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著作権判例セレクション

【侵害主体論】電子ファイル交換サービスの提供事業者の侵害主体性

▶平成15129日東京地方裁判所[平成14()4237](中間判決) ▶平成17331日東京高等裁判所[平成16()405]
() 本件は、被告○○○が運営するインターネット上の電子ファイル交換サービスにおいて,原告が著作権を有する音楽著作物をMP3形式で複製した電子ファイルが,原告の許諾を得ることなく交換されていることに関して,原告が,上記電子ファイル交換サービスを提供する被告○○○の行為は,原告の有している著作権(複製権,自動公衆送信権,送信可能化権)を侵害すると主張して,被告○○○に対して,著作権に基づき上記電子ファイルの送受信の差止め等を求めた事案である。
(前提事実)
被告○○○は,ソフトウエアの開発,販売その他を目的とする有限会社であるが,平成13年11月1日から,カナダ法人であるITPウェブソリューションズ社と提携することにより,利用者のパソコン間でデータを送受信させるピア・ツー・ピア(Peer To Peer)技術を用いて,カナダ国内に中央サーバ(「被告サーバ」)を設置し,インターネットを経由して被告サーバに接続されている不特定多数の利用者のパソコンに蔵置されている電子ファイルの中から,同時に被告サーバにパソコンを接続させている他の利用者が好みの電子ファイルを選択して,無料でダウンロードできるサービス(「本件サービス」)を,「ファイルローグ(File Rogue)」の名称で日本向けに提供している。
本件サービスを利用するにはパソコンに本件サービス専用のファイル交換用ソフトウェア(「本件クライアントソフト」)がインストールされることが必要である。被告○○○は,インターネット上に開設しているウェブサイト(「被告サイト」)において,不特定多数の利用希望者に対して本件クライアントソフトを配布している。
 MP3とは,音声のデジタルデータを圧縮する技術規格の一つである。パソコン等を利用し,音楽CD等の音声データをMP3ファイルに変換することによって,聴覚上の音質の劣化を抑えつつ,データ量を元の10分の1程度に減らすことができるため,音声データをハードディスク上に複製したり,インターネット上で配信する等の行為を,より容易にすることができる。
本件サービスの利用方法
ア 利用者が本件サービスを利用するためには,まず,パソコンを被告○○○に接続して,本件クライアントソフトをダウンロードし,これをパソコンにインストールすることが必要である。次に,利用者は,任意のユーザーID(ユーザーID)及びパスワードを登録しなければならない。この場合に,利用者は,ユーザーID及びパスワードを任意に設定することができ,利用者の戸籍上の名称や住民票の住所等,本人確認のための情報の入力は要求されない。
イ 本件サービスによって,電子ファイルを送信できるようにしようとする利用者(「送信者」)は,本件クライアントソフトの追加コマンドを実行することによって,送信を可とする電子ファイルを蔵置するフォルダ(「共有フォルダ」)を指定し,同フォルダに送信を可とする電子ファイルを蔵置する。本件クライアントソフトをインストールしたパソコンが被告サーバに接続されると,共有フォルダ内の電子ファイルは自動的に他の利用者のパソコンに送信できる状態となる(ただし,接続時に自動的に送信できる状態としない設定も可能である。)。
送信者は,共有フォルダ内に蔵置した電子ファイルのファイル名を付する(利用者は,同ファイル名を自由に付することができ,したがって,電子ファイルの内容と全く対応しないファイル名であっても支障はない。)。
送信者が本件クライアントソフトを起動し,接続ボタンをクリックして被告サーバに接続すると(利用者は,通常,本件クライアントソフトを起動することにより被告サーバに接続する。),共有フォルダに蔵置した電子ファイルのファイル情報(ファイル名,フォルダ名,ファイルサイズ及びユーザーID)並びにIPアドレス及びポート番号(インターネットに接続する際に,プロバイダから割り当てられる番号)に関する情報(「送信者情報」)が被告サーバに送信される。
ウ 電子ファイルの受信を希望する利用者(「受信者」)は,本件クライアントソフトを起動して被告サーバに接続し,キーワードとファイル形式によって,被告サーバに対して,希望する電子ファイルの検索の指示を送信すると,被告サーバから,被告サーバに接続している他の利用者のパソコンの共有フォルダ内の上記指示に沿った電子ファイルに関する情報(ファイル名,ファイルパス名,ユーザーID,IPアドレス及びポート番号等)が送信される。
受信者は,上記の電子ファイルに関する情報の中から取得したいファイルを選択し,「ダウンロード」ボタンをクリックすると,保存先のフォルダを表示する画面が表示され,同画面上の「保存」をクリックすると,その電子ファイルを蔵置しているパソコンから自動的に当該ファイルが送信され,保存先として設定した受信者のパソコン内のフォルダに自動的に複製される。なお,保存先のフォルダは,既定の状態では共有フォルダとなっている。
エ 被告サーバは,被告サーバに接続している送信者のパソコンから送信された送信者情報を基に,現時点でダウンロード可能な電子ファイルに関するデータベースを作成する。
受信者からの検索指示が送信されると,上記ファイル情報等を用いて検索処理をし,被告サーバに接続している利用者の共有フォルダ内から上記指示に合致したファイル名を検出し,検出したすべての電子ファイルに関する情報(ファイル名,ファイルパス名,ユーザーID,IPアドレス及びポート番号等)を検索指示をした受信者のパソコンに送信する。
オ 被告サイトでは,本件サービスの利用方法についての説明が記載され,また,同説明では疑問が解消しない場合の問い合わせ先としてのメールアドレスも記載されていた。

第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告○○○は,原告の有する著作権を侵害しているか)について
前記前提となる事実で判示したように,本件サービスの利用者は,被告○○○の提供する本件サービスを利用して,MP3形式によって複製され,かつ,送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示すファイル情報を受信者に送信するなどしているが,本件サービスを運営する被告○○○の行為が,原告の有する自動公衆送信権及び送信可能化権を侵害するといえるか否かについて判断する。
(1) 利用者の行為と著作権侵害の成否
まず,判断の前提として,送信者が行う複製行為,自動公衆送信行為及び送信可能化行為が,それぞれ,複製権侵害,自動公衆送信権侵害,送信可能化権侵害を構成するかについて検討する。
