Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【写真著作物の侵害性】スイカの写真の侵害性が問題となった事例

▶平成111215日東京地方裁判所[平成11()8996]
争点1(翻案権の侵害)について
被告写真が原告写真を翻案したものであるか否かについて判断する。
1 一般に、特定の作品が先行著作物を翻案したものであるというためには、先行著作物に依拠して制作されたものであり、かつ、先行著作物の表現形式上の本質的特徴部分を当該作品から直接感得できる程度に類似しているものであることが必要である。
ところで、写真技術を応用して制作した作品については、被写体の選択、組合せ及び配置等が共通するときには、写真の性質上、同一ないし類似する印象を与える作品が生ずることになる。しかし、写真に創作性が付与されるゆえんは、被写体の独自性によってではなく、撮影や現像等における独自の工夫によって創作的な表現が生じ得ることによるものであるから、いずれもが写真の著作物である二つの作品が、類似するかどうかを検討するに当たっては、特段の事情のない限り、被写体の選択、組合せ及び配置が共通するか否かではなく、撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分、すなわち本質的特徴部分が共通するか否かを考慮して、判断する必要があるというべきである。
そこで、右の観点から、原告写真の本質的特徴部分はどの点にあるか、さらに被告写真から、その本質的特徴部分を直接感得できるか否かについて検討する。
2 証拠によると、次の各事実が認められる。
原告写真は、①中央前面に氷を敷き、②その後方に、縞模様のある楕円球の大型のスイカを横長に置き、右スイカを半分に切った上、さらに小さくV字型の切り欠きを六か所設け、③右切欠部分のそれぞれに、扇型に薄く切った赤いスイカを六切れ、右側に傾かせて一列に並べ、④後方左側には大小二つの丸いスイカを、後方右側には藤の籠に入った楕円球の二つのスイカを横長に、それぞれ配置し、⑤後方のスイカの上には、蔓をからませ、⑥背景を青くしたり、後方のスイカの表面に光が当てられるよう工夫を凝らして撮影された写真である。
これに対し、被告写真は、①中央前面に、表面が無地の、楕円球のスイカを横長に置き、水平方向に半球状(ボウル状)に切り、②右半球の上に、扇型に薄く切った赤いスイカを六切れ、左側に傾かせて一列に並べ、③後方及び右側には大小三つの丸いスイカを、後方右側には表面が無地の楕円球のスイカ一つを、それぞれ配置し、④丸いスイカの上には、蔓をからませ、⑤背景を青くして撮影した写真である。被告写真は、青果物を被写体とした他の八枚の写真作品とともに、被告カタログの125頁に掲載されている。
3 原告写真と被告写真を対比すると、以下の点で相違する。すなわち、①原告写真においては、中央前面に、V字型に切り欠かれ、縞模様のあるスイカが配置されているのに対し、被告写真においては、水平方向に半球状に切られ、無地のスイカが配置されていること、②原告写真においては、扇型に薄く切られたスイカは、右側に傾かせて配置されているのに対し、被告写真においては、左側に傾かせて配置されていること、③原告写真においては、中央前面に氷が敷かれたり、藤の籠を配置しているのに対し、被告写真においては、氷や藤の籠は配置されていないこと、④原告写真においては、光の当て方その他において様々な工夫が凝らされているのに対し、被告写真においては、格別の工夫はされていないこと、⑤原告写真においては、中央に配置されたスイカ及び薄く切られたスイカは、やや下方から撮影されているのに対し、被告写真においては、やや上方から撮影されていること等、様々な点で大きく相違する。
そうすると、原告写真と被告写真とは、そもそも、異なる素材を被写体とするものであり、その細部の特徴も様々な点で相違するから、類似しないものというべきである。
確かに、原告写真と被告写真とは、中央前面に、大型のスイカを横長に配置し、その上に薄く切ったスイカを六切れ並べたこと、その後方に楕円球及び真球状のスイカを配置したこと、緑色をした丸いスイカと扇型に切った赤いスイカとの対比を強調していること等において、アイデアの点で共通する。しかし、右共通点は、いずれも、被写体の選択、配置上の工夫にすぎず(しかも、前記のとおり、細部において大きく相違する。)、右の素材の選択、配置上の工夫は、写真の著作物である原告写真の創作性を基礎付けるに足りる本質的特徴部分とはいえない(原告が撮影するに当たりさまざまな工夫を凝らした撮影時刻の決定、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等によって生じた創作的な表現部分こそが、原告写真の特徴的部分であるということができ、この点で、両者が異なることは、前記④、⑤で指摘するまでもなく明らかである。)。
以上のとおり、被告写真は、原告写真の表現形式上の本質的特徴部分を直接感得できる程度に類似したものということはできない。したがって、被告写真は、その余の点を判断するまでもなく、原告写真を翻案したものではない。