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著作権判例セレクション
写真の撮影等の請負契約の内容(二次使用の許諾の有無等)が争点となった事例
▶平成17年03月31日大阪地方裁判所[平成15(ワ)12075]
(注) 原告P1は、写真撮影や執筆等の活動を行っている者であり、原告会社の代表取締役である。原告会社は、写真の撮影、管理等を目的とする株式会社であり、主に原告P1の委任に基づいて、同人が撮影した写真の使用許諾、使用料請求など、著作物の管理を行っている。
被告は、広告宣伝に関する企画等を目的とする株式会社であり、雑誌「編集会議」等の出版物を編集、発行している。
2 請求原因(2)(請負契約)について
(1) (証拠)、原告P1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
ア 原告P1は、平成12年3月29日ごろ、当時株式会社角川書店に在籍していたP12の紹介で、被告から、編集者の養成を目的とする「編集ライター養成講座」の大阪での開講に当たり、講師の紹介と講師としての講演の依頼を受け、これに応じた。
原告P1は、平成12年12月、被告の発行する雑誌「販促会議」の写真の撮影を依頼され、これに応じた。
イ P12は、その後、株式会社角川書店を退職し、平成13年1月1日、被告に入社して雑誌「編集会議」の編集長に就任した。
ウ P12は、株式会社角川書店に在籍する以前にも、複数の会社を転職し、各社で雑誌の編集などを担当してきたものであり、原告P1とは昭和59年以来の知り合いで、従前から、原告P1に対し、雑誌に掲載する写真の撮影を依頼することがあった。P12が原告P1に写真の撮影を依頼する際には、契約書が作成されたことはなく、撮影料や写真の使用料について金額を細かに決める交渉がされたこともなく、口頭で、撮影の依頼と承諾が行われるだけであり、後に、原告会社に対して、相当額の撮影料、感材費、使用料などが支払われていた。
エ P12は、平成13年1月4日、原告P1に、電話で、「編集会議」の表紙について、作家とその担当編集者を集めて写真に撮ろうと思う旨述べ、原告P1は、「面白そうだ。」と答えた。
オ P12は、平成13年2月8日、原告P1に対し、電話で、「編集会議」の表紙の写真撮影を依頼した。撮影は同月13日に行うということであり、撮影日までに日数がなかったが、原告P1は、これに応じた。その際、P12は、P3と編集者11人を六本木スタジオに集めるから、それまでに撮り方を考えておくこと、編集者にコネをつけようとしないこと、撮影者に徹すること、欲を出さないことなどを述べた。
カ P12は、「編集会議」の表紙写真等の撮影について、原告P1に対し、撮影料や使用料の具体的な金額は述べなかった。その際、P12と原告P1との間で、原告P1の撮影した写真の二次使用料についての明示の合意はなされなかった。
キ 原告は、平成13年2月13日、前記オの依頼に係る写真を撮影し、その写真は、「編集会議」の同年4月号(創刊号)に掲載された。
原告は、「編集会議」の平成13年4月号から平成14年1月号まで及び同年4月号から同年7月号までの表紙写真を撮影し、また、「編集会議」の特集記事の写真を数回撮影した。
以上の事実が認められる。
(2)ア 被告は、P12が、平成13年1月4日、電話で、原告P1に対し、「編集会議」に掲載する写真の撮影を依頼するかも知れないと告げたところ、原告P1は、撮影を行う旨申し出たこと、P12は、原告P1に対し、「編集会議」は専門誌であるため、撮影料も格安であり、材料費も十分に支払えず、二次使用料も支払えないと説明したが、原告P1は、どうしてもやりたいと述べ、被告に対し、原告P1が撮影した写真の包括的な使用許諾をするとともに、写真の撮影料、使用料の決定を任せたことを主張する。
イ また、P12の陳述書である乙第5号証には、次のとおり記載されている。
「私は、『編集会議』の表紙を作家と編集者が並んだ写真にすることにしました。そして、私は、撮影を誰にするかを考えました。私としては、誰でもよかったのですが、平成13年1月4日、P1氏に電話をして、声をかけてみることにしました。私がP1氏に対し、編集会議の表紙を作家とその担当編集者を並んだ写真とすること、この撮影をP1氏に頼むかもしれないことを述べたところ、P1氏は、『やらしてえな』と言いました。そこで、私は、P1氏に対し、『編集会議』は、専門誌であるため、撮影料も格安、感材費も十分に払えない、二次使用料も支払えないことを説明しました。すると、P1氏は、『どうしてもやりたい。ギャラについては任せる』と述べて、私が提示した条件を了承しました。
また、私は、P1氏に対し、二次使用料が支払えない理由として、宣伝会議は、専門誌中心で、写真撮影は、全て著作権買い取り制でやっていること、このため、二次使用料を支払わないことは、社の決まりで、P1氏だけ特別扱いできないことを説明しました。しかし、著作権買い取りでは、P1氏が納得しないだろうと思い、著作権はP1氏が取得することとし、ポジも返還することを約束したのです。」
さらに、P12は、その証人尋問において、乙第5号証の上記記載に沿う証言をしている。
ウ(ア) しかし、原告P1の陳述書である甲第73号証には、「編集会議」に掲載する写真の撮影について、無償で使用許諾するとか、著作権を譲渡するなどの話はなかった旨記載されており、原告P1は、その本人尋問において、同旨の供述をしている。
(イ) そもそも、撮影した写真の二次使用を無償で許諾するならば、写真家又はその写真を管理する者は、使用の態様、回数にかかわらず使用の対価を得られなくなり、多くの利益を失うこととなるから、二次使用が無償か有償かは重要な問題である。本件請負契約で撮影の対象となる著名人の写真等は、当初の撮影目的以外の用途にも使用できる可能性が少なくないため、尚更である。