ア 送信者の行う複製行為と複製権侵害の成否
() 音楽の著作物を演奏し,その演奏を録音した音楽CDは当該音楽の著作物の複製物である(法2条1項15号,同13号)。また,音楽CDをMP3形式へ変換する行為は,聴覚上の音質の劣化を抑えつつ,デジタル信号のデータ量を圧縮するものであり,変換された音楽CDと変換したMP3形式との間には,内容において実質的な同一性が認められるから,レコードの複製行為ということができる。したがって,音楽CDをMP3形式で複製することは,同音楽CDに複製された音楽の著作物の複製行為である。
() 法30条1項は,著作物は,個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(私的使用)を目的とするときは,使用する者が複製することができる旨を規定している。また,法49条1項1号は,法30条1項に定める目的以外の目的のために,当該レコードに係る音楽の著作物を公衆に提示した者は複製を行った者とみなす旨を規定している。
そうすると,利用者が,当初から公衆に送信する目的で,音楽CDをMP3形式のファイルへ変換した場合には,法30条1項の規定の解釈から当然に,また,当初は,私的使用目的で複製した場合であっても,公衆が当該MP3ファイルを受信して音楽を再生できるような状態にした場合には,当該複製物により当該著作物を公衆に提示したものとして,法49条1項1号の規定により,複製権侵害を構成する。
以上のとおり,本件サービスの利用者が,本件各管理著作物の著作権を有する原告の許諾を得ることなく,本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して同パソコンを被告サーバに接続すれば,複製をした時点での目的の如何に関わりなく,本件各管理著作物について著作権侵害(複製権侵害又はそのみなし侵害のいずれか)を構成する。
イ 送信者の行う自動公衆送信行為及び送信可能化行為と自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害の成否
() 前記前提となる事実のとおり,本件サービスは,ユーザーID及びパスワードを登録すれば誰でも利用できるものであり,既に4万人以上の者が登録し,平均して同時に約340人もの利用者が被告サーバに接続して電子ファイルの交換を行っている。そして,送信者が,電子ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して,本件クライアントソフトを起動して被告サーバに接続すると,送信者のパソコンは,被告サーバにパソコンを接続させている受信者からの求めに応じ,自動的に上記電子ファイルを送信し得る状態となる。
したがって,電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま被告サーバに接続して上記状態に至った送信者のパソコンは,被告サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置(法2条1項9号の5イ)に当たるということができ,また,その時点で,公衆の用に供されている電気通信回線への接続がされ,当該電子ファイルの送信可能化(同号ロ)がされたものと解することができる。
さらに,上記電子ファイルが受信側パソコンに送信された時点で同電子ファイルの自動公衆送信がされたものと解することができる。
なお,本件各MP3ファイルは,その内容において,本件各管理著作物と実質的に同一であるから,本件各MP3ファイルを送信可能化及び自動公衆送信することは本件各管理著作物を送信可能化及び自動公衆送信することに当たる。
() 以上によれば,本件サービスの利用者が,本件各管理著作物の著作権の管理者である原告の許諾を得ることなく,本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して被告サーバに接続すれば,本件各管理著作物について,著作権侵害(自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害)を構成する(法23条1項)。
ウ まとめ
利用者が,本件各管理著作物を複製し,送信可能化をし,又は自動公衆送信するに当たり,原告がこれを許諾した事実がないことは明らかであるから,本件サービスの利用者の前記各行為は,著作権侵害(複製権侵害,自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害)を構成する。
(2) 被告○○○の本件サービス提供行為と著作権侵害(自動公衆送信権及び送信可能化権侵害)の成否
ア 以上認定したとおり,送信者は,本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置し,かつ,その状態で被告サーバにパソコンを接続させているのであり,送信者の上記行為は,原告の有する送信可能化権を侵害し,さらに,受信者が送信側パソコンの共有フォルダに蔵置された本件各MP3ファイルを受信すれば,自動公衆送信権を侵害する。
しかし,被告○○○自らは,本件各MP3ファイルをパソコンに蔵置し,その状態でパソコンを被告サーバに接続するという物理的行為をしているわけではない。
そこで,被告○○○が,原告の有する送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきかを考察することとする。被告○○○が,送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきか否かについては,被告○○○の行為の内容・性質,利用者のする送信可能化状態に対する被告○○○の管理・支配の程度,被告○○○の行為によって受ける同被告の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきである。
イ 本件サービスの内容・性質
() 前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められる。すなわち,
a 被告サーバは,被告サーバに接続している利用者のパソコンの共有フォルダ内の電子ファイルに関するファイル情報を取得し,それらを一つのデータベースとして統合して管理し,受信者の検索リクエストに応じた形式に加工した上,これを,同時に被告サーバに接続されている他の利用者に対して提供し,他の利用者が本件クライアントソフトにより,好みの電子ファイルを検索・選択し,画面に表示されたダウンロードボタンをクリックするだけで(送信者のIPアドレスを知る必要もないまま)当該電子ファイルの送信を受けることができるようにしている。このように,ファイル情報の取得等に関するサービスの提供及び電子ファイルをダウンロードする機会の提供その他一切のサービスを,被告○○○自らが,直接的かつ主体的に行っている。利用者は,被告○○○のこれらの行為によってはじめてパソコンの共有フォルダ内に蔵置した電子ファイルを他の利用者へ送信することができる。
