Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

氏名表示権の侵害事例
平成240927東京地方裁判所[平成22()36664]

3 被告らによる著作者人格権侵害の成否について
(1)ア 原告は,被告らは,共同して「A1」のサインの表示を削除した本件カートン1-2,2-2,4-2及び5ー2を使用し,被告寿屋の餃子・焼売の商品の販売を行っており,被告らのかかる行為は,本件各イラストについて原告が保有する氏名表示権の侵害行為に当たる旨主張する。
前記の認定事実によれば,被告寿屋は,平成22年4月ころから同年10月ころまでの間に,被告紙パックに対し,被告寿屋の餃子・焼売の商品の箱として,本件各イラストの複製物である被告イラスト1-2,2-2,4-2及び5-2が付されたカートン(本件カートン1-2,2-2,4-2及び5-2)を発注し,これに基づいて被告紙パックが製作して納品した各カートンに箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始したことが認められるところ,原告が被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のパッケージに使用することを承諾した被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1には「A1」のサインの表示があるのに対し,被告イラスト1-2,2-2,4-2及び5-2には「A1」のサインの表示がないことは争いがない。
被告らの上記行為は,原告の著作者名を表示することなく,原告の著作物である本件各イラストについて公衆への提供又は提示を行ったものとして,原告の氏名表示権侵害行為に当たるものと認められる。
イ これに対し被告らは,①被告寿屋は,原告の著作権等管理事業者であるメディアリンクスの代表者であるBから平成22年2月16日付けのファクシミリで原告の名を使用しないことの示唆を受け,②その後,被告寿屋のC専務は,同年3月ころ,Bと面談をした際,Bから,「A1」の表示を使用しないよう指示を受け,このように原告から被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに「A1」のサインの表示をしないよう指示があったことに基づいて,被告寿屋が,「A1」のサインの表示のないカートンを使用するようになったものであるから,被告らの行為は原告の氏名表示権の侵害行為に当たらない旨主張する。
そこで検討するに,上記①の点については,Bが平成22年2月16日に被告寿屋に送信したファクシミリには,「A先生のお話ですと,…貴社に対して作品の著作権譲渡をしたつもりは無く,その後も,貴社から著作物の利用にあたっての使用期間,対価などについても全くご連絡もないまま,貴社による宣伝の一環として「焼売,餃子のパッケージに童話作家 Aのイラスト使用」と堂々と自分の名前をホームページなどで長年無断で使われているのは,著作権(複製権,公衆送信権)や著作者人格権を侵害するのではないか,とのことでした。」との記載があるが,上記記載は,被告寿屋が本件各イラストを焼売,餃子のパッケージに使用すること自体及び被告寿屋のホームページで焼売,餃子のパッケージに原告のイラストを使用していることを宣伝することが原告の著作権及び著作者人格権の侵害に当たる旨を指摘するものであって,焼売,餃子のパッケージから「A1」のサインの表示を削除することを示唆するものでも,「A1」のサインの表示を削除すれば,本件各イラストの使用を認めることを示唆するものでもない。また,上記ファクシミリの記載内容を全体としてみても,Bが,被告寿屋が販売する餃子・焼売の商品のカートンに「A1」の表示を使用しないよう示唆をしたものと認めることはできない。
次に,上記②の点については,前記認定のとおり,Bは,平成22年3月5日,被告寿屋のC専務及び被告紙パックのEと面談をした際,被告寿屋の商品のカートンに表示された「A1」というサインは,原告が1980年(昭和55年)以前に使っていた漢字のサインであり,それ以降はアルファベットのサインを使っているので,上記カートンに表示されたイラストは原告の著作物であることの根拠となることなどを述べたことは認められるものの,その面談の際,BがC専務に対し被告寿屋の商品のカートンに「A1」の表示を使用しないよう指示をしたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,証人Bの供述中に,Bが上記のような指示をしたことを明確に否定する供述があるのみならず,上記面談に同席した証人Eの供述中にも,上記面談の際,Bが被告寿屋の商品のパッケージから「A1」のサインを削除してもらいたいと述べたことはなかった旨供述している。
したがって,被告らの上記主張は,理由がない。
(2) 以上によれば,原告の被告らによる著作者人格権侵害(氏名表示権侵害)の主張は,理由がある。
()
(3) 本件ポリ袋に係る氏名表示権及び同一性保持権の侵害について
() 本件各イラストの複製物である被告イラスト6が付された本件ポリ袋に,原告の氏名の表示がないことは,争いがない。
被告寿屋が被告寿屋の商品を購入した顧客に対し袋業者に依頼して制作した被告イラスト6が付された本件ポリ袋を当該商品の包装用に配付する行為(前記(2)ア)は,原告の著作者名を表示することなく,原告の著作物である本件各イラストについて公衆への提供又は提示を行ったものと認められるから,原告が主張するように,本件各イラストについて原告が保有する氏名表示権の侵害行為に当たるものと認められる。
() これに対し被告寿屋は,①本件各カートンに原告の著作者名(「A1」のサイン)を表示している以上,本件ポリ袋のイラストの著作者も自ずと明らかであるから,被告寿屋には,本件ポリ袋にも著作者名を表示する義務はなく,②そもそも,一般に包装紙などには,著作者の氏名の表示がなく,包装紙などに氏名を表示すると,かえって商標と混同を生ずるおそれもあり,氏名を表示しないことは,少なくとも包装紙などについては慣行となっているから,本件ポリ袋に原告の氏名の表示がないことは,原告の氏名表示権侵害に当たらない旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,本件各カートンと本件ポリ袋は,別個独立の有体物であり,本件各カートンに原告の著作者名の表示があるからといって,本件ポリ袋に付された被告イラスト6について原告の著作者名を表示したことにはならない。
次に,上記②の点については,被告寿屋の主張の法的位置づけが必ずしも明確であるとはいえないが,被告寿屋が根拠として挙げる証拠から直ちに,包装紙にイラスト等の著作物が表示されている場合に,その著作者名を当該包装紙に表示しないことが慣行であることを認めることはできないし,また,本件各イラストに原告が「A1」のサインを表示していること(原告本人)からすると,原告においては,本件各イラストに著作者名を表示する意思を有していたものであり,著作者名の表示をしないことは原告の意思に反することが認められる。
したがって,被告寿屋の上記主張は,採用することができない。
() 以上によれば,原告の被告寿屋による氏名表示権侵害の主張は,理由がある。