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著作権判例セレクション

【氏名表示権】氏名表示権侵害の否認事例(子供向け図鑑のイラストについて問題となった事例)

平成28629日知的財産高等裁判所[平成28()10019]
() 本件は,控訴人が,本件イラストの著作者であるところ,被控訴人による本件書籍の複製等は,控訴人の有する本件イラストに係る著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害する行為である旨主張して,被控訴人に対し,本件書籍の複製等の差止め等を求めた事案である。
原判決は,控訴人は被控訴人に対して本件書籍の発行を許諾したところ,同許諾につき控訴人に錯誤があったということはできず,また,氏名表示権の侵害があったということもできないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで,控訴人が,原判決を不服として控訴したものである。

4 争点(3)(本件書籍における氏名表示権侵害の有無)について
(1) 認定事実
前記前提事実に後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件書籍における氏名表示について,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
ア 本件書籍は,テレビ番組「ウルトラセブン」及び「ウルトラマン」に登場する主人公,武器,怪獣等を専ら子供向けに紹介する図鑑であり,本文は約170ページから成り,ほとんどのページにイラスト又は写真が掲載され,これに説明文が付されている。
本件イラストは,本件書籍中21ページにわたり掲載されており,見開きページのほぼ全体を占めるものや,ページの下部に小さく表示されたものなどが含まれる。
イ 本件書籍の2ページの目次の左側には,「さし絵」と記載された欄があり,そこに,控訴人を含む6名の氏名が列記されている。
他方,本件書籍では,本件イラストのみならず,その他のイラストを含め,イラストが掲載されたページ内又はその付近に,当該イラストの作成者の氏名は記載されていない。
ウ 本件書籍は,昭和43年5月30日に初版が発行された原書籍をほぼそのまま復刻したものであり,前記イのとおりのイラストの作成者の表示方法も,原書籍におけるものと同一である。
なお,昭和53年9月30日発行の原書籍の24版には,目次のページに「さし絵」と記載された欄及び氏名の表示がないが,初版と異なるものとされた事情は,本件の証拠上明らかでない。
エ 本件イラストは,原書籍の発行以前に他の雑誌に掲載されたイラストをそのまま,又はレイアウトを一部修正するなどして,原書籍に使用され,さらにこれがそのまま本件書籍に使用されたものである。本件イラストのうちには,これらが雑誌に掲載された際,控訴人の氏名が,①当該イラストの付近に表示されていたものがある一方,②雑誌の最終ページに「絵」として,他のイラスト作成者の氏名と列記されていたものもあった。
(2) 氏名表示権侵害の有無
本件書籍における氏名表示の方法は,2ページの目次の左側に「さし絵」と記載した欄があり,そこに控訴人を含む6名の氏名を列記するというものであるところ,控訴人は,本件書籍におけるように,イラストごとに著作者名を表示するのではなく,特定のページにその氏名をまとめて表示した場合,どのイラストを誰が描いたのか全く分からないから,このような方法は,著作権法19条が氏名表示権を規定する趣旨を没却するものであり,許されない旨主張する。
しかし,前記(1)認定のとおり,本件書籍がテレビ番組に登場する主人公,武器,怪獣等を専ら子供向けに紹介する図鑑であり,本文を構成する約170ページのほとんどのページに大なり小なりイラスト又は写真が掲載されていること,②本件書籍の原書籍においても,本件書籍におけるのと同様の表示がされていたことに加え,証拠によれば,単行本として発行される図鑑や事典において,そこに含まれるイラストの著作者が複数いる場合,イラストごとにそれに対応する作成者の氏名を表示せず,冒頭や末尾に一括して作成者の氏名を表示することも一般的に行われていると認められることに照らせば,本件書籍の内容や体裁において,イラストごとにそれに対応する作成者の氏名が表示されていなければ氏名表示がされたことにならないとまでいうことはできず,本件書籍における氏名表示の方法が,公正な慣行に反し,控訴人の本件イラストに係る氏名表示権を侵害するものであるということはできない。