんてこりんな人」,「Twitterになると急にバグる」などの表現が原告の名誉感情を侵害するものに当たるとしても,これらの記載の趣旨は,本件活動が女性の靴問題にあるにもかかわらず,本件ツイートが海水パンツで男性が出勤するという女性の靴問題とはかけ離れた極端な状況を例として本件活動を批判していることについて,「逆に」という表現の使い方も含め,その趣旨が通常人の感覚や認識と乖離しており,その発想が理解し難いという点にあるものと考えられる。
そうすると,上記記載には,原告の名誉感情を侵害する部分があるとしても,これらの表現が社会通念上許される限度を超える侮辱行為に該当するということはできない。
(5)
したがって,被告Yに原告の名誉感情侵害による不法行為が成立するとは認められず,これに基づく原告の損害賠償請求は理由がない。
[控訴審]
名誉権侵害による不法行為の成否について(当審における追加請求関係)
⑴ 本件見開きの左頁には,アカウント名「F」及びユーザー名「@●(省略)●」とともに本件ツイートが掲載され,その下に被控訴人Yの顔写真のアイコン及び名前とともに「そんな話はしてないですね。もしも#KuTooが「女性に職場に水着で出勤する権利を!」ならば容認するかもしれないですが,#KuTooは「男性の履いている革靴も選択肢にいれて」なので。」との文章が掲載されている。また,本件見開きの右頁には,「逆が全然逆じゃない系」との表題の下,「なんで女性の靴問題の逆が水着になるんだょ
笑。全然よろしくないわ!「逆に」の使い方おかしいよ!#KuTooを男性が海パンで出勤する話に繋げるこの人の思考回路,どうなっているんだろう。この人が海パンで出勤したい願望あるのかな?
海の家とかプールで働くことをおすすめしたいです……。そこで女性のみ水着での勤務が許されていて,男性はサウナスーツです,という状況だったら「俺たちにも水着を着る権利を!」ってなるんじゃないかな。逆に(ってこういうふうに使うんだよね?),女性が「私たちにもサウナスーツを着る権利を!」とか。#KuTooっていうのはそういう感じの運動です。…」との記載がある。これらの本件見開きの記載は,ユーザー名「@●(省略)●」を称するアカウント(本件アカウント)を使用する者が,女性の靴問題に関する本件活動について,同問題の逆の例として男性が海水パンツで職場に出勤する事例を挙げ,本件活動の賛同者がこれを容認するのかという質問をしたという事実を摘示するものと認められる。
そして,上記質問が誰と誰との間のいかなるやり取りで発せられたものであるのかについては本件見開きの記載から明らかでないことからすれば,上記事実は,本件アカウントを使用する者が,本件活動に対し,上記事例を挙げて批判的な質問をしたというにとどまるものであり,一般の読者からみると,その質問の当否を判定する情報が必ずしも十分に提供されているとはいえないから,上記事実が摘示されたことによって本件アカウントを使用する者の社会から受ける客観的評価が低下すると認めることはできない。
そうすると,本件見開きの記載によって控訴人の社会的評価が低下するものとは認められないから,控訴人の上記主張は,理由がない。
⑵ 控訴人は,本件見開きの記載は,ユーザー名「@●(省略)●」を称するアカウントが,女性の靴問題に関する活動#KuTooの提唱者である被控訴人Yに対し,同問題の逆の例として男性が海水パンツで職場に出勤する事例を掲げ,これを容認するのか質問したとの事実を摘示するものであると主張するが,前記のとおり,本件見開きの記載から,一般の読者によって本件ツイートが被控訴人Yのツイートに対するリプライとしてされたものであると受け取られるものであるとはいえないから,控訴人主張の上記事実を摘示するものとは認められない。
⑶ 以上によれば,本件見開きの記載によって控訴人の社会的評価が低下し,控訴人の名誉権が侵害された旨の控訴人の主張は,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。