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  著作権判例セレクション
   放送事業者の著作隣接権侵害を認めた事例
  
  ▶平成23年09月05日東京地方裁判所[平成22(ワ)7213]
  (注) 本件は,日本国内において地上波テレビジョン放送等を行う放送事業者である原告が,「ジェーネットワークサービス」の名称で,海外居住者向けに,日本国内でテレビ放送された番組を有料でインターネット配信するサービス(「本件サービス」)を提供する事業を営んでいた被告に対し,被告の提供する本件サービスは,地上波テレビ番組の放送に関して原告が有する著作隣接権(送信可能化権,複製権等を侵害するものであると主張して,不法行為責任(民法709条,著作権法114条1項)に基づき,所定の賠償金等の支払を求めた事案である。
  (前提事実)
  〇 被告は,平成18年6月ころ,それまで個人的に使用していた,コンピュータに入力端子から送られてくるテレビ映像をデータ変換し,インターネット回線を経由して送信することにより,離れた場所にあるコンピュータでテレビ番組を視聴することができるシステムを応用して,海外居住者向けのテレビ番組配信サービスを行いたいと考え,コンピュータシステム構築等を業とする会社である株式会社スフィアの代表者であるB及び同社従業員であるCに対し,上記サービスを実現するための配信システム,入金システム,認証システム等の構築を依頼し,同人らは,上記依頼を受けて,上記配信システム等の開発・構築に着手した。被告と上記B,Cらは,互いにアイデアを出し合い,試行錯誤を重ねて,上記サービスを実現するためのシステムを構築した。これにより最終的に完成した配信システムの具体的内容は下記のとおりである:
  (ア) テレビ番組のストリーミング配信
  ケーブルテレビ等の配線から,原告を含む放送事業者らが放送したテレビ番組の映像(音及び影像)を受信し,チューナーを通してサーバ機に入力し,コンピュータが処理できるようデータ変換した上で,マイクロソフト社が提供する「Windows
Media サービス」との名称のアプリケーションを使用して,利用者に対し,テレビ映像データをストリーミング配信(利用者が,サーバ機からファイルをダウンロードすることなく,リアルタイムで画像及び音を視聴することができる動画配信形式)する(以下,本件サービスにおいて,上記のとおりストリーミング配信に使用されるサーバ機を指して「ストリーミング配信用サーバ機」という。)。
  
  (イ) テレビ番組の動画ファイル形式による記録及び配信
  ケーブルテレビ等の配線から,原告を含む放送事業者らが放送したテレビ番組の映像(音及び影像)を受信し,チューナーを通してサーバ機に入力し,動画ファイル形式へとデータ変換を行い,上記動画ファイルデータを記録媒体に記録し(以下,本件サービスにおいて上記の動画ファイル記録のために使用されるサーバ機を指して「録画用サーバ機」という。),録画用サーバ機に記録された動画ファイルデータをウェブサーバ用ソフトウェアがインストールされたサーバ機の記録媒体に複製又は移動させ,利用者からの求めに応じて,利用者が,上記動画ファイルデータをダウンロードすることを可能とする(以下,本件サービスにおいて上記の動画ファイルデータをダウンロード可能な状態に蔵置するため使用されたサーバ機を指して「動画ファイル配信用サーバ機」という。)。
  
  (ウ) 上記(ア)のストリーミング配信システムにより,利用者は,インターネット回線に接続したコンピュータを使用して,上記のとおりストリーミング配信される映像データにアクセスして,原告を含む放送事業者らが放送したテレビ番組を,その放送とほぼ同時に視聴することができ,また,上記(イ)の動画ファイル記録システム及び動画ファイル配信システムにより,過去に放送されたテレビ番組のうち,被告が録画用サーバ機に動画ファイルとして記録しているもの(なお,被告は,各テレビ番組の放送日から1か月間,当該テレビ番組の動画ファイルを録画用サーバ機に記録することとしていた。)について,インターネット回線に接続したコンピュータを使用してアクセスし,ダウンロードすることにより,過去分のテレビ番組を視聴することができる。
  
