Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

著作隣接権(貸与権及び送信可能化権等)の侵害事例(CD製造販売業務委託契約等が問題となった事例/原盤に対する所有権侵害の不法行為を認めなかった事例)

▶平成28216日東京地方裁判所[平成25()33167]▶平成28112日知的財産高等裁判所[平成28()10029]
() 本件は,本件CDについてのレコード製作者である原告ノア及び本件CDに収録された各楽曲(「本件楽曲」)の実演家である原告Aが,被告らに対し,所定の損害賠償請求等をした事案である。
(前提事実)
〇 原告Aは,Eをアーティスト名とするジャズ歌手であり,原告ノアは,原告Aが歌唱した楽曲等に係る音楽・映像作品の企画,録音,編集,制作及び販売等を業とする株式会社である。被告タッズは,音楽コンテンツの音源の企画,制作及び販売等を目的とする株式会社であり,被告スペースは,通信衛星又は地上回線を用いた映像コンテンツソフトの配給及び販売等を目的とする株式会社(国内最大手の衛星一般放送事業者)である。
〇 原告Aは,平成19年9月以前に,米国内において,本件楽曲の歌唱を行い,伴奏等を担当する実演家らと共に本件楽曲のレコーディングを実施した(「本件実演」)。 原告Aは,平成20年3月23日,本件実演を録音した録音物であるDVD原盤に係る一切の権利(本件楽曲の録音権を含む実演家の著作隣接権等を含む。)を取得した。
〇 原告Aは,平成21年8月27日,原告ノアに対し,本件楽曲を収録した上記DVD原盤に係る全ての権利(同DVD原盤の所有権のほか,本件楽曲に係る実演家の著作隣接権及びレコード及びビデオ用原盤の制作者となる地位等を含む。)を譲渡する旨の契約を締結した。原告ノアは,本件楽曲のミキシング(音声トラックのバランス,音色及び定位の創作等)やマスタリング(音量,音質及び音圧の調整等)などの作業を経て,平成22年9月,本件楽曲を録音した音楽原盤(「本件原盤」)を完成させ,本件原盤についてレコード製作者としての著作隣接権を取得した。
〇 原告ノアは,平成22年10月25日,被告タッズとの間で,本件原盤を音源とする音楽CD(本件CD)の製造販売業務の委託契約(「本件契約」)を締結し,本件契約に基づき,本件CDの量産及び販売チラシ等の製作のための実費及び報酬を支払った。
〇 被告タッズは,平成22年8月1日に被告スペースとの間で締結した業務委託基本契約に基づき,同年11月ころ,被告スペースとの間で,本件CDの販売(レンタル事業者に対して販売し,流通に供することも含む。)及び本件楽曲の配信等を委託する旨の契約(「本件再委託契約」)を締結した。
〇 被告スペースは,本件CDを廃盤とすることを決定し(「本件廃盤処置」),被告C(本件再委託契約についての被告スペースの担当者)は,平成23年4月5日付けの文書で,本件廃盤処置について被告B(被告タッズの当時の代表取締役)に通知した。被告Bは,同通知を受けて,同日,原告Aに対して本件CDが廃盤となったことをEメールで通知した。

4 原告ノアの被告らに対する,不法行為に基づく損害賠償請求について
(1) 争点4(著作隣接権侵害の不法行為の成否)について
ア 被告タッズらについて
() 本件契約書には,本件CDのレンタルや本件楽曲の配信についての許諾を明記した条項は一切見当たらない。
この点,被告タッズらは,本件契約2条(1)号の本件CDの「商品化に関わるすべての業務」に,本件CDのレンタル事業者への販売や本件楽曲の配信も含まれる,本件契約9条の「音楽著作権」には貸与権や送信可能化権等の著作隣接権も含まれるなどと主張するが,①本件契約には,(前記)のとおり,本件CDの売上に係る収益の分配について詳細な規定がおかれている一方,本件楽曲の配信に係る収益の分配についての規定が一切ないこと,②被告タッズと被告スペースとの間で締結された本件再委託契約の前提となる基本契約においては楽曲の配信がCDの販売とは別立てで明示的かつ詳細に規定されていること(1条2項,3条2項)に加え,③被告Bが,本件契約に先立つ原告ノアからの本件契約の内容に関する問合せに対し,「配信,CM,映画音楽等を含む総括的宣伝活動」については「別途となります」と回答していることなどに照らすと,被告タッズらの主張を採用することはできない。
