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著作権判例セレクション

【職務著作】市営文学館の展示物の職務著作性が問題となった事例/文学館の展示物を編集著作物と認定した事例
▶令和3629日知的財産高等裁判所[令和3()10027]
2 争点に対する判断について
当裁判所も,本件各展示物[注:文学館(徳冨蘆花記念文学館)に常設展示されている解説パネル等や展示ケース内の展示資料等をさす]は編集著作物に当たるが,職務著作として被控訴人がその著作者となるものと認める。その理由は,以下のとおり補正し,後記3に当審における当事者の主張に対する判断を示すほかは,原判決に記載するとおりであるからこれを引用する。
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【イ しかし,証拠によると,本件図録は本件パネルをそのままの配置で印刷したものではなく,写真や文章等の素材は相当程度の範囲で共通するものの,異なる部分もあり,加えて文章や写真等の素材の配置には,本件パネル,本件図録のそれぞれにそれらに特有の工夫がされていて,本件図録と本件パネルは素材の選択及びその配列のいずれについても同一ではないものと認められる。したがって,本件パネルが本件図録と同一の著作物であるということはできない。
また,本件図録と本件パネルに共通する部分があるとしても,使用者である法人等が「自己の著作の名義の下に公表するもの」であることが職務著作の要件であること(著作権法15条1項)に照らすと,使用者の発意により従業員等が職務上作成した共通部分を有する複数の著作物のうちに,職務著作に該当するものとそうではないものが生じることを著作権法は予定しているというべきである。そして,本件においては,後記のとおり,本件各展示物は本件文学館を設置運営する被控訴人が自己の名義により公表するものとして職務著作に当たる一方で,前訴判決1は,本件図録については控訴人名義により公表するものとして職務著作には当たらないと認めたものである。
そうすると,前訴判決1において本件図録の著作権が控訴人に帰属すると判断されたからといって,その既判力が,本件各展示物の著作権及び著作者人格権の帰属の判断に及ぶことはないというべきである。】
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() これに対し,被控訴人は,本件パネルの内容が,中野好夫著「蘆花徳冨健次郎」や熊本市制九十周年記念「徳冨蘆花展」の図録に酷似しており,創作的表現には当たらないし,また,本件パネルが,上記の二つの書籍の複製品又は翻案品に当たり,複製権や翻案権に抵触している可能性があるから,著作権上の保護の対象にはならない旨の主張をする。
しかし,証拠によると,本件パネルの解説パネルにおいて,解説文の一部に上記「蘆花徳冨健次郎」中の表現の一部と似た部分があることや,写真の一部に上記「蘆花徳冨健次郎」や上記「徳冨蘆花展」の図録に掲載された写真と同一の素材を用いたものがあることが認められるものの,このことは,本件パネルの編集著作物としての創作性の有無に影響を与えるものとはいえず,本件パネルは,編集著作物として著作権法上保護されるものと解されるから,被控訴人の上記主張は採用できない。】
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【しかし,著作物は,構想やアイディアではなく表現したものを指すから,本件においては,本件パネルに掲載する素材を具体的に選択して,それぞれの素材の本件パネル上の配置場所を決定することや,小説「不如帰」の抜粋箇所や挿絵の表示の順番などを決めて本件映像作品を製作することや,展示ケース内に展示する資料等を具体的に選択して展示ケース内へ陳列することをもって,著作物として表現することすなわち創作行為に当たるというべきである。そして,上記2(3)の認定によると,本件文学館の展示等の具体的内容は,控訴人が被控訴人に雇用された平成元年3月22日以降に定まっていったと認められるから,上記創作行為がされたのは,控訴人が被控訴人に雇用された同日以降であったと認められる。控訴人も,同年4月以降に展示する資料の選定,解説パネルに使用する写真と説明の編集レイアウトをしたり,展示ケース内についても同様の作業をするなどしていたと主張しているところ,これらの控訴人が主張する作業は,本件各展示物の創作行為そのものである。控訴人が,被控訴人に雇用される前である同年3月22日までの間に本件各展示物についての構想を練るなどしていたとしてもなお,控訴人が本件各展示物を創作したのは控訴人が雇用された後のことであると認めるのが相当である。
また,仮に,控訴人が平成元年3月22日より前に本件各展示物について創作行為を行った部分があったとしても,上記2(2)認定のとおり,控訴人は,本件文学館における勤務を申し入れ,同月6日には,被控訴人に採用されることとなっていたのであるから,同月22日より前に創作行為を行った部分を含めて旧伊香保町の職員としてその職務上作成したものと認められる。控訴人と被控訴人との間に,本件各展示物について請負契約が存したというべき事情は認められない。】
3 当審における当事者の主張に対する判断
(1) 控訴人は,本件図録には控訴人が著作者として表示されているから,控訴人が本件図録の著作者と推定されるところ,本件図録と同一の著作物である本件パネルについても控訴人が著作者と推定されると主張するが,原判決を補正の上引用して判示したとおり,本件図録と本件パネルは同一の著作物ではなく,著作の名義も異なるから,本件パネルについて控訴人が著作者と推定されることはない。
(2) 控訴人が当審で追加した不当利得返還請求について
控訴人は,本件各展示物の著作権が被控訴人に帰属したとしても,被控訴人が法律上の原因なく他人である控訴人の労務によって利益を受け,そのために控訴人に損失を及ぼした旨主張するが,控訴人は雇用契約に基づいて本件文学館において展示・上映するために本件各展示物を製作したのであるから,被控訴人が本件各展示物を本件文学館において展示・上映していることについて,法律上の原因があるというべきであり,控訴人の上記主張は採用できない。したがって,控訴人の本件各展示物の製作に係る上記不当利得返還請求には理由がない。