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著作権判例セレクション

【コンテンツ契約紛争事例】各種フィギュア模型原型の複製品にかかる著作権使用許諾契約で違約金の支払い等が争点となった事例

▶平成161125日大阪地方裁判所[平成15()10346]▶平成17728日大阪高等裁判所[平成16()3893]
() 本訴は、原告が被告に対し、被告の製造販売する菓子類のおまけとして各種のフィギュアの模型原型を原告が製造し、これを被告に提供するに当たり、両者の間で複数の著作権使用許諾契約を順次締結し、許諾料(ロイヤルティ)や違約金について定めていたところ、被告が原告に商品の製造数量について実際より過小の虚偽の報告をし、あるいは未払のロイヤルティがあるとして、これらの契約に基づくロイヤルティ及び約定違約金の支払並びに商事法定利率による遅延損害金の支払を求めている事案である。
反訴は、被告が、原告に対し、上記複数の著作権使用許諾契約のうちの一部について、ロイヤルティ支払条項の料率が高額に過ぎ、錯誤あるいは公序良俗違反ゆえに無効であるなどとして、被告が原告に対して支払ったロイヤルティの一部を不当利得として返還請求している事案である。
原告と被告は、「チョコエッグ」(卵形のチョコレートの中におまけを入れる商品シリーズ)のおまけに関し、原告が模型原型を製造して被告に渡し、被告が当該模型原型の複製品をおまけとして使用し、菓子と一体化した商品(「指定商品」)を製造販売することについて契約(本件契約)を締結した。例えば、本件契約④では、「ロイヤルティ」と「違約金」について次の定めがある:
『d ロイヤルティ
 被告は、原告に対し、毎月末締めで指定商品の製造数量を集計し、
 ・希望小売価格(150円)×2.5%=ロイヤルティ単価
 ・ロイヤルティ単価×指定商品製造数量=ロイヤルティ
 の計算式で算出したロイヤルティを翌月20日までに支払う。
e 製造数量の報告
被告は、原告に対し、毎月末締めで指定商品の製造数量を集計し、翌月10日までに原告に書面で報告する。
f 違約金
被告による指定商品の実際の製造数量が原告への報告数量を上回っていた場合には、被告は、原告に対し、上回っていた指定商品1個につきロイヤルティ単価3.75円の2倍=7.5円の違約金を支払う。』

2 争点(2)(本件各契約の違約金支払規定は、被告が模型原型が著作物であり原告がその著作権を有しあるいは管理しているとの錯誤に陥っていたことを理由として、無効となるか)について
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(2) 以上の認定事実によれば、原被告間の本件各契約において、ロイヤルティ支払方式が採られた理由は、模型原型が原告の著作物であることを前提に、その使用料を支払うという趣旨からそうなったものではなく、新たな商品開発を行うに当たり、いかなる模型原型を制作するか決する権限を原告に与え、販売数量の多寡による利益と不利益を原告へのロイヤルティに反映させ、原告に、より優れた模型原型を制作するように【動機付けを与え,かつ,被告においてイニシャル・コストを削減する】趣旨であったというべきである。
チョコエッグは予想以上に販売が伸び、そのため本件契約以降は契約書を取り交わすことになり、当該契約書の前文には、模型原型が著作物であってその権利を原告が有していることが明記された。しかし、そうであるとしても、前記認定の契約当初からの経緯に照らすと、CとBが、模型原型が著作物であり、その著作権を原告が有し又は管理していることを前提として、著作物の使用料としてロイヤルティを支払う方式を採ったとは考えられない。むしろ、模型原型が著作権法上の著作物に該当するか否かにかかわらず、原告がより優れた模型原型を制作し、それによって被告の菓子等の売上が増加した場合に、被告のみならず原告もそれによる利益を享受し得るようにする点に、ロイヤルティ方式を採る趣旨があったとみる方が、前記認定の原被告間の契約をめぐる経緯に合致するというべきである。