()
() 以上によれば,本件CDのレンタル又は本件楽曲の配信について原告ノアの許諾があったと認めることはできない。したがって,被告Bが,被告タッズの代表者として,被告スペースに対し,レンタル事業者へのレンタル用CDの販売やインターネット配信会社への本件楽曲の配信まで含めて委託する内容の本件再委託契約を締結し,その結果,本件CDのレンタルや本件楽曲の配信が行われたことは,原告ノアのレコード製作者としての複製権,貸与権及び譲渡権を侵害するものと認められる。
また,上記経緯に照らせば,被告タッズらに少なくとも過失があったことも明らかである。したがって,被告タッズらには,原告ノアの著作隣接権(貸与権及び送信可能化権等)を侵害する共同不法行為が成立する。
イ 被告スペースについて
第三者が著作権や著作隣接権を有する著作物の利用について契約を締結する場合,当該契約の相手方が当該著作物の利用を許諾する権限を有していなければ,当該契約を締結しても当該著作物を利用することはできない。
したがって,当該契約の当事者としては,相手方の利用許諾権限の有無を確認する注意義務があるというべきであり,これを怠って当該著作物を利用した場合,当該第三者に対する不法行為責任を免れないと解される。
これを本件についてみるに,被告スペースは,本件再委託契約の締結時において,被告タッズがレコード製作者及び実演家の各著作隣接権を有しないことを認識していたと認められるところ,被告スペースらは,被告タッズの利用許諾権限に疑義等を抱かしめるような事情はなかったと主張するのみで,被告スペースにおいて,著作隣接権者に問い合わせ,又は本件契約書を確認するなどの方法によって,本件CD及び本件楽曲についての被告タッズの利用許諾権限を確認した等の主張はないし,証拠上もこうした事実を認めることはできない。
そうすると,被告スペースは,本件CDの無断レンタルや本件楽曲の無断配信について少なくとも過失があると認められるから,原告ノアに対し,被告タッズらとの共同不法行為が成立する。
ウ 被告Cについて
原告ノアは,被告Cについても原告ノアに対する共同不法行為が成立すると主張する。しかしながら,被告スペースの一従業員にすぎない被告Cについて,原告ノアの著作隣接権侵害を行うことについての故意・過失があったと認めるに足る証拠はないから,被告Cに対する請求を認めることはできない。
(2) 争点5(本件原盤等に対する所有権侵害の不法行為の成否)について
原告ノアは,本件廃盤処置によって本件原盤,本件CD及びポスター等の販促物が無価値となったとして,これが,被告らによる原告ノアの本件原盤等に対する所有権を侵害する旨主張する。
しかしながら,本件廃盤処置がされたからといって,原告ノアにおいて本件原盤等を使用し,又は収益することが禁じられるわけではない上,これらを原告らにおいて販売するなどの方法によって適宜処分することも可能なのであるから,本件廃盤処置が原告ノアの本件原盤等に対する所有権を侵害するものということはできず,原告ノアの上記主張を採用することはできない。

(3) 争点6(損害額)について
()
原告Aの被告らに対する,不法行為に基づく損害賠償請求について
(1) 争点7(同一性保持権侵害の不法行為の成否)について
原告Aは,被告らが,①MP3,AAC又はWMA等の圧縮フォーマットを利用して本件楽曲の音声を圧縮して配信したこと及び②本件楽曲12曲を曲毎に配信したことが,いずれも本件楽曲についての同一性保持権を侵害する旨主張する。
そこで検討するに,音声の圧縮によって本件楽曲の音質が一定程度変化することについては被告らも認めるところであるが,配信時のデータの圧縮に伴う技術的な制約によるものであって「やむを得ないと認められる改変」(法90条の3第2項)に当たるというべきである上,原告Aが本件契約後の平成22年12月27日に被告Bに送信したEメール中に「圧縮をやって頂きたいと思っておりました。」「引き続き圧縮をお願いできますでしょうか?」などの記載があることからすれば,原告Aも,本件楽曲の圧縮を了承していたことが推認される。こうした事情に照らせば,上記①の行為について,原告Aの同一性保持権を侵害するものということはできない。なお,本件楽曲はいずれも独立の楽曲であり,原告Aが本件CDにおける本件楽曲の配列を工夫したとしても,この点は実演家の同一性保持権の保護範囲に含まれるものではないから,上記②についても原告Aの同一性保持権を侵害するものとは認められない。
