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著作権判例セレクション
【公衆送信権】公衆送信権の射程範囲(電子ファイルの交換)
▶平成15年1月29日東京地方裁判所[平成14(ワ)4237](中間判決)
1 争点(1)(被告○○○は,原告の有する著作権を侵害しているか)について
前記前提となる事実で判示したように,本件サービスの利用者は,被告○○○の提供する本件サービスを利用して,MP3形式によって複製され,かつ,送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示すファイル情報を受信者に送信するなどしているが,本件サービスを運営する被告○○○の行為が,原告の有する自動公衆送信権及び送信可能化権を侵害するといえるか否かについて判断する。
(1) 利用者の行為と著作権侵害の成否
まず,判断の前提として,送信者が行う複製行為,自動公衆送信行為及び送信可能化行為が,それぞれ,複製権侵害,自動公衆送信権侵害,送信可能化権侵害を構成するかについて検討する。
ア 送信者の行う複製行為と複製権侵害の成否
(ア) 音楽の著作物を演奏し,その演奏を録音した音楽CDは当該音楽の著作物の複製物である(法2条1項15号,同13号)。また,音楽CDをMP3形式へ変換する行為は,聴覚上の音質の劣化を抑えつつ,デジタル信号のデータ量を圧縮するものであり,変換された音楽CDと変換したMP3形式との間には,内容において実質的な同一性が認められるから,レコードの複製行為ということができる。したがって,音楽CDをMP3形式で複製することは,同音楽CDに複製された音楽の著作物の複製行為である。
(イ) 法30条1項は,著作物は,個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(私的使用)を目的とするときは,使用する者が複製することができる旨を規定している。また,法49条1項1号は,法30条1項に定める目的以外の目的のために,当該レコードに係る音楽の著作物を公衆に提示した者は複製を行った者とみなす旨を規定している。
そうすると,①利用者が,当初から公衆に送信する目的で,音楽CDをMP3形式のファイルへ変換した場合には,法30条1項の規定の解釈から当然に,また,②当初は,私的使用目的で複製した場合であっても,公衆が当該MP3ファイルを受信して音楽を再生できるような状態にした場合には,当該複製物により当該著作物を公衆に提示したものとして,法49条1項1号の規定により,複製権侵害を構成する。
以上のとおり,本件サービスの利用者が,本件各管理著作物の著作権を有する原告の許諾を得ることなく,本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して同パソコンを被告サーバに接続すれば,複製をした時点での目的の如何に関わりなく,本件各管理著作物について著作権侵害(複製権侵害又はそのみなし侵害のいずれか)を構成する。
イ 送信者の行う自動公衆送信行為及び送信可能化行為と自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害の成否
(ア) 前記前提となる事実のとおり,本件サービスは,ユーザーID及びパスワードを登録すれば誰でも利用できるものであり,既に4万人以上の者が登録し,平均して同時に約340人もの利用者が被告サーバに接続して電子ファイルの交換を行っている。そして,送信者が,電子ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して,本件クライアントソフトを起動して被告サーバに接続すると,送信者のパソコンは,被告サーバにパソコンを接続させている受信者からの求めに応じ,自動的に上記電子ファイルを送信し得る状態となる。
したがって,電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま被告サーバに接続して上記状態に至った送信者のパソコンは,被告サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置(法2条1項9号の5イ)に当たるということができ,また,その時点で,公衆の用に供されている電気通信回線への接続がされ,当該電子ファイルの送信可能化(同号ロ)がされたものと解することができる。
さらに,上記電子ファイルが受信側パソコンに送信された時点で同電子ファイルの自動公衆送信がされたものと解することができる。
なお,本件各MP3ファイルは,その内容において,本件各管理著作物と実質的に同一であるから,本件各MP3ファイルを送信可能化及び自動公衆送信することは本件各管理著作物を送信可能化及び自動公衆送信することに当たる。
(イ) 以上によれば,本件サービスの利用者が,本件各管理著作物の著作権の管理者である原告の許諾を得ることなく,本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して被告サーバに接続すれば,本件各管理著作物について,著作権侵害(自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害)を構成する(法23条1項)。
ウ まとめ
利用者が,本件各管理著作物を複製し,送信可能化をし,又は自動公衆送信するに当たり,原告がこれを許諾した事実がないことは明らかであるから,本件サービスの利用者の前記各行為は,著作権侵害(複製権侵害,自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害)を構成する。