b 本件サービスを利用すれば,市販のレコードとほぼ同一の内容のMP3ファイルを無料で,しかも容易に取得できること,音楽データをMP3形式に変換しても,音質はあまり低下しないことから,市販のレコードを安価に取得したいと希望する者にとって,本件サービスは極めて魅力的である。他方,現時点においては,利用者自らが著作した音楽等のMP3ファイルを不特定多数の者に無料で提供したり,他の不特定の者が著作した音楽等のMP3ファイルを取得したいと希望する者は,市販のレコードをMP3形式で複製した電子ファイルを提供し,又は取得したいと希望する者に比して,かなり少ないものと推測される。仮に,そのような音楽等の電子ファイルの取得を希望する者がいたとしても,本件サービスにおける検索機能は,希望する作品の所在を正確に確認するには不十分であり(本件サービスにける検索機能は,受信者が受信しようとする音楽が特定されていることを前提としているが,市販されているレコードに収録されていない音楽を受信しようとする者はその音楽の実演家,楽曲名等を具体的に把握していないことが多いものと推測され,このように実演家及び楽曲名を把握していない音楽を検索するには,本件サービスの検索機能は機能しない。),結局,本件サービスはそのような作品の電子ファイルを交換するためには有効に機能しないものと解される。
c 実際にも,前記前提となる事実のとおり,被告サーバが送受信の対象としているMP3ファイルの約96.7パーセントが,市販のレコードを複製した電子ファイルに関するものである。そして,市販のレコードを複製したMP3ファイルのほとんどすべてのものが,その送信可能化及び自動公衆送信について著作権者の許諾を得ていないものであり,本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法な複製に係るものであることが明らかである。被告○○○は,本件サービスの開始当時から上記事態に至ることを十分予想していたものと認められる(この点,前記前提となる事実のとおり,被告○○○は,本件サービスの利用規約において,著作権を侵害する電子ファイルの送信可能化行為を禁止しているが,本件サービスを利用する者の身元確認をしていないのであるから,同規約の実効性が低く,本件全証拠によっても,他に,著作権侵害を防ぐに足る措置を講じていると認めることはできない。)。
d したがって,本件サービスは,MP3ファイルの交換に関する部分については,市販のレコードを複製したMP3ファイルを交換させる機会を与えるため,利用者に提供されたサービスであるということができる。
() 以上のとおり,本件サービスは,MP3ファイルの交換に係る部分については,利用者をして,市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有する。
() この点について,被告らは,本件サービスは,MP3ファイルの交換に関する部分とそれ以外の電子ファイルの交換に関する部分とが峻別されているわけではないから,本件サービスの中からMP3ファイルの交換に関する分野を取り出して,この分野について違法な利用がされている割合が高いとして,本件サービス全体の性質を判断することは相当でない旨主張する。しかし,本件で問題とされており,前記でその性質を判断したのは,本件サービス中のMP3ファイルの交換に関する部分であること,音楽をMP3形式で圧縮することによるインターネット上での流通の増大の可能性及びインターネット上におけるMP3形式で圧縮された音楽の流通の現状を考慮すると,送受信の対象となる電子ファイルがMP3ファイルである場合,他の電子ファイルの場合に比して音楽についての著作権侵害発生の可能性が格段に高くなるものと推測されることに照らすならば,本件サービスのうち,MP3ファイルの交換に関する部分についての性質を判断することには合理性があるというべきであるから,この点の被告らの主張は失当である。
ウ 管理性等
() 前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められる。すなわち,
a 利用者が本件サービスを利用して,電子ファイルを自動公衆送信するには,被告サイトから本件クライアントソフトをダウンロードして,これを自己のパソコンにインストールすることが必要不可欠である。
b 利用者は,パソコンを被告サーバに接続させることが必要不可欠であるが,この接続は,通常,本件クライアントソフトを起動することにより行う。
c 自動公衆送信の相手方も,パソコンに本件クライアントソフトをインストールし,そのパソコンを被告サーバに接続することが必要不可欠である。
d 本件サービスにおいては,受信者は希望する電子ファイルを検索して,その電子ファイルの蔵置されているパソコンの所在及び内容を確認できるようになっており,この検索機能がなければ,受信者が,本件サービスを利用して電子ファイルを受信することは事実上不可能である。送信者が本件サービスにおいて電子ファイルを自動公衆送信するのは,このような検索により,受信する者が存在することが前提となる。したがって,本件サービスにおける自動公衆送信及び送信可能化にとって,本件サービスにおける上記検索機能は必要不可欠である。なお,本件サービスにおいて送受信されているMP3ファイルのほとんどは市販のレコードを複製したものであること,本件サービスにおける電子ファイルの検索は,楽曲名及び歌手名による検索であることに照らすと,受信者が,市販されている特定のレコードを複製した電子ファイルを受信しようとする場合には,本件サービスにおけるこのような検索機能が必要不可欠といえる。
e 本件サービスにおいては,受信者に受信しようとする電子ファイルの検索を可能とさせるために,送信者に共有フォルダに蔵置する電子ファイルにファイル名を付させている。そして,送信者は,被告○○○の設定したルールに則り,自己のパソコンの共有フォルダに蔵置する電子ファイルにファイル名を付している。
f  本件サービスにおいては,受信者は,希望する電子ファイルの所在を確認した場合,本件クライアントソフトの画面上の簡単な操作によって,希望する電子ファイルを受信することができるようになっており(その際,受信者は,送信者のIPアドレス及びポート番号を認識する必要はない。),受信者のための利便性,環境整備が図られている。
g 被告○○○は,本件サービスの利用方法について,自己の開設したウェブサイト上で説明をし,ほとんどの利用者が同説明を参考にして,本件サービスを利用している。