さらに、契約書には、虚偽の数量報告をした場合には、報告しなかった数量分についてロイヤルティの2倍に相当する違約金を支払う旨の規定(違約金支払規定)が入れられたが、その趣旨は、ライセンシーによる報告数量の真実性を担保するため、予めロイヤルティよりも多い金額を違約金として定めたものと認められ、原告に著作権が帰属することからそのような違約金支払規定を置いたとは認められない。
【このような違約金支払規定は,著作権等の知的財産権に係る使用許諾契約に特有のものではなく,例えばフランチャイズ契約など,製造又は販売数量及び額に基づいて支払うべき金額が決定する契約類型において,製造又は販売数量及び額の算定が支払義務者の自主的な報告に委ねられている場合には,自主的な報告の真実性を担保するために,しばしば定められるものである(公知の事実)。】
以上によれば、本件各契約の違約金支払規定の合意において、模型原型が著作物であり、原告が著作権を有しあるいは管理していることが要素となっていたということはできない。したがって、本件模型原型【(ただし,本件妖怪フィギュアに係る模型原型を除く。)】に著作物性が認められないとしても、あるいは原告が著作権を有しても管理してもいなかったとしても、そのことをもって【本件契約①ないし⑧,⑬及び⑭】、とりわけその中の違約金支払規定が、錯誤により無効となるものではない。
【また,前記1のとおり,本件妖怪フィギュアに係る模型原型は,著作物に該当するといえるから,本件契約⑨ないし⑫の締結について,そもそも被告に錯誤はない。】
 (3) 被告は、契約書において、模型原型を著作物とし、原告が著作権を【管理し又は有している】ことが前文に明記されるとともに、違約金支払規定が加えられたことからすれば、本件各契約、その中でも違約金支払規定は、模型原型が著作物であって原告がその著作権を【管理し又は有している】ことを、契約(合意)の本質(要素)とするものである、したがって、模型原型が著作物ではなく原告がその著作権を【管理し又は有していない】以上は、被告には契約(合意)の本質(要素)に錯誤があることとなるから、本件各契約、その中でも違約金支払規定は無効であると主張する。
しかし、契約の本質(要素)は、契約書等の文言のみならず、当該契約が締結されるに至った過程等を踏まえて、当事者の合理的意思解釈から決定されるべきである(どんな些細な事柄であっても錯誤がある以上は無効が主張できるとすることは取引の安全性を著しく害することとなる。)。本件各契約における契約書において、模型原型が著作物であって、その著作権を原告が【管理し又は有している】ことを根拠として、違約金支払規定が入れられたことをうかがわせる事情はない上、仮にこれが契約の本質(要素)となっていたのであれば、平成14年1月のアリス・コレクションに関して第三者から著作権等の侵害であるとの指摘を受けたときに、あるいは同年5月の妖怪シリーズの造形師が被告との間では【ロイヤルティ方式】ではなく買取方式を採っていることが判明したときに、この点について原告に問い合わせるなどするはずのところ、被告はそのような行動を一切起こしていない。
【むしろ,前記(1)認定の経過によれば,被告は,製造数量について虚偽の報告をしていたことが発覚し,原告から多額の違約金を請求され,しかも,チョコエッグ・クラシックの製造,販売の差止めを求める仮処分申立てがされたことから,上記違約金の支払や製造,販売の差止めを免れるために,初めて,それまで全く問題にしていなかった本件模型原型の著作物性を否定するようになったことが強くうかがわれ,このことからも,本件模型原型の著作物性は,本件各契約の要素となっていなかったことが明らかである。
また,被告は,制作請負契約ではなく対価の支払方式であるとしても,本件模型原型が著作物でないのであれば,対価の水準は1%以下になっていたはずであると主張するが,このことを裏付けるに足りる客観的証拠は全くなく,かえって,前記認定のとおり,原告の制作したフィギュアは高い評価を受けていたことからすれば,本件模型原型が著作物に当たらないことを前提としても,対価の水準は相当程度高くなっていた蓋然性が高いと考えられる。被告の上記主張は,採用することができない。】
したがって、被告の主張は失当である。
3 争点(3)(本件各契約の違約金支払規定は公序良俗違反か)について
(1) 証拠等により認定される事実は、前記2(1)記載のとおりである。
