Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
商品パッケージへのイラストの永続的(期間の制限のない)使用許諾を認定した事例
▶平成24年09月27日 東京地方裁判所[平成22(ワ)36664]
(3)
使用許諾について
ア 被告寿屋は,昭和52年ころ,電通を介して,被告紙パック又は被告寿屋との間で,原告が被告らに対し,使用期間を制限することなく,あるいは被告寿屋が本件各イラストの著作権を使用し続ける限り,その著作権を使用許諾する旨の使用許諾契約を締結した旨主張する。
(ア) そこで検討するに,前記の認定事実によれば,①原告は,昭和52年ころ,電通の担当者から,被告寿屋の餃子・焼売の商品のパッケージに使用するイラストの制作を依頼され,墨一色で描いた5枚のイラスト(本件各イラスト)を制作し,それらの原画(本件原画)を電通に引き渡し,その際,電通から,少なくとも10万円を超える報酬を受け取ったこと,②原告は,同年ころ,電通の担当者から,本件原画を基に着色をするなどして制作された被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1の校正刷りを示され,色等の仕上がりを確認し,これらのイラストを被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを承諾したこと,③被告寿屋は,同年ころ,被告紙パックに対し,被告寿屋の餃子・焼売の商品の箱として被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1が付された紙製の各カートン(本件カートン1-1,2-1,3,4-1及び5-1)を発注し,これに基づいて被告紙パックが製作して納品した上記各カートンに箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始したこと,④原告は,昭和55年ころ,被告寿屋の店舗で,被告イラスト1-1,2-1,3,4-1又は5-1が付されたカートンを使用した餃子・焼売の商品を購入し,さらには,平成13年ころ,被告寿屋の店舗で,上記カートンを使用した餃子・焼売の商品が販売のため展示されていることを確認したが,その後,平成22年2月16日,原告から依頼を受けたBが問い合わせのファックスを送信するまでの間,被告寿屋に対し,被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1を使用することが原告の本件各イラストの著作権及び著作者人格権侵害に当たる旨を指摘したり,抗議等をすることはなかったこと,⑤原告が上記②の承諾をした後,上記④のファックスが被告寿屋に送信されるまでの間,約33年が経過していることが認められる。
上記①ないし⑤の事情に加えて,餃子・焼売などの食品のパッケージに使用される図柄等は,当該食品の販売が継続する限り使用されることやその使用が長期間に及ぶことがあることは,一般的なことであるといえること,被告寿屋は,昭和29年12月の設立以来,餃子・焼売等の惣菜の製造販売を業として行っており,昭和52年当時において,餃子・焼売の商品は被告寿屋の主力商品であったことを総合考慮すると,原告は,昭和52年ころ,本件各イラストの原画(本件原画)を基に着色をするなどして制作された被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することの承諾をすることにより,被告寿屋に対し,本件各イラストを被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに使用することについて,期間の制限なく,許諾したものと認めるのが相当である。
(イ) これに対し原告は,本件各イラストを制作した当時,被告寿屋が餃子や焼売のパッケージに本件各イラストを一定期間(長くて5年,通常は2,3年,短ければ1年以内)に限り使用することを許諾したが,永続的な使用許諾や長期間の使用許諾をしたことはない旨主張する。
この点について原告は,本人尋問において,原告は,本件各イラストに関し,電通から,被告寿屋の餃子・焼売の商品パッケージに使用するイラストの制作の依頼を受け,被告寿屋が電通を通じて原告に依頼しているものと思った,原告は,被告寿屋が餃子・焼売のパッケージに本件各イラストを印刷して餃子・焼売を販売することを承認し,本件各イラストの使用許諾をしたが,その使用許諾に関する契約書は作成しておらず,永遠にとか,長期間の使用許諾はしていない旨供述し,原告の陳述書中にはこれと同旨の記載部分がある。一方で,原告は,本人尋問において,電通の担当者との間で使用期間に関する話をしたことは一切なく,原告の方から使用期間をおおむね5年とする旨述べたこともない,「僕の絵は個性的過ぎてかえって宣伝にならないだろうと。そういうことを言われ続けていたんで,僕の絵を使って餃子屋さんがパッケージにするということは,すごいうれしいけど,多分そんなに何十年も使われるわけではなくて,長くて二,三年,短ければ1年以内で使い終わるんではないかという印象でした。僕の絵がそういう内容であるし,食品のパッケージに向いているとは僕自身そんなに思わなかったんで,できたものはすごく楽しいものができてうれしかったんですが,長くは使われないという確信はありました。」などと供述している。これらの原告の供述を総合すると,原告が,被告寿屋が本件各イラストを使用することを許諾した際,原告の内心において,原告の絵が個性的であるため,本件各イラストが長く使われることはなく,自然に本件各イラストの使用が中止されるだろうと予想していたにすぎず,原告が使用期間を制限する旨の意思表示をしたものと認めることはできない。
そうすると,原告の供述から,原告が被告寿屋に対し本件各イラストを一定期間(長くて5年,通常は2,3年,短ければ1年以内)に限り使用することを許諾したものと認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ 以上によれば,原告と被告寿屋との間で,昭和52年ころ,電通を介して,原告が被告寿屋に対し,原告が保有する本件各イラストの著作権を被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに使用することについて,期間の制限なく,許諾する旨の使用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」という。)が成立したものと認められる。被告寿屋の使用許諾の主張は,上記の限度において理由がある。
また,被告紙パックは,被告寿屋の使用許諾の主張とは異なる法律構成で使用許諾の主張をしているが,その法的効果として原告が被告寿屋に対して本件各イラストの著作権の使用許諾を行ったとする点では共通するから,被告寿屋の上記主張を黙示的に援用しているものと解される。
そして,前記認定の事実に照らすと,原告は,本件使用許諾契約が成立した当時,被告寿屋が自ら餃子・焼売の商品のカートンを製作するのではなく,その製作を業者に依頼して行うことを了解していたものと認められるから,本件使用許諾契約に基づいて,被告寿屋が被告紙パックに依頼して餃子・焼売の商品のカートンを製作することについても許諾したものと認められる。
(4)
まとめ
以上によれば,被告らが,平成12年9月以降において,本件各イラストの複製物である被告イラスト1-1ないし5-2をカートンに印刷し,本件各カートンを共同して製造し,被告寿屋が本件各カートンを使用した餃子・焼売の商品を販売することによって本件各カートンの譲渡を行うことについて,本件使用許諾契約に基づく原告の使用許諾があったものと認められるから,被告らのかかる行為が本件各イラストについて原告が保有する複製権及び譲渡権の侵害行為に当たる旨の原告の主張は理由がない。