() 上記認定した事実を基礎にすると,利用者の電子ファイルの送信可能化行為(パソコンの共有フォルダに電子ファイルを置いた状態で,同パソコンを被告サーバに接続すること)及び自動公衆送信(本件サービスにおいて電子ファイルを送信すること)は,被告○○○の管理の下に行われているというべきである。
() この点について,被告らは,利用者による送信可能化及び自動公衆送信を,著作権法上の規律の観点から,被告○○○が管理しているというためには,被告○○○が自動公衆送信及び送信可能化の対象を決定していることが必要であるが,本件サービスにおいて,パソコンの共有フォルダに蔵置する電子ファイルを選択,決定しているのは各利用者であって,被告○○○ではないから,被告○○○に管理性は認められない旨主張する。
しかし,送信の対象となる電子ファイルを選択するのが,専ら利用者であったとしても,前記認定した諸事実を総合すれば,利用者の自動公衆送信行為及び送信可能化行為が被告○○○の管理の下にされているとの認定,判断を左右するものではなく,この点の被告らの主張は失当である。
エ 被告○○○の利益
()a 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件サービスにおいては,本件サービスを利用してMP3ファイルを受信しようとする者から受信の対価を徴収するシステムを採用していないが,被告○○○は,将来,本件サービスを利用してMP3ファイルを受信した者から受信の対価を徴収するシステムに変更することを予定していることが認められる。
そして,このように本件サービスを将来有料化することを予定している場合は,現時点でのサービスの質を高め,顧客の本件サービスに対する満足度を高めることが重要であり,そのためには,現時点において,本件サービスを利用して入手できる音楽情報の曲目数をより多くすること,すなわち,本件サービスにおいて送信可能化されるMP3ファイル数をより多くすることが必須である。
このような観点からすれば,被告○○○が,本件サービスにおいて,より多くの送信者に被告サーバに接続させて,より多くのMP3ファイルの送信可能化行為をさせることは,本件サービスを将来有料化したときの顧客数の増加につながり,被告エム・エム・オーの利益に資するものといえる。
b インターネット上にウェブサイトを開設した場合,同ウェブサイトに接続する者の人数が増えれば,同ウェブサイトの開設者は同ウェブサイト上に広告を載せること等により収入を得ることができ,ウェブサイト上の広告掲載への需要は,当該ウェブサイトへの接続数と相関関係があり,接続数が多くなれば,広告掲載の需要が高まり,広告収入等も多くなる。
さらに,本件サービスにおいて,被告サーバに接続したパソコンに情報を送信するなどの方法により広告をすることもでき,そのような方法を採った場合には,被告サーバへの接続数と同サーバを利用した広告の需要との間に相関関係が認められる。
c ところで,前記前提となる事実で認定したように,本件サービスの登録者数は4万2000人であり,被告サーバに同時接続している利用者数は平均約340人,そのMP3ファイル数は平均約8万であるところ,本件サービスの運営を継続すれば,上記人数は,将来さらに増加することも予想され,本件サービスは広告媒体としての価値を十分有する。
() そうすると,利用者に被告サーバに接続させてMP3ファイルの送信可能化行為をさせること,及び同MP3ファイルを他の利用者に送信させることは,被告エム・エム・オーの営業上の利益を増大させる行為と評価することができる。
() この点について,被告らは,本件サービスにおいて送信可能化される著作物の権利者から許諾を得られるまでは,本件サービスを有料化しないこと,被告サイトへの広告掲載による広告料収入はあてにしていないこと等,本件サービスによって利益を得る目的を有していないことを縷々主張し,(証拠)にはこれに沿う内容の陳述がある。しかし,被告○○○は,営利行為をすることを目的として設立されたものであって,本件サービス以外の活動はしていない(弁論の全趣旨)。したがって,被告らの主張するように,本件サービスにより利益を得る目的を有していないということは考え難い。なお,被告Aは,本件サービスの提供によって培ったP2P技術を活かして,企業向けサービスを開発し,販売していくという構想を有していた旨供述するが,このような形の収益の可能性は不明であり,このように収益の目処を具体的に立てずに起業することは考えられないこと,被告Aは,雑誌のインタビューにおいて,本件サービスを将来有料化することを考えている旨発言していることから,同供述は措信できない。
また,被告らは,利用者が被告サイトを閲覧するのは,本件クライアントソフトをダウンロードするときの1回だけであるから,被告サイトは広告媒体としての価値を有さない旨主張する。しかし,前記のとおり,被告サイトには,本件サービスの利用方法についての説明も掲載されており,利用者は,本件クライアントソフトをダウンロードするときに限らず,本件サービスの利用方法についての疑問を解消する目的で被告サイトを閲覧することもあるものと推測され,また,被告サイトを閲覧させるという方法によらずに,利用者が被告サーバへパソコンを接続した際に同パソコンに広告の情報を送信するなどの方法により広告を行うことも可能であると解される。したがって,本件サービスが広告媒体としての価値を有しないということはできない。被告らの上記主張は理由がない。
オ 小括
以上のとおり,本件サービスは,MP3ファイルの交換に係る分野については,利用者をして,市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有すること,本件サービスにおいて,送信者がMP3ファイル(本件各MP3ファイルを含む。)の自動公衆送信及び送信可能化を行うことは被告○○○の管理の下に行われていること,被告エム・エム・オーも自己の営業上の利益を図って,送信者に上記行為をさせていたことから,被告○○○は,本件各管理著作物の自動公衆送信及び送信可能化を行っているものと評価することができ,原告の有する自動公衆送信権及び送信可能化権の侵害の主体であると解するのが相当である。
なお,この点について,被告らは,被告○○○は自動公衆送信権及び送信可能化権侵害の主体でないことの理由を縷々主張するが,同主張は,前記判示したところに照らして,いずれも理由がない。
2 争点(3)(被告らの損害賠償責任の有無)について
(1) 被告○○○の損害賠償責任の有無
ア 事実認定
()
イ 過失の有無に関する判断
() 以上認定した事実によれば,被告○○○は,遅くとも,本件サービスの運営を開始した直後には,本件サービスによって,他人の音楽著作物についての送信可能化権及び自動公衆送信権が侵害されていることを認識し得た。