(2) 争点8(名誉権侵害又は人格権侵害の不法行為の成否)について
上記のとおり,被告スペースは,原告ノアの当時の代表者(D)がレンタル事業者(DMM)に対し,本件CDのレンタルを許諾していない旨の申出をしたことを契機に,同レンタル事業者の仕入元である大手レンタル卸代行業者から抗議を受ける事態となったため,本件CDを廃盤にすることとし,発売元である被告タッズの承諾を得て,本件廃盤処置を行ったものと認められる。
この点,原告Aは,廃盤となった音楽CD及びその実演家等は,何らかの重大な問題を抱えている者であると認識されるなどと主張するが,これを認めるに足る証拠はないし(なお,原告Aを紹介する新聞記事が本件廃盤処置後に削除されているとしても,同記事の削除事由は明らかでなく,直ちに原告Aの上記主張を裏付けるものとはいえない。),かえって,証拠によっても,CDの廃盤には様々な場合があることがうかがわれるのであって,本件廃盤処置が直ちに原告Aの名誉権又はその他の人格権を侵害するとは到底認めることができない。
また,原告Aは,被告らが,本件廃盤処置の理由について,音楽業界関係者らに虚偽の説明をしたと主張するが,被告スペースが小売店に送付した本件廃盤処置についての通知には,本件CDを含む多数のCDを廃盤とした事実のみが記載され,本件廃盤処置の理由について特段の記載は見当たらないし,他に原告Aの主張を認めるに足る証拠もないから,同主張を採用することはできない。
(3) 争点9(プライバシー権等侵害の不法行為の成否)について
原告Aは,被告らが原告Aのアーティスト名や本件CDのジャケット写真等を配信したことが原告Aの実演家人格権(氏名表示権)のほか,肖像権及びプライバシー権等の人格権を侵害すると主張する。
しかしながら,原告Aのアーティスト名は原告Aが音楽活動のために使用し,本件CDにも本件楽曲の実演家名として表示されているものであるから,これを本件楽曲の配信に当たって使用することが,原告Aの氏名表示権ないし人格権を侵害するものでないことは明らかである。また,本件CDのジャケット写真等については,本件CDの販売宣伝のために原告Aの承認の下で作成されたものである上,原告Aの音楽活動と無関係な原告Aの私的な情報が掲載されているわけではないこと,原告A自身が本件CDのジャケット上に上記写真等を表示・掲載して公開していることなどに鑑みれば,本件楽曲の配信に当たって同ジャケット写真等を使用することについても原告Aの肖像権やプライバシー権等の人格権を侵害するものとは到底認めることができない。
6 原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求(争点11)について
争点8について判断したとおり(前記5(2)),本件CDの廃盤により原告Aの名誉が毀損されたとは認められないから,原告Aの被告タッズ及び同スペースに対する名誉回復措置請求は,いずれもその前提を欠くものとして理由がない。

[控訴審]
2 争点⑴(著作隣接権侵害の不法行為の成否)について
⑴ 控訴人の不法行為について
ア 被控訴人の権利について
前記の前提事実のとおり,被控訴人は,レコード製作者としての①本件原盤に係る複製権(著作権法96条),②送信可能化権(同法96条の2),③本件原盤に固定された音をその複製物の譲渡により公衆に提供する譲渡権(同法97条の2第1項)及び④本件原盤に固定された音をそれが複製されている商業用レコードの貸与により公衆に提供する貸与権(同法97条の3第1項)並びに⑤実演家としての本件楽曲の実演(本件実演)を送信可能化する送信可能化権(同法92条の2第1項)を有している。
イ 控訴人の行為について
前記の前提事実及び前記の認定事実によれば,控訴人は,原審被告タッズとの間の本件再委託契約に基づき,①原審被告タッズが本件原盤を複製して製作した本件CDをレンタル事業者に販売し,その結果,本件CDがレンタルに供されたこと及び②インターネット配信事業者を通じて本件楽曲を配信したことが認められる。
ウ 被控訴人の許諾について
被控訴人が,控訴人又は原審被告タッズに対し,本件CDのレンタル及びその前提となるレンタル事業者への販売並びに本件楽曲の配信について許諾したと認めることはできない。その理由は,原判決…記載のとおりであるから,これを引用する。