  
  1 争点(1)(被告による著作隣接権侵害の成否)について
  前記前提事実に照らし,被告による著作隣接権侵害の成否について検討する。
  (1)
送信可能化権侵害について
  ア 放送事業者は,その放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して,その放送を送信可能化する権利(送信可能化権,改正前著作権法99条の2)を専有するところ,「送信可能化」とは,①公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分〔公衆送信用記録媒体〕に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し,情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え,若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し,又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること又は②その公衆送信用記録媒体に情報が記録され,又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について,公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線,自動公衆送信装置の始動,送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には,当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うことのいずれかの行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう(著作権法2条1項9号の5)とされ,「自動公衆送信」とは,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うものをいう(同項9号の4)とされている。
  
  イ そこで,前記前提事実でみた本件サービスにおける配信システムの具体的内容をみると,本件サービスは,前記前提事実のストリーミング配信システムにおいて,テレビ放送に係る音及び影像を,ケーブルテレビ配線を介して受信した上,これをストリーミング配信用サーバ機にデータ化して入力するものであり,上記ストリーミング配信用サーバ機は,インターネット回線を利用して,本件サービスにアクセスしてきた利用者に対し,上記のとおりデータ化した音及び影像をストリーミング配信するものであるから,上記ストリーミング配信は自動公衆送信であり,上記ストリーミング配信用サーバ機は,自動公衆送信装置に該当し,本件サービスは,上記のとおり自動公衆送信装置に該当するストリーミング配信用サーバ機にテレビ放送に係る音及び影像を入力することで,利用者からの求めに応じテレビ放送に係る音及び影像を自動的に送信できる状態を作り出しているのであるから,テレビ放送に係る音又は影像を送信可能化するものということができる。
  
  また,本件サービスは,前記前提事実の動画ファイル形式による記録及び配信システムにおいて,テレビ放送に係る音及び影像を,ケーブルテレビ配線を介して受信し,録画用サーバ機に動画ファイル形式により記録した上,上記動画ファイルデータを動画ファイル配信用サーバ機の記録媒体に複製又は移動させ,上記動画ファイルデータを,インターネット公開フォルダに指定されたフォルダに記録・蔵置することにより,インターネット回線を利用して当該動画ファイルにアクセスしてきた利用者に,当該動画ファイルをダウンロードすることを可能とするものであるから,上記動画ファイル形式による記録及び配信は自動公衆送信であり,上記動画ファイル配信用サーバ機は自動公衆送信装置に該当し,本件サービスは,上記のとおり自動公衆送信装置に該当する動画ファイル配信用サーバ機のインターネット公開フォルダに動画ファイルデータを記録させることで,利用者の求めに応じテレビ放送に係る音及び影像を自動的に送信できる状態を作り出しているのであるから,テレビ放送に係る音又は影像を送信可能化するものということができる(以上につき,最高裁平成23年1月18日第三小法廷判決参照)。
  
  ウ 前記前提事実でみたとおり,本件サービスにおいて視聴可能なテレビ番組中に原告の地上波テレビ放送に係る放送番組が含まれていることからすれば,本件サービスが,原告が放送事業者としてその放送について有する送信可能化権を侵害するものであることは明らかである。
  
  (2)
複製権侵害について
  
   ア 放送事業者は,その放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して,その放送に係る音又は影像を録音し,録画し,又は写真その他これに類似する方法により複製する権利(複製権,著作権法98条)を専有する。
  
  イ 前記前提事実でみた本件サービスにおける配信システムの具体的内容によれば,本件サービスのうち,前記前提事実のテレビ番組の動画ファイル形式による記録及び配信システムにおいては,テレビ放送を,ケーブルテレビ配線を介して受信した上,記録用サーバ機に記録するものであるから,テレビ放送に係る音及び影像を録音,録画するものであり,これを複製するものということができる(最高裁平成23年1月20日第一小法廷判決参照)。
  