そうすると,被告○○○は,本件サービスの運営を行う際に,このような著作権侵害が行われることを防止するための適切,有効な措置を講じる義務があったというべきである。しかるに,被告○○○は,著作権侵害を防止するための何らの有効な措置を採らず,漫然と本件サービスを運営して,原告の有する送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害したのであるから,同被告には,この点で過失がある。したがって,被告○○○が本件サービスを提供する行為は不法行為を構成し,被告○○○は,原告が本件サービスの運営によって被った損害を賠償する責任があるというべきである。
() この点について,被告らは,本件サービスにおいては,利用者は,パソコンの画面上で,著作権等を侵害する電子ファイルを送信可能な状態としないことなどを内容とする利用規約に同意する旨のボタンをクリックしない限り,本件クライアントソフトをダウンロードすることができない仕組みとされていること,被告○○○の利用規約によれば,著作権等の権利を侵害する電子ファイルを送信可能化することを禁止すること,送信可能な状態に置かれた電子ファイルにより権利が侵害されたと主張する者から,当該ファイル公開の停止(共有の解消)を求められたときは,利用者は「ノーティス・アンド・テイクダウン手続規約」に従うべきとされていることから,被告○○○の注意義務は尽くされている旨主張する。
しかし,本件サービスにおいては,利用者の戸籍上の名称や住民票の住所等,本人確認のための情報の入力は要求されておらず,被告○○○が講じたこのような措置は,著作権侵害行為を防止するために十分な措置であるということは到底できず,この点の被告らの主張は採用できない(実際にも,本件サービスにおいて送信可能化されたMP3ファイルのうちの96.7パーセントは市販のレコードを複製したものであり,被告○○○の講じた上記措置が全く実効性のないものであったことが明らかである。)。
()
3 結語
以上より,本件サービスにおいて,パソコンの共有フォルダ内に本件各MP3ファイルを蔵置した状態で,被告サーバに同パソコンを接続させる行為は,本件各管理著作物について原告の有する送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害行為に当たり,被告○○○は,同侵害行為の主体であると認められる。また,被告らは,上記侵害行為により原告に生じた損害を連帯して賠償すべき義務がある。
そして,本件においては,被告○○○に対する差止請求の範囲及び原告の被った損害の額等について,更に審理をする必要がある。

[控訴審同旨]
3 控訴人会社を送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害の主体とした認定の誤りについて
本件で請求されているのは,本件管理著作物の送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害に基づく,本件管理著作物の本件サービスによる送受信の差止め及び損害賠償である。そして,本件サービスのように,インターネットを介する情報の流通は日々不断にかつ大量になされ,社会的に必要不可欠なものになっていること,そのうちに違法なものがあるとしても,流通する情報を逐一捕捉することは必ずしも技術的に容易ではないことなどからすると,単に一般的に違法な利用がされるおそれがあるということだけから,そのような情報通信サービスを提供していることをもって上記侵害の主体であるとするのは適切でないことはいうまでもない。しかし,単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず,本件サービスが,その性質上,具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり,控訴人会社がそのことを予想しつつ本件サービスを提供して,そのような侵害行為を誘発し,しかもそれについての控訴人会社の管理があり,控訴人会社がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは,控訴人会社はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として,その責任を問われるべきことは当然であり,控訴人会社を侵害の主体と認めることができるというべきである。
(1) 本件サービスの性質について
ア (証拠)並びに弁論の全趣旨によれば,本件サービスは,キーワードと拡張子でファイルを検索できるものと認められる。このことと,2で摘示した記載及び前記引用に係る原判決認定の事実からは,本件サービスは,インスタントメッセージサービス機能もあるものの,基本的にはファイルの交換に特化したものであって,ファイルを特定するための情報の収集・整理(検索のためのデータベースの構築),検索(特定の語をその名称に含むファイルないしフォルダの検索要求を受付け,その所在を回答する。),利用者同士の直接のファイルの送受信の仲介という,ファイル交換に必要な基本的機能を一体的に有するものであり,また,この機能を実現するためのハードウェア(サーバ)を備え,ソフトウェア(本件クライアントソフト)を個々の利用者に提供しているものであるということができる。
また,本件サービスがファイルの交換ツールであると自ら説明し,さらに「ユーザーは,他ユーザーと共有する自分のファイルを任意で選ぶことができ,また,他ユーザーが共有設定しているファイルを検索,閲覧,交換することができます。ファイルローグを利用すれば,どんな種類のファイルも共有可能で,世界中どこにいる相手ともファイル交換をすることができます。」としていることからすれば,本件サービスは,各ユーザーが単にファイルを取得するだけでなく,自分の有しているファイルを他者に対して提供することをも勧めるものであることは明らかである。
イ 本件サービスの検索機能は,ファイルの拡張子のほかは,各クライアント機の共有フォルダ内のファイル及びフォルダの名称しか対象としないものであるから,多くの人が知っている語がその名称となっているファイル及びフォルダしか検索できないものであり,逆にいうとそのようなファイル及びフォルダの検索に適しているといえる(例えば,文書ファイルのように,あるファイルが検索キーワードをその内容に含んでいても検索により抽出されないから,検索結果がより絞られて利用者に提示されることになる。)。
楽曲に係る電子ファイルは,基本的に単語をファイル自体の内容として含まないものであり,その内容を他のファイルと区別して端的に表現する語を想起するのは必ずしも容易ではなく,例えば作成日時で特定することも有効でないといえるから,それを管理する(他の同種ファイルと区別する)ための最も典型的な方法は,そのファイル名自体に楽曲名ないしアーティスト名を採用し,あるいはそれを蔵置するフォルダ名にアーティスト名等を付することであることは明らかである((証拠)によれば,現実にそのように扱われていることが認められる。)。また,楽曲に係る電子ファイルの種類(フォーマット)が複数あるとしても,MP3ファイルが,そのファイル容量と音質のバランスから広く用いられており,かつ,その拡張子がmp3であることは一般的なルールである。