エ 控訴人の過失について
() 上記アからウによれば,控訴人が,被控訴人の許諾なく,原審被告タッズが本件原盤を複製して製作した本件CDをレンタル事業者に販売し,また,インターネット配信事業者を通じて本件楽曲を配信したことが認められる。
もっとも,控訴人は,前記イのとおり,原審被告タッズとの間の本件再委託契約に基づき,上記販売及び配信を行ったものである。そうすると,控訴人において,被控訴人の許諾がないことを知りながら,あえて上記販売及び配信を行ったとは,考え難い。
そこで,控訴人が上記販売及び配信に当たり被控訴人の許諾の有無を確認すべき注意義務を負うか否かについて検討する。
()
() 控訴人の注意義務について
前記()eのとおり,本件再委託契約に際して原審被告タッズが作成した本件企画書に,「著作権 未処理」,「原盤会社 株式会社ノアコーポレーション」と記載されていることに鑑みれば,控訴人は,本件再委託契約を締結した頃,原審被告タッズが本件原盤について著作権及び著作隣接権を有しないことを認識していたものと推認することができる。
控訴人による本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信は,いずれも著作権者又は著作隣接権者の許諾がない限り著作権又は著作隣接権を侵害する行為である。そして,前記()aのとおり,控訴人は,通信衛星又は地上回線を用いた映像コンテンツソフトの配給及び販売等を目的とする株式会社であり,東京証券取引所JASDAQ市場に上場する国内最大手の衛星一般放送事業者であるから,CDのレンタル事業者への販売及び楽曲の配信は,日常の営業活動の一環として,それぞれの著作権者又は著作隣接権者の許諾を得た上で,行っているものと考えられる。他方,原審被告タッズは,音楽コンテンツの音源の企画,制作及び販売等を目的とする株式会社であるが,資本金400万円の比較的小規模な会社である。そして,本件再委託契約が締結されたのは,平成19年11月の原審被告タッズ設立の約3年後であり,平成22年8月1日の控訴人との本件基本契約の締結から間もない同年11月頃であったことを併せ考えると,本件再委託契約締結当時,控訴人と原審被告タッズとの取引実績はまだそれほど蓄積されていなかったものと推認される。加えて,控訴人は,本件原盤に関し,本件企画書に原盤会社として明記されている被控訴人と原審被告タッズとの利用許諾関係を確認することができたものと考えられ,同確認をすれば,本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信について被控訴人の許諾がないことを明確に認識し,以後,上記販売及び配信をしないことによって,被控訴人が有する著作隣接権の侵害を回避することができたということができる。
以上によれば,控訴人は,本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信に当たり,被控訴人の許諾の有無を確認すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である。
() 控訴人の不法行為責任について
そして,本件において,証拠上,控訴人が本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信に当たって被控訴人の許諾の有無を確認した事実は,認められない。
したがって,控訴人は,上記条理上の注意義務に違反して,原審被告タッズが本件原盤を複製して製作した本件CDをレンタル事業者に販売し,また,インターネット配信事業者を通じて本件楽曲を配信したのであるから,被控訴人の許諾なく上記複製,販売及び配信を行ったことにつき,少なくとも過失が認められる。よって,控訴人は,原審被告タッズらと共に,上記複製及び販売により,被控訴人のレコード製作者としての本件原盤に係る複製権(著作権法96条),譲渡権(同法97条の2第1項)及び貸与権(同法97条の3第1項)を,また,上記配信により,被控訴人のレコード製作者としての本件原盤に係る送信可能化権(同法96条の2)及び実演家としての本件実演に係る送信可能化権(同法92条の2第1項)を,それぞれ侵害したものということができ,共同不法行為責任を負うものと認められる。
