Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【美術著作物の侵害性】「博士」の絵柄の侵害性を否定した事例
▶平成20年07月04日東京地方裁判所[平成18(ワ)16899]
原告博士絵柄と被告博士絵柄との類似性等について
(1)前記争いのない事実に,証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア 原告博士絵柄と被告博士絵柄との共通点
原告博士絵柄と被告博士絵柄とは,①角帽を被ってガウンをまとい,髭を生やしたほぼ2頭身の年配の男性の博士であり,頭部を含む上半身が強調されて,下半身がガウンの裾から見える大きな靴で描かれていること,②顔のつくりが下ぶくれの台形状であって,両頬が丸く,中央部に鼻が位置し,そこから髭が左右に「八」の字に伸びて先端が跳ね上がり(カイゼル髭),目が鼻と横幅がほぼ同じで縦方向に長い楕円であって,その両目の真上に眉があり,首と耳は描かれず,左右の側頭部に3つの山型にふくらんだ髪が生えていることが共通している。
イ 原告博士絵柄と被告博士絵柄との相違点
原告博士絵柄と被告博士絵柄とは,①全体の質感と輝き,顔や全身の縦横の比率,②耳の有無,鼻の形,瞳の色,眉の形と色,髭の色,③角帽の被り方,蝶ネクタイの有無,ガウンのデザインなどにおいて相違している。
すなわち,①被告博士絵柄は,原告博士絵柄と対比して,より立体的な質感があって,瞳などに光の輝きがあり,顔や全身がより細身に描かれているのに対し,原告博士絵柄は,被告博士絵柄と対比して,平板な感じで全体的にのっぺりとして,顔や全身が横太に描かれており,②被告博士絵柄は,耳が描かれ,鼻が縦方向の楕円で,瞳が黒く,眉は灰色で両端が下方に湾曲し,髭が白色であるのに対し,原告博士絵柄は,耳がなく,鼻がほぼまん丸で,瞳がグレー,眉は黒色で横長の楕円で,髭が黒色であり,③被告博士絵柄は,角帽の角が顔の中心線上で,つばに角度があり,赤い蝶ネクタイを付けて,金ボタンの付いた紺色のガウンをまとっているのに対し,原告博士絵柄は,角帽の角が顔の端に寄って,つばに角度がなく,
蝶ネクタイはなく,黒色のガウンに装飾がない。
なお,被告博士絵柄は,男の子と女の子,女性の先生の絵柄とともに登場したり,被告博士絵柄自体が別の服装で登場したりすることがあるのに対し,原告博士絵柄には,そのような類似の絵柄や服装の種類もない。
ウ 被告博士絵柄の由来
被告商品5ないし7のジャケット用掛紙や本体ラベルに描かれた被告博士旧絵柄は,本件各契約に基づいてこれらの商品を取り扱う被告において,映像に登場する原告博士絵柄のキャラクターを前提として,サンデザインワークに依頼して,コンピュータの3Dグラフィクスにより製作された。
そして,被告博士絵柄は,その後,被告が被告各商品を取り扱うに際し,サンデザインワークに依頼して,同様の3DCGにより,製作されたものである。
(2)原告博士絵柄と被告博士絵柄とを対比すると,原告博士絵柄と被告博士絵柄とは,前記(1)アのとおりの共通点があり,また,同ウの由来を考慮すれば,元来,被告博士絵柄は,原告博士絵柄に似せて製作されたものということができるものの,同イの相違点に照らすと,絵柄として酷似しているとは,言い難いものと認められる。
そして,原告博士絵柄のような博士の絵柄については,前記の(証拠)でみた博士の絵柄のように,角帽やガウンをまとい髭などを生やしたふっくらとした年配の男性とするという点はアイデアにすぎず,前記(1)アの原告博士絵柄と被告博士絵柄との共通点として挙げられているその余の具体的表現(ほぼ2頭身で,頭部を含む上半身が強調されて,下半身がガウンの裾から見える大きな靴で描かれていること,顔のつくりが下ぶくれの台形状であって,両頬が丸く,中央部に鼻が位置し,そこからカイゼル髭が伸びていること,目が鼻と横幅がほぼ同じで縦方向に長い楕円であって,その両目の真上に眉があり,首と耳は描かれず,左右の側頭部にふくらんだ髪が生えていること)は,きわめてありふれたもので表現上の創作性があるということはできず,両者は表現でないアイデアあるいは表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。また,被告博士絵柄全体をみても,前記(1)イの相違点に照らすと,これに接する者が原告博士絵柄を表現する固有の本質的特徴を看取することはできないものというべきである(なお,原告商品に登場する原告博士絵柄と被告各商品に登場する被告博士絵柄は,ともにそれぞれの商品の一部を構成する画像として存在するところ,動きのある映像として見たとき,原告博士絵柄と被告博士絵柄との違いは明白である。)。
したがって,被告各商品の一部を構成する被告博士絵柄の登場する画像が原告商品の一部を構成する原告博士絵柄の登場する画像の複製権や翻案権を侵害していると認めることはできない。
(3)以上のとおりであるから,原告の著作権侵害による不法行為の主張は,その余を検討するまでもなく失当である。