以上からは,広く世間に知られた楽曲に係る電子ファイル,すなわち市販のCD等の複製に係るMP3ファイルは,本件サービスによる検索,ひいては送受信されるのに非常に適したファイルの一つといえ,しかも,有償のものが無償で入手できるものであるから,本件サービスはその性質上,利用者にそのような利用をさせる強い誘引力を有しているといえる。
現実に,本件サービスにより送信可能化されていたMP3ファイルのほとんどが,市販のCD等の複製であったことは,このことを裏付けるものである。
ウ ア及びイで述べたとおり,本件サービスは,ファイルの交換に特化してそのための機能を一体的に備え,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルという特定の種類のファイルの送受信に非常に適したものであり,そのような利用態様を誘引するものであるという事実に鑑みれば,本件サービスは,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信を惹起するという具体的かつ現実的な蓋然性を有するものといえるから,MP3ファイルの交換に関する部分について,利用者をして,上記のようなMP3ファイルの送信可能化及び自動公衆送信させるためのサービスとしての性質を有すると優に認定することができる。
なお,本件サービスが送受信の対象となるファイルをその種類で区別していないことから,例えば著名な作家の小説に係る文書ファイルについても同じようにいえるとしても,そのことは,本件サービスが上記性質を有するとの認定を左右するものではない。しかも,後記ケのとおり,本件サービス開始前後の状況は,本件サービスの上記性質をより強く示すものであったということができる。
エ この点について,控訴人らは,Bフレッツ等の回線提供サービス,ISPのインターネット接続サービス,ウェブブラウザと検索エンジンとの組合せ,あるいはネットワーク対応のOSのファイル共有機能と,本件サービスとは異ならず,これらのサービスにおいて特定の利用形態を採り出してその性質を論じることが一般的になされないのであるから,本件サービスもそのように扱われるべきであると主張する。
() 前記のとおり,本件サービスはファイル交換に特化し,そのための必要な機能を一体的に提供し,かつ,その性質として市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換に適したものであり,そのような利用を強く誘引するものであるのに対し,Bフレッツ等は単に回線を提供するだけのものであり,またISPはインターネットへの接続を提供するだけであり,それら回線の提供,接続の提供を受けた利用者に対し,本件サービスのような特定の種類のファイルの送受信をさせるよう誘引するものではない。さらに,その提供だけでは,ファイルの交換は可能にも便利にもならない。
() ウェブブラウザと検索エンジンとの組合せも,もともとファイルの交換を目的とするものではなく,利用者に対してファイルの提供を勧めるものでもない。また,ウェブサイト中の単語も検索対象となるから,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの所在を必ずしも的確に把握できるものではないのであって,これらは,利用者をして市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を発生させるものとはいえない。
() ネットワーク対応のOSのファイル共有機能が,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換について,本件サービスと同等の機能を持つとしても,後者がOSに依存せず(「ファイルローグはJAVAで記述されており,OSを問わずさまざまなプラットホームで動きます。ファイルローグは,JAVA1.3以上の環境で動作します。」との記載参照),潜在的にはインターネット接続環境を有する者全てを対象とするものであり,現にサービス開始直後から多数の利用者を獲得して,MP3ファイルだけでも常時数万前後を送信可能化しているのに対し,前者は,当該OSの利用者でかつ特定のネットワーク(LAN)に所属する者だけが利用できるものに過ぎず,そこに集積される市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの数もさほど多くはならないと認められ,また,共有設定したフォルダ内のファイルは常に共有状態となり(本件サービスのように,特定のソフトを起動しているときのみ共有状態になるものではない。),かつ小規模かつ閉鎖的なネットワークでは違法な行為は発覚しやすいと利用者は考えるのが常識であるから,上記MP3ファイルの交換という利用が生ずる蓋然性の点で,両者を同一に論ずることはできない。さらに,特定のネットワークに属する者の間では,仕事等の文書ファイル等も交換されるものであり(同一組織に属することにより持たれる共通の知識等により適切な検索語を設定することが可能である。),格別市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換だけ有利というわけでもない。
() 電子掲示板やインターネットそのものについて,そこにおける名誉毀損や著作権侵害に該当する情報流通が,一定程度生じることがあるとしても,それが,具体的にどのような形で生じるかは不確定であり必ずしも把握は容易でないのに対し,本件サービスでは,類型的な著作権侵害行為が,具体的かつ現実的な蓋然性をもって生じるものであり,控訴人会社(本件サービスの提供者)は,サーバ管理者として,送受信可能化されているファイルのうちのMP3ファイルの中で,市販のCD等の複製に係るファイルはどれかを,ファイル名ないしフォルダ名から容易にかつかなりの確度をもって認識でき把握できるものであるから,それらと同一視することはできない。
オ (証拠)並びに弁論の全趣旨によれば,本件サービスでは,拡張子と単一キーワードでAND検索をする機能があると認められる。これだけでも,有名な原題名及びアーティスト名をファイル名ないしフォルダ名に持つ,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの探索には充分である。なお,「さらに絞り込む(R)」のボタンの存在からは,複数の語を同時に入力してAND検索をすることができないとしても,逐次入力してのAND検索をすることはできるものと推認できる。