⑵ 控訴人の主張について
ア 控訴人は,本件再委託契約が根拠とする本件基本契約は,原審被告タッズによる表明保証に依拠することで成り立つものであること,②原審被告タッズらは,著作権及び著作隣接権の取扱いについて十分な知識及び経験を有し,業界の信用も得ていたことに鑑みれば,控訴人は,原審被告タッズが本件CD及び本件楽曲の利用許諾権限を有している旨の表明保証の違反を疑わせる特段の事情がない限り,原審被告タッズから委託を受けた業務に本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信が含まれていることを確認すれば,本件再委託契約の受託者として負うべき注意義務を尽くしたというべきであり,本件においては,同注意義務を果たしている旨主張する。
確かに,前記⑴エ()のとおり,本件基本契約書の第14条(保証)及び別紙7.(保証)には,原審被告タッズによる表明保証が規定されている。
しかし,本件基本契約書は,以後,原審被告タッズが控訴人に対して業務委託をする際の基本的取決めを記載したものにすぎず,委託の対象とする商品や音源等の名称などの具体的内容は記載されていない。また,上記保証に係る条項には,控訴人が本件基本契約の定めに従って委託された業務を行ったことに起因して第三者からの請求や訴訟提起を受け,それによって何らかの損害を被った場合には,原審被告タッズが一切を賠償する責任を負うなどと規定されているが,これは,第三者からの請求や訴訟提起により生じる損害につき,本件基本契約の当事者である原審被告タッズと控訴人との間において内部的な負担割合として控訴人の負担分をゼロとしたものであり,対第三者との関係で控訴人の責任を減免するものとはいえない。
加えて,前記⑴エ()のとおり,本件再委託契約締結当時,控訴人と原審被告タッズとの取引実績はまだそれほど蓄積されておらず,証拠上,原審被告タッズの代表者であった同A自身と控訴人との間で取引実績があったと認めることもできない。
以上によれば,本件において控訴人が負うべき注意義務につき,上記主張のように解することはできない。
イ 控訴人は,仮に控訴人が被控訴人に対する問合せや本件契約書の提示の要求をしても,被控訴人の著作隣接権を侵害するという結果を回避することはできなかった旨主張する。
しかし,前記⑴エ()のとおり,控訴人は,本件CD及び本件楽曲に関し,本件企画書に原盤会社として明記されている被控訴人と原審被告タッズとの利用許諾関係を確認することができ,同確認をすれば,本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信について被控訴人の許諾がないことを明確に認識し,以後,上記販売及び配信をしないことによって,被控訴人が有する著作隣接権の侵害を回避することができたということができる。
⑶ 小括
以上によれば,控訴人は,原審被告タッズらと共に,被控訴人のレコード製作者としての複製権,譲渡権,貸与権及び送信可能化権並びに実演家としての送信可能化権を侵害したものということができ,共同不法行為責任を負うものと認められる。
3 争点⑵(本件原盤等に対する所有権侵害の不法行為の成否)について
⑴ 被控訴人は,本件廃盤処置により,本件CDは,問題のあるいわくつきの音楽CDとして見られることになる上,以後,第三者に販売委託等をすることができず,廃盤とされたことによって本件原盤並びに本件CD及びポスター等の販促物が無価値となったとして,本件原盤の作成に要した費用703万2559円及び本件CD・ポスター等の制作費135万8615円の合計839万1174円の損害を被った旨主張する。
ア 本件原盤等の所有権について
() 前記の前提事実,前記の認定事実及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a 本件原盤の所有権は,本件契約第9条に基づき,被控訴人に帰属する。
b 原審被告タッズは,本件契約に基づいて本件CDを1000枚製作した上で,サンプル用の50枚及び被控訴人自らの販売用の600枚を合わせた650枚を被控訴人に提供し,サンプル用の50枚及び小売用の300枚を控訴人に提供した。
控訴人は,上記300枚のうち213枚を販売し,うち8枚をレンタル事業者に販売した。
