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著作権判例セレクション
【不法行為】被侵害著作物を個別に特定する必要があるか
▶令和4年10月6日東京地方裁判所[令和2(ワ)3931]▶令和5年6月8日知的財産高等裁判所[令和4(ネ)10106]
【カ 以上によれば、平成17年9月1日から平成30年3月31日までの間において、枠付き記事以外に、本件イントラネットに1審原告が発行した東京新聞の記事が掲載されたこと及びその内容を認めるに足りる証拠はなく、また、仮に東京新聞の記事が掲載された可能性があるとしても、その内容を確認することができないから、当該記事が著作物に該当することを認めることはできない。
これに対し、1審原告は、過去の著作権侵害行為を原因とする損害賠償請求をするに当たっては、被侵害著作物を個別に特定する必要はなく、このことは、判例の立場(知財高裁平成28年10月19日判決(同年(ネ)第10041号))であるとして、著作権が侵害されたとする新聞記事の内容を具体的に特定しないまま、1審被告が、平成17年9月1日から平成30年3月31日までの間に、毎月約11本の新聞記事を本件イントラネットに掲載していた旨主張する。
しかしながら、新聞記事においては、訃報や人事異動等の事実をそのまま掲載するものから、主題を設定して新聞社としての意見を述べる社説まで様々なものがあって、記載する事項の選択や記事の展開の仕方、文章表現の方法等において記者の個性を反映させる余地があるとしても、新聞記事であることのみから当然に著作物であるということはできない。
また、新聞記事の中には、通信社や企業等から提供された情報や文章をそのまま掲載するものや、第三者から寄稿されたものもあり、当該記事を掲載した新聞の発行者が当然にその著作権を有するということもできない。
さらに、1審原告が指摘する裁判例は、著作権等管理事業者であるJASRACが、その管理する著作物である楽曲を許諾なくライブ会場で演奏する者に対して著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案であり、上記裁判例は、本件とは、著作物の種類が異なるなど事案を異にするというべきであり、本件に適切でない。
したがって、1審原告の上記主張は採用することができない。他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。】