また,本件サービスにおいてダミーファイルも送信可能化されていると推認できるとしても,その数や送信可能化されるMP3ファイル全体に占める割合は不明であり,本件サービスが市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信にとって使い勝手のよいものであるとの認定を覆すものではない。
カ 本件サービスにより,適法なMP3ファイルの送受信がなされることもあり得ることはそのとおりであり,その割合が将来的には増えていく可能性を否定し得ないとしても,本件全証拠をもってしても,本件仮処分決定時までの本件サービスの利用実態が大きく変わる蓋然性があるとまでは認められない。そうである以上,本件仮処分決定時までの利用実態を基にした,本件サービスの性質(本件サービスが,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルという,特定の種類のファイルの交換をさせる具体的かつ現実的な蓋然性を持つということ)についての前記認定が覆ることになるものではない。
なお,本件差止主文は,後記のとおり,本件サービス自体の停止を不可避とするものではない。
キ 本件サービスの利用規約(以下「本件利用規約」という。)に,「弊社は,予告なくあなたのアカウントを抹消また利用停止とすることができます。また,弊社は,予告なくあなたが入力した情報や中央サーバーにアップロードされたファイル名リストの一部または全部を削除することができます。」,「権利者からのクレーム あなたは,あなたが送信可能な状態においたファイルにより自己の権利を侵害されたと主張する方から,共有状態の解消の申立てがなされた場合,「ノーティス・アンド・テイクダウン手続規約」にしたがうことに合意します。」として,ノーティス・アンド・テイクダウンの手続が定められているとしても,そもそもこれはあくまで侵害行為が発生した場合に事後的にこれをなくすものであって,予め防止するものではない。
もっとも,この手続が存在すること及びそれを適切に適用し,事後的にしろ著作権侵害行為を排除していくことにより,結果的にそのような行為の発生が抑止されることはあり得る。しかし,本件利用規約では,「また,弊社は,ユーザーのみなさまが入力した情報や,交換されたファイルの情報について,原則として管理や調査を行いません。」として,控訴人会社が積極的に本件サービスの利用実態について管理・調査を行わないことを明言しており,しかも,控訴人会社は利用者の氏名・住所を申告させていないから,利用者の中には匿名性が保たれ自分の身元が容易には判明せず,民事上ないし刑事上の責任追及を受けないと考える者も少なからず存在するといえるのであって,ノーティス・アンド・テイクダウン手続の存在により,利用者が著作権侵害行為を差し控えるとは認められない。
また,本件サービスのシステムでは,利用者は,本件クライアントソフトを起動することにより,好む時だけ控訴人会社サーバとの接続状態を形成するものであり,接続を断ってしまえば,その者が送受信の対象としていたファイル情報は検索データベースから除去されるため,個々の利用者が,どのようなファイルを送信可能化ないし自動公衆送信していたかを,控訴人会社サーバを管理していない第三者が把握することは,相当困難であると認められる。したがって,権利者が,ノーティス・アンド・テイクダウン手続を利用することも困難といえる。
そうすると,本件サービスにおいて,ノーティス・アンド・テイクダウン手続は,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信を防止する有効な手段とはいえず,これを講じたことをもって,そのようなMP3ファイルの送受信が少なくなり,本件サービスの性質についての前記認定を変えることになるとはいえない。
なお,本件利用規約に,「禁止事項・・・(a) 著作権,著作隣接権,名誉権,プライバシー権その他第三者の権利を侵害するファイルを送信可能な状態とすること」,「保証 共有設定するファイルが,第三者の権利を侵害しないことをあなたは合意します。・・・違法行為には,著作権のあるファイルを許諾無く自らのコンピュータ内で送信可能な状態にする「送信可能化権」の侵害を含みます。」との記載があり,著作権侵害に該当するファイルの送受信をしないよう注意しているということを加味しても,本件サービスの性質についての前記認定は左右されない。
ク 本件サービスの利用者のうち,送信可能化ないし自動公衆送信について,被控訴人の許諾を得ていた者がいたのか,あるいはその割合がどれくらいのものかについて,控訴人らは具体的な主張・立証をしない。したがって,そのような者が,全員ではないにせよ相当割合いることを前提に,本件サービスの性質を論じることはできない。
その他,本件サービスにおいて,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換を防止するに足る措置が講じられているとは認められず,本件サービスが,上記MP3ファイル送受信を可能にするためのサービスという性質を持つという前記認定を覆すに足りる事実は認められない。
ケ ところで,本件サービス開始前,アメリカにおいて,ハイブリット型のP2Pシステムを採用し,音楽著作物の電子ファイルの交換が行われることにより極めて多数の利用者を擁していた「ナップスター」(Napster)と呼ばれるファイル交換サービスが存在し,そのことは日本でも知られ,本件サービスはこのナップスターと同様のサービスを提供するものとして,その開始前後から話題になっていた。
また,平成13年9月28日付の日経産業新聞において,「カナダでファイル無料交換サイト(ファイル・ローグ)を運営するITPソリューションズ(カルガリー)は十月中旬,日本でのサービスを開始する。・・・日本エム・エム・オー・・・と提携し,日本語による本格的なファイル交換サイトを立ち上げる計画だ。
仕組みは音楽無料交換サイトの米ナップスターとほぼ同様。利用者はそれぞれが保有する音楽などのファイルをネットワーク内で共有し,自由に検索してダウンロードする。相手が持ってさえいれば,希望の楽曲を無料で入手することが可能という。」との報道がされた。
さらに,平成13年11月1日,本件サービスの開始についてテレビ報道があり,そこでは,「無料で新曲をゲット」,「日本の音楽業界を震撼させるサービスが始まりました。」,「人気アーチストの新曲などあらゆるCDの音楽を自宅にいながらにしてしかも無料で手に入れることが出来るというもので,早くも著作権を巡って論議を呼んでいます。」,「アメリカでは2年前ナップスターという会社が同じようなサービスを始めました,利用者はおよそ5000万人,1ヶ月になんと30億曲という音楽が自由に交換されました。」,「ナップスターと違いエム・エム・オー社のサービスは日本語,日本で爆発的に利用者が増えると見られています。サービスは今朝の9時からはじまりましたが,わずか6時間で2万曲もの音楽が登録されました。」との紹介がされた。また,控訴人Xも「少なくとも1年間で,まあ10万人くらいはいるでしょうね。まあ100万曲ぐらいは,あの交換されるじゃないかなと。」と述べ,さらに,本件サービスが著作権を侵害するものとして,これに対し法的措置を執らざるを得ないとの日本レコード協会のコメントに対し,「我々はファイルを自由にやりとりできる,まあ場を提供しているだけでですね。ユーザーが,えーどう使うかっていうところまでは,まあ我々の責任外」と述べている(なお,本件サービスの開始について,同じテレビ局がさらに二回放送し,市販のCDの複製に係るMP3ファイルが取得できるものとして紹介している。)。
