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著作権判例セレクション

利用許諾契約当事者の注意義務(相手方の利用許諾権限の有無を確認する注意義務があるとした事例)

平成28216日東京地方裁判所[平成25()33167]▶平成28112日知的財産高等裁判所[平成28()10029]
イ 被告スペースについて
第三者が著作権や著作隣接権を有する著作物の利用について契約を締結する場合,当該契約の相手方が当該著作物の利用を許諾する権限を有していなければ,当該契約を締結しても当該著作物を利用することはできない。
したがって,当該契約の当事者としては,相手方の利用許諾権限の有無を確認する注意義務があるというべきであり,これを怠って当該著作物を利用した場合,当該第三者に対する不法行為責任を免れないと解される。
これを本件についてみるに,被告スペースは,本件再委託契約の締結時において,被告タッズがレコード製作者及び実演家の各著作隣接権を有しないことを認識していたと認められるところ,被告スペースらは,被告タッズの利用許諾権限に疑義等を抱かしめるような事情はなかったと主張するのみで,被告スペースにおいて,著作隣接権者に問い合わせ,又は本件契約書を確認するなどの方法によって,本件CD及び本件楽曲についての被告タッズの利用許諾権限を確認した等の主張はないし,証拠上もこうした事実を認めることはできない。
そうすると,被告スペースは,本件CDの無断レンタルや本件楽曲の無断配信について少なくとも過失があると認められるから,原告ノアに対し,被告タッズらとの共同不法行為が成立する。

[控訴審同旨]
() 控訴人の注意義務について
前記()eのとおり,本件再委託契約に際して原審被告タッズが作成した本件企画書に,「著作権 未処理」,「原盤会社 株式会社ノアコーポレーション」と記載されていることに鑑みれば,控訴人は,本件再委託契約を締結した頃,原審被告タッズが本件原盤について著作権及び著作隣接権を有しないことを認識していたものと推認することができる。
控訴人による本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信は,いずれも著作権者又は著作隣接権者の許諾がない限り著作権又は著作隣接権を侵害する行為である。そして,前記()aのとおり,控訴人は,通信衛星又は地上回線を用いた映像コンテンツソフトの配給及び販売等を目的とする株式会社であり,東京証券取引所JASDAQ市場に上場する国内最大手の衛星一般放送事業者であるから,CDのレンタル事業者への販売及び楽曲の配信は,日常の営業活動の一環として,それぞれの著作権者又は著作隣接権者の許諾を得た上で,行っているものと考えられる。他方,原審被告タッズは,音楽コンテンツの音源の企画,制作及び販売等を目的とする株式会社であるが,資本金400万円の比較的小規模な会社である。そして,本件再委託契約が締結されたのは,平成19年11月の原審被告タッズ設立の約3年後であり,平成22年8月1日の控訴人との本件基本契約の締結から間もない同年11月頃であったことを併せ考えると,本件再委託契約締結当時,控訴人と原審被告タッズとの取引実績はまだそれほど蓄積されていなかったものと推認される。加えて,控訴人は,本件原盤に関し,本件企画書に原盤会社として明記されている被控訴人と原審被告タッズとの利用許諾関係を確認することができたものと考えられ,同確認をすれば,本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信について被控訴人の許諾がないことを明確に認識し,以後,上記販売及び配信をしないことによって,被控訴人が有する著作隣接権の侵害を回避することができたということができる。
以上によれば,控訴人は,本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信に当たり,被控訴人の許諾の有無を確認すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である。
() 控訴人の不法行為責任について
そして,本件において,証拠上,控訴人が本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信に当たって被控訴人の許諾の有無を確認した事実は,認められない。
したがって,控訴人は,上記条理上の注意義務に違反して,原審被告タッズが本件原盤を複製して製作した本件CDをレンタル事業者に販売し,また,インターネット配信事業者を通じて本件楽曲を配信したのであるから,被控訴人の許諾なく上記複製,販売及び配信を行ったことにつき,少なくとも過失が認められる。よって,控訴人は,原審被告タッズらと共に,上記複製及び販売により,被控訴人のレコード製作者としての本件原盤に係る複製権(著作権法96条),譲渡権(同法97条の2第1項)及び貸与権(同法97条の3第1項)を,また,上記配信により,被控訴人のレコード製作者としての本件原盤に係る送信可能化権(同法96条の2)及び実演家としての本件実演に係る送信可能化権(同法92条の2第1項)を,それぞれ侵害したものということができ,共同不法行為責任を負うものと認められる。
⑵ 控訴人の主張について
ア 控訴人は,本件再委託契約が根拠とする本件基本契約は,原審被告タッズによる表明保証に依拠することで成り立つものであること,原審被告タッズらは,著作権及び著作隣接権の取扱いについて十分な知識及び経験を有し,業界の信用も得ていたことに鑑みれば,控訴人は,原審被告タッズが本件CD及び本件楽曲の利用許諾権限を有している旨の表明保証の違反を疑わせる特段の事情がない限り,原審被告タッズから委託を受けた業務に本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信が含まれていることを確認すれば,本件再委託契約の受託者として負うべき注意義務を尽くしたというべきであり,本件においては,同注意義務を果たしている旨主張する。
確かに,前記⑴エ()のとおり,本件基本契約書の第14条(保証)及び別紙7.(保証)には,原審被告タッズによる表明保証が規定されている。
しかし,本件基本契約書は,以後,原審被告タッズが控訴人に対して業務委託をする際の基本的取決めを記載したものにすぎず,委託の対象とする商品や音源等の名称などの具体的内容は記載されていない。また,上記保証に係る条項には,控訴人が本件基本契約の定めに従って委託された業務を行ったことに起因して第三者からの請求や訴訟提起を受け,それによって何らかの損害を被った場合には,原審被告タッズが一切を賠償する責任を負うなどと規定されているが,これは,第三者からの請求や訴訟提起により生じる損害につき,本件基本契約の当事者である原審被告タッズと控訴人との間において内部的な負担割合として控訴人の負担分をゼロとしたものであり,対第三者との関係で控訴人の責任を減免するものとはいえない。
加えて,前記⑴エ()のとおり,本件再委託契約締結当時,控訴人と原審被告タッズとの取引実績はまだそれほど蓄積されておらず,証拠上,原審被告タッズの代表者であった同A自身と控訴人との間で取引実績があったと認めることもできない。
以上によれば,本件において控訴人が負うべき注意義務につき,上記主張のように解することはできない。
イ 控訴人は,仮に控訴人が被控訴人に対する問合せや本件契約書の提示の要求をしても,被控訴人の著作隣接権を侵害するという結果を回避することはできなかった旨主張する。
しかし,前記⑴エ()のとおり,控訴人は,本件CD及び本件楽曲に関し,本件企画書に原盤会社として明記されている被控訴人と原審被告タッズとの利用許諾関係を確認することができ,同確認をすれば,本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信について被控訴人の許諾がないことを明確に認識し,以後,上記販売及び配信をしないことによって,被控訴人が有する著作隣接権の侵害を回避することができたということができる。
⑶ 小括
以上によれば,控訴人は,原審被告タッズらと共に,被控訴人のレコード製作者としての複製権,譲渡権,貸与権及び送信可能化権並びに実演家としての送信可能化権を侵害したものということができ,共同不法行為責任を負うものと認められる。