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著作権判例セレクション
【写真著作物】素人は撮影した石垣の写真が問題となった事例
▶平成7年2月21日青森地方裁判所[平成4(ワ)344]▶平成9年1月30日仙台高等裁判所[平成7(ネ)207]
本件写真の著作物性
以上のとおり、本件写真は原告が撮影したものであるが、以下、本件写真の著作物性について判断する。
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいい(著作権法二条一項一号)、著作権法は写真についてもその著作物性を肯定している(同法10条1項8号)から、右の著作物の要件を具備した写真については著作物性が認められることとなる。
ところで、一般に写真撮影は機械的作用に依存する部分が多く、精神的操作の余地が少ないものと認められ、この点において他の著作物と趣を異にすることは否定できない。しかしながら、写真の撮影についても、主題の決定、被写体・構図・カメラアングル・光量・シャッターチャンス等の選択について創作性が現れる余地があり、このような創作性が認められる限り、写真の著作物性が肯定されるものと解するのが相当である。
そして、前記認定の各事実に証拠を総合すると、原告は熊野地方に存在する本件石垣に興味を抱き、何度も現場に足を運んで根気強く本件石垣の調査を行っていたこと、右調査に際しては、道のない山を歩き、草や灌木をかき分け、時には本件石垣の続きを見失うなどかなりの苦労が伴ったこと、原告は本件石垣の状態を保存する意図のもとに本件各写真を撮影していること、写真撮影に際しては、本件石垣の状態が分かりやすく写るように配慮していること、以上の各事実が認められる。
右事実から判断すると、本件写真は、いずれも写真撮影については全くの素人である原告が撮影したものではあるが、主題の決定や被写体・構図等の選択について撮影者である原告の前記学問的観点からの個性が現れており、創作性も認められるものであるから、著作権法上の著作物であり、原告がその著作権を有するものと認めるのが相当である。
[控訴審]
右事実によれば、本件写真①ないし⑥は、控訴人が、我国古代史の研究ないし解明に役立つと考えて、被写体を選定し、その撮影方法についても工夫を凝らして、古代史学に関する資料を他にさきがけて明確にしておく目的で撮影したものであり、控訴人の著作物として保護されるべきものであることは疑いを容れないところであって、控訴人がいわゆる学者や職業的写真家ではなく、写真に関しては素人であることは右判断の妨げとなるものではない。