以上のような本件サービス開始前後の状況からすれば,多くの者が,本件サービスを市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの交換ができるものと認識して,そのように利用することは必定であり,前記認定に係る本件サービスの性質を,より強く示すものということができ,また,そのような事態となることは,控訴人会社においても十分予想していたものというべきである。
(2) 管理性について
ア 前記2,3(1)の認定説示及び引用に係る原判決認定の本件サービスのシステムからすれば,控訴人会社は,ファイルの交換に必要な機能を有する本件サービスを一体的に提供しており,本件サービスは,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信に適し,それを具体的かつ現実的な蓋然性をもって誘発するものであって,控訴人会社も本件サービスがそのように利用されることを予想していたものということができるから,控訴人会社としては,MP3ファイルに限っては,著作権を侵害するものを除去するよう監視し,必要な措置を講ずべき立場にあるというべきである(侵害の結果の発生を100パーセントは防止することができないとしても,部分的にせよ著作権を侵害するMP3ファイルの交換を阻止できるならば,そのような措置を講じるべきことは当然である。)。
そして,カナダの会社を介しているにせよ,控訴人会社は,本件サービスにおいて送受信の対象とされているファイルの所在及び内容を把握でき,必要に応じてファイルの送受信を制限(特定のファイルの送受信を禁止する)したり,特定の利用者の利用自体を禁止する等の措置を講じたりすることができるといえるから(前記(1)キにおいて認定した本件利用規約の内容参照),控訴人会社は,送受信の対象とされているファイルの内容を管理する権能を有していると認められる。
イ 控訴人らは,控訴人会社は本件サービスにおいて送受信の対象となるファイルを決定できないから,本件管理著作物のMP3ファイルが送受信の対象となっても,被控訴人に適切な利用の許諾を求めることができず,被控訴人の著作権を侵害するMP3ファイルを排除することもできないから,管理性は否定されるべきであると主張する。
本件サービスにおいて,クライアント機の共有フォルダに蔵置するMP3ファイルの数・種類を決定するのは個々の利用者であり,また,本件サーバに接続するか否かも個々の利用者が決定するものである。しかし,控訴人会社は,どの程度の数のMP3ファイルが同時送信可能化されているかは最大値や平均値等で把握可能であり,アクセスを制限するなどして同時送信可能化ファイルの最大数をコントロールすることもできること,同時送信可能化されたMP3ファイルのうち本件管理著作物の数がどの程度であるかは,ファイル名及びフォルダ名を基準にして,個別に把握することも,不作為抽出による推計で概数として把握することも可能であること,100パーセントではないにせよ,やはりファイル名及びフォルダ名を頼りに違法なMP3ファイルを除外することもできること(これが可能なことについては後記4参照)からすれば,控訴人会社は送受信の対象となるMP3ファイルの範囲を相当程度コントロールすることができるといえるのであり,その管理性を肯定することができる。なお,これが,送受信の対象とされるファイルの範囲を具体的に決定することができるという意味での管理ではないにしても,そのようなシステムを採用し,提供しているのは控訴人会社自身であり(控訴人会社は,このシステムが有する,多数ないし容量の大きいファイルの交換を,大容量の記憶装置を持たないサーバ等安価な装置と,比較的低速の回線で実現できるというメリットを享受している。),上記のようなコントロールが可能である以上,送受信されるファイルを決定していないからといって,その管理性を否定することはできない。
ウ 控訴人らは,クラブキャッツアイ事件において示された判断の妥当性や,その本件への適用の誤りなどについて縷々主張するが,控訴人会社が侵害主体と認められることは,前記のとおりである。
また,著作権法の解釈上,著作権の侵害主体は現実に著作物等の利用それ自体の物理的行為を行っている者に限定されるべきであるとはいえないし,これと異なる前提に立って憲法29条2項違反をいう控訴人らの主張は,その前提を欠き失当である。
エ 本件サービスにおいて,ファイル情報の取得,検索要求の受付と結果の回答,利用者間の直接のファイルの送受信の仲介が機械的かつ自動的に処理されるものであるとしても,そのことは,前記ア及びイで認定した,控訴人会社の管理性を否定するものではない。本件サービスのシステムが,そのような機械的な処理をするものであっても,なお控訴人会社は,手動を含めて,一定程度は送受信されるファイルの内容を把握し,コントロールでき,かつそのようにする責務を負っているのである。
(3) 控訴人会社の利益の存在について
控訴人会社サイトにある広告バナーをみるのが,基本的にアカウントを取得し(本件利用規約参照),本件クライアントソフトをダウンロードするときだけであるとしても,それらが本件サービスの利用において不可欠である以上,本件サービスの提供に関し,控訴人会社は広告料という直接の利益を得ているといえるし,本件サービスが広告媒体としての価値を有しないともいえない。
また,本件サービスにおいて,市販のCD等の複製に係るMP3ファイルの送受信ができることはその利用者を吸引し増やす最も大きな力であり(なお,利用者が増えることと,本件サービスにより送受信されるMP3ファイルの数・種類が増えることは相互にプラスの効果を及ぼし合う,すなわち前者が増えると,MP3ファイルの数・種類が増え,そうなると,ますます本件サービスの魅力が増し利用者が増える。),利用者が増えれば,将来的には,サービスの有料化ないし広告媒体としての活用等により,本件サービスの商業的価値を増すことは明らかである。
(4) 以上の点を総合考慮すれば,控訴人会社は,本件サービスによる本件管理著作物の送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害主体であると認めることができる。