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著作権判例セレクション
【美術著作物】博多人形を美術の著作物と認定した事例
▶昭和48年2月7日長崎地方裁判所佐世保支部[昭和47(ヨ)53]
一、本件疎明資料および審尋の結果を総合すると次の事実が一応認められる。
1 別紙物件目録記載の作品(以下本件人形と略称する)。は通称博多人形と呼ばれる高さ約一九センチメートルの彩色素焼人形で、右は粘土製の人形生地を素焼きのうえ絵の具によつて彩色した工芸品であつて、石膏で型取りして多量に生産し販売することを目的として作られるもので、本件人形も現にそのように生産販売されているものである。
2 債権者は右の博多人形を製作することを目的として設立された有限会社である。本件人形の「赤とんぼ」は同社の新人形開拓計画の一環として製作されたもので、昭和41年2月から6月にかけて童謡人形六点のうちの一点として製作されたが、右は「赤とんぼ」なる題を債権者側で決定したうえ、人形師の申請外Aに依頼して粘土による原型となる人形を作らせ、これを素焼きしたものを人形絵師の申請外Bに依頼して彩色させ、よつて完成させたもので、右完成に至るまで債権者側ではそのイメージに合うように右二人の製作者に種種注文をつけて修正させつつ製作させたものである。そして債権者はそのころ申請外Aに対し型料として、同Bに対し絵付け料としてそれぞれ相当の金銭を支払い、同時に本件人形の複製、販売の権利を取得した。
3 右「赤とんぼ」は発売以来好評を博し、その売上額も年々増加し、(中略) 総売り上げ額の約18パーセントを占めた。
4 債務者○○陶芸有限会社および同C(右会社の代表取締役)は同Dに依頼されて本件人形の複製物を手に入れ、これを原型に使用し石膏で型取りしてさらに複製物を作成するいわゆる「ポン抜き」という方法で本件人形とそつくりそのままの形、彩色をした粘土の素焼人形を模作し(もつとも、債務者の複製物は、債権者の複製物を原型に使用するため、乾燥、焼き締めの過程で水分を失うため一割程度縮少している)。昭和46年6月以降現在までその模作を続けており、また債務者△△陶器株式会社および同D(右会社の代表取締役)は右「ポン抜き」により模作された人形を本件人形「赤とんぼ」と同一名称を付けて右の期間販売している。
二、本件人形「赤とんぼ」は著作物に該当するか。
著作権法の対象となる著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものでなければならないが、前記認定のとおり本件人形「赤とんぼ」は同一題名の童謡から受けるイメージを造形物として表現したものであつて、検甲一号証によればその姿体、表情、着衣の絵柄、色彩から観察してこれに感情の創作的表現を認めることができ、美術工芸的価値としての美術性も備わつているものと考えられる。
また美術的作品が、量産されて産業上利用されることを目的として製作され、現に量産されたということのみを理由としてその著作物性を否定すべきいわれはない。さらに、本件人形が一方で意匠法の保護の対象として意匠登録が可能であるからといつても、もともと意匠と美術的著作物の限界は微妙な問題であつて、両者の重量的存在を認め得ると解すべきであるから、意匠登録の可能性をもつて著作権法の保護の対象から除外すべき理由とすることもできない。従つて、本件人形は著作権法にいう美術工芸品として保護されるべきである。
三、前記認定のとおり、本件人形の複製、販売の権利、即ち著作権は、すでに申請外の二人の著作物から譲渡を受けた債権者に帰属しているのであるから、債権者の承諾なく本件人形を複製し、販売している債務者らの行為は債権者の著作権を侵害する違法なものである。