なお、本件契約及びについては、後記4及び5において詳述する。
(2) 被告は、ロイヤルティ方式を採用したことにより原告が本件各契約によって多額の金員を得ていること、原告が造形原型を外注した場合には、外注先に支払う金額(制作費)と被告から受け取る金額との差額が大きいこと、にもかかわらず、更に原告が違約金としてロイヤルティの2倍相当額を受け取ることができるとするならば、その結果は暴利行為というほかないとして、本件各契約の違約金支払規定が公序良俗に反し無効である旨主張する。
しかしながら、【原告が本件各契約によって多額の金員を得たのは,チョコエッグ等の商品が爆発的に売れたからであり,被告も,原告を上回る巨額の利益を得たであろうことがうかがわれるし,】違約金支払規定は、被告が虚偽の報告をした場合に限り適用されるものであるから、被告が虚偽の報告をしない限りこれを支払う必要はない。また、数量が正確に報告されることを前提として成り立つロイヤルティ支払方式が採られる場合、報告数量の正確性を担保するために虚偽報告の事実が判明したときにはロイヤルティの2倍以上の違約金を支払うとの合意をすることは合理的であり、また通常行われているものと推測されるから、ロイヤルティの2倍相当額の違約金を支払う旨の規定が暴利行為であるなどということはできない。なお、暴利行為として公序良俗に反すると評価されるのは、一方当事者の窮迫、無知、無経験などにつけ込んで、他方当事者が過度に不公正な取引を行う場合であるが、本件において被告は本件各契約締結前からおまけの原型に関する取引等を【行っているし,被告が原告以外の模型製造販売業者と契約をすることができなかったというような事情はうかがわれず,】、窮迫、無知、無経験等の状況にあったということはできないから、その点においても【ロイヤルティ支払規定,その率及び違約金支払規定】が暴利行為であるということはできない。本件において原告が被告に対して膨大な違約金を請求しているのは、被告も認めるとおり被告が膨大な製造数量を原告に報告しなかった結果にすぎない。
真実の数量を報告することを前提にするロイヤルティ支払方式に合意した上で、その真実報告義務に違反しながら、違約金支払規定及びその適用は公序良俗違反であるとする被告の主張は、到底採用できない。
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7 争点(7)(原告の不当利得の成否及び被告の損失)
被告は、原告に対し、妖怪シリーズ及びアリス・コレクションについて、錯誤(被告は【本件】模型原型が著作物であり、原告が著作権者又は著作権の管理者であることを信じて契約を締結したが、【本件】模型原型が著作物ではなく、原告が著作権者又は著作権の管理者ではなかったことは、【要素の錯誤】に該当する)あるいは暴利行為(制作費の数倍のロイヤルティを取得し、また制作者と被告の間に立って多額の利ざやを稼いでいること)などから、既に被告が原告に対して支払った妖怪シリーズとアリス・コレクションに関するロイヤルティ金額から、【本件】模型原型について妖怪シリーズの造形師であるE及びアリス・コレクションの造形師Fに支払ったであろう制作費の2倍の金額を引いた残金について、原告の不当利得に該当するとして返還請求している。
しかしながら、本件各契約では、模型原型が著作物であることや原告が著作権者又は著作権の管理者であることは契約の要素となっておらず、したがって、仮にこの点に何らかの錯誤があるとしても、そのことをもって本件各契約が無効となることはないことは、前記2で【認定判断したとおりである(なお,本件妖怪フィギュアに係る模型原型は,著作物に該当するといえるから,本件契約⑨ないし⑫の締結について,そもそも被告に錯誤はない。)。】
また、買取方式とするかロイヤルティ方式とするかは当事者の意思に原則として委ねられており、その他本件でロイヤルティ方式が暴利行為に該当するといえるような事情(原告が被告の窮迫、無知、無経験等につけ込み、過度に不公正な取引を行っていると認めるに足りる事情)は認められないことから、本件契約を暴利行為として民法90条により無効とすることができないことは、前記3で【認定判断したとおりである。】
したがって、被告による不当利得の主張は理由がなく、被告の反訴請求は失当である。