そして、原告P1本人尋問の結果によれば、原告P1は、被告以外の会社との間で、無償で二次使用を許諾する契約をしたことはなく、P12が従前被告以外の会社に在籍しているときに同人から依頼を受けた写真撮影について二次使用料が支払われた例があることが認められる。また、証人P12の証言によれば、同証人が被告以外の会社に在籍しているときに、編集長として原告P1の撮影した写真を使用した際、無償で二次使用するという契約をしたことはないことが認められる。したがって、P12と原告P1の間では、二次使用は有償であるというのが従来の慣行であったと認められる。
そうだとすると、そのような重要な問題について従来の慣行と異なる内容の契約をする際に、暗黙裏に合意するということは考え難く、明示の確認をし、改めて念押しする、あるいは書面を作成するなど、誤解や後の紛争を避ける方法が採られることが普通であるように思われる。しかし、このような方法が採られたことを認めるに足りる証拠はない。かえって、P12は、その証人尋問において、原告P1が二次使用料の支払がないことを承諾した際の受け答えについて、平成13年1月4日、原告P1に対し、電話で、二次使用料を支払えないと述べたところ、原告P1が、それでもやらせてほしいと述べたことから、原告P1が二次使用料の支払がないことを承諾したと理解している旨証言しており、また、原告P1に対して二次使用料の支払のないことを確認することはなかった旨証言しており、P12の証言においてさえも、原告P1が二次使用料の支払のないことを明確に承諾したことは述べられていないところである。
(ウ) また、前記(1)ア認定のとおり、原告P1は、平成12年12月、被告の発行する雑誌「販促会議」の写真の撮影を依頼され、これに応じている。もし、P12がその陳述書や証人尋問において陳述するように、被告が写真撮影について全て著作権の譲渡を受けており、被告社内の決まりとして二次使用料を支払わないなどの事実があったならば、それは、重要な点について被告と原告P1の間の従来の慣行と異なる内容であるから、原告P1が「販促会議」の写真撮影に応じた際に、既にそのようなことが被告から原告P1又は原告会社に告げられ、原告P1又は原告会社と被告との間で交渉が行われるなどしたはずであるが、そのようなことを窺わせる証拠はない。
(エ) 前記(イ)認定に係る本件請負契約で撮影の対象となる写真の二次使用について有償無償の重要性、原告P1が被告以外の会社との間で、無償で二次使用を許諾する契約をしたことはないことからすれば、原告P1は、通常は、二次使用を無償で許諾するようなことは行わないものと認められる。ところが、本件において、原告P1が、二次使用料の支払を受けないことにしてまでも被告の写真撮影の依頼に応じたことの理由となるべき特別の事情を認めるに足りる証拠はない。
(オ) P12は、その証人尋問において、平成13年1月4日、原告P1に電話で「編集会議」の表紙写真の撮影を依頼した際、原告P1と話した時間は、5、6分から10分くらいの間だったと思う旨証言する。しかし、二次使用料を支払わないということは、P12と原告P1との従来の慣行と異なる条件であるから、P12が原告P1に、表紙写真のアイデアと撮影すべき内容を説明して写真撮影を依頼し、その上二次使用料を支払わないことを説明して承諾を得たにしては、上記の時間は短いように思われる。
エ 前記ウ(ア)ないし(オ)の事情に照らせば、被告が二次使用料を支払わないことについて原告P1が承諾をした旨の乙第5号証の記載及びそれに沿うP12の証言(前記イ)は、採用することができない。
したがって、前記アの被告の主張は、採用することができない。
(3)ア 被告は、原告P1に対し、平成13年2月13日の「編集会議」同年4月号のための撮影から、平成14年7月14日の「編集会議」同年9月号のための撮影まで、写真の撮影を依頼し、「編集会議」の平成13年4月号から平成15年4月号までを献呈本として送付したこと、原告P1は、同人が撮影した写真が最後に「編集会議」に掲載されてから1年以上、被告に対して苦情を述べておらず、このことからも、包括的な使用許諾があったことが推測されることを主張する。
イ しかし、後記(5)イ(ア)、(イ)認定のとおり、原告会社は、平成14年9月20日ごろから、被告に対し、原告会社作成名義の請求書を送付し、平成15年3月13日ごろ、同月11日付け通知書を被告に送付し、出張校正費及び撮影費、写真の二次使用料の支払などを求めていたから、前記アの被告主張のように、原告P1が、同人の撮影に係る写真が最後に「編集会議」に掲載されてから1年以上、被告に対して苦情を述べていなかったとは認められない。また、被告が原告P1に対して献呈本を送付していたとしても、それによって包括的な使用許諾が裏付けられるとは認められない。
したがって、前記アの被告の主張は、採用することができない。
(4) 前記(1)カ認定のとおり、P12は、原告P1に対し、撮影料や使用料の具体的な金額については述べなかったが、前記(1)ウ及び(2)ウ認定のとおり、従前から、P12が原告P1に写真の撮影を依頼する際には、契約書の作成や金額についての細かな交渉はなく、口頭で、撮影の依頼と承諾が行われるだけであり、後に、原告に対して、相当額の撮影料、感材費、使用料などが支払われており、また、二次使用は有償であるというのが従来の慣行であったものである。このことに、前記1(2)認定のとおり原告会社が原告P1の著作物の管理を行っていること、前記(1)アないしキ認定の契約成立の経緯等を合わせ考えると、原告会社は、平成13年2月ごろ、被告との間で、原告会社が、被告の発行する雑誌に掲載する写真の撮影、校正を請負い、写真の使用を被告に許諾し、被告が原告会社に対して、相当額の写真の撮影料、校正費用、使用料を支払うという内容の契約(「本件請負契約」)を締結したものと認められる。