本件廃盤処置後,レンタル事業者に販売された8枚は全て控訴人に返品され,また,小売店からも返品があった。控訴人は,これらの返品された本件CDを全て被控訴人に返却した。
c 被控訴人は,本件契約第3条1項に基づき,原審被告タッズに対し,ジャケットデザインの完全版下並びにポスター,チラシ及び広告原稿デザインの完全版下を供給した。
本件契約第3条2項には,原審被告タッズは,本件CDの製造販売業務終了後,被控訴人からの供給素材等を速やかに返却する旨規定されているところ,原審被告タッズは,原審において,これらの完全版下を保管しており,返還方法の指示があればいつでも被控訴人に返還する用意がある旨主張していた。
() 以上のとおり,被控訴人は,本件原盤,本件CD,ジャケットデザインの完全版下並びにポスター,チラシ及び広告原稿デザインの完全版下の所有権を有しているものと認められる。
イ 本件廃盤処置について
前記の前提事実及び前記の認定事実によれば,本件廃盤処置の経過は,以下のとおりである。
すなわち,当時の被控訴人代表者において,本件CDがレンタル事業者のウェブサイト上でレンタルに供されていることに気付き,上記事業者を訪問して,本件CDの原盤権者である被控訴人は,本件CDをレンタルに供することは承知しておらず,レンタルを延期してほしい旨を告げた。当時の被控訴人代表者によるこの訪問は,上記事業者において原盤権者からのクレームとして処理され,その結果,上記事業者の仕入元である大手レンタル卸代行業者が控訴人に抗議を申し入れる事態にまで発展した。控訴人は,本件再委託契約の相手方であり,本件CDの発売元である原審被告タッズの承諾を得たのみで,被控訴人には何ら事前に知らせることもなく,本件廃盤処置を行った。
これらの一連の経過によれば,本件廃盤処置は,前記2のとおり,控訴人及び原審被告タッズが,被控訴人の許諾を得ないまま,本件CDをレンタル事業者に販売したことに端を発するものである。しかも,控訴人は,前記抗議を受けた後,わずか1か月足らずで,被控訴人に大きな影響を及ぼす本件廃盤処置を,被控訴人に何ら事前に知らせることもなく,実行した。控訴人において,より穏当な事態収拾手段を十分に検討したことは,認めるに足りない。以上によれば,本件廃盤処置は,それ自体,問題があった措置というべきである。
ウ 本件原盤等の所有権侵害について
本件廃盤処置後も,被控訴人は,本件原盤を使用することができる。また,本件CDについても,被控訴人においてライブコンサートの場で手売りする,品番及びPOSコードを改めて新規の業者に販売を委託するなどして販売することは可能である。さらに,前記アのとおり,原審被告タッズは,本件契約第3条1項に基づいて被控訴人から供給を受けたジャケットデザインの完全版下並びにポスター,チラシ及び広告原稿デザインの完全版下を被控訴人に返却する意思を有し,これを表明していたのであるから,被控訴人においてこれらの完全版下の返却を受け,販促品を作成することも可能である。
以上によれば,本件廃盤処置によっても,被控訴人が本件原盤,本件CD,ジャケットデザインの完全版下並びにポスター,チラシ及び広告デザインの完全版下の所有権者としてこれらを使用,収益及び処分をする権利(民法206条)が損なわれているとは認められない。仮に,本件廃盤処置によって上記の本件原盤や本件CD等に対する視聴者等の評価が低下し得るとしても,それが上記権利を損ない,被控訴人が主張するような損害を発生させるほどのものとまで認めるに足りない。
したがって,本件廃盤処置により被控訴人の所有権が侵害されて被控訴人主張の損害が発生したことは,認めるに足りない。
⑵ 被控訴人の主張について
被控訴人は,本件廃盤処置後,原審被告タッズから返却を受けるべきジャケットデザイン等の完全版下が控訴人によって処分され,それによって,ジャケット増刷等ができなくなり,本件CDの再度のプレスは不可能であり,本件原盤等の価値が喪失している旨主張する。
しかし,前記⑴アのとおり,ジャケットデザイン等の完全版下は,現在,原審被告タッズによって保管されており,証拠上,控訴人が上記完全版下を処分したとは認められない。なお,上記完全版下が被控訴人に返却されるか否かは,本件廃盤処置による所有権侵害とは,直接関係がないことである。
4 争点⑶(損害額)について
(以下略)