  ウ 本件サービスにおいて視聴可能なテレビ番組中に原告の地上波テレビ放送に係る放送番組が含まれていることは前記のとおりであるから,本件サービスのうち,動画ファイル形式により記録及び配信するものは,原告が放送事業者としてその放送について有する複製権を侵害するものである。
  
  (3)
この点に関し,被告は,本件サービスでは,利用者に個々の仮想PCが割り当てられ,各利用者による機器の操作が可能であって,各利用者が録画予約した番組のみをダウンロードできる仕様としていたのであり,各利用者による機器の操作が不可欠であったと主張し,各サーバ機の自動公衆送信装置該当性を否認するが,前記前提事実でみた本件サービスの内容及び利用者数等に照らすと,何人も本件サービス利用契約を締結することにより同サービスを利用することができるのであるから,本件サービスの利用者は不特定かつ多数の者に当たり,「公衆」(同法2条5項)に該当するものと認められるのであって,本件サービスにおけるストリーミング配信用サーバ機及び動画ファイル配信用サーバ機は自動公衆送信装置に該当する。被告の主張は採用することができない。
  (4)
送信可能化権侵害及び複製権侵害の主体について
  
  前記前提事実によれば,本件サービスは,ジェーネット合資会社及びジェーネット社により管理運営され,その利用料金は,上記2社名義の銀行口座に入金されていたものであることが認められるが,上記2社は,いずれも,被告が,本件サービスの管理運営のために設立した会社であって,実質的には被告一人で経営していたものであると認められる上,前記前提事実のとおり,上記2社の銀行口座に入金された利用料金は,ほぼ全額が出金され,被告個人名義口座に入金されていたものであって,本件サービスによる利益は被告個人に帰属していたものであり,後記2のとおり,被告は本件サービスの違法性を認識しながら,本件サービスに係るシステムを構築していたと認められるのであるから,本件サービスに係る送信可能化権侵害及び複製権侵害行為は,被告個人も独立の侵害行為の主体として関与したものであると認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
  
  (5)
小括
  
  したがって,被告は,原告の送信可能化権(改正前著作権法99条の2),複製権(著作権法98条)を侵害したものと認められる。
  
  原告は,放送した番組の著作権に基づく複製権侵害(同法21条),公衆送信権侵害(同法23条1項)の主張をするが,具体的に放送番組を特定してその著作物性を主張するものではないので,その主張を採用することはできない。
  
  2 争点(2)(被告の故意過失の有無)について
  
  (1)
前記前提事実でみた本件サービスにおけるテレビ番組配信システムの具体的内容並びに前記前提事実のとおり上記配信システムの発案及び構築に当たり被告が主体的に関与したと認められることに加え,被告が,本件サービスの開始に当たり,配信元のIPアドレスを隠匿する手段を模索していたこと,被告が,本件サービスを開始するに当たり,タイにジェーネット合資会社を設立し,同社の日本支社の本店所在地をバーチャルオフィスにするなどしていることも考慮すれば,被告は,本件サービスの開始当初から,本件サービスの違法性について認識していたものと認めるのが相当であり,本件サービスが原告を含む放送事業者の著作隣接権を侵害するものであることにつき,被告には,故意があったものと認められる。
  
  (2)
なお,被告は,東京地決平成18年8月4日(まねきTV仮処分決定)などを挙げて,被告が本件サービスを適法であると考えていた旨主張するが,本件サービスの配信システムは,上記事件におけるシステムと全く異なるものであることに加え,被告の上記(1)の行動も考慮すると,被告の主張を採用することはできない。
  
  3 争点(3)(原告の損害額)について
  
   (1) 争点(1)及び(2)に関する判断でみたとおり,被告は,本件サービスの主体として,原告の放送に係る送信可能化権及び複製権を故意に侵害したものであるから,被告は,民法709条により,原告に対し,原告が上記侵害行為によって受けた損害について賠償すべき義務があるところ,原告は,上記損害額について,著作権法114条2項に基づき算定される額をもって原告の損害額と推定すべきと主張する。
  
  なお,著作権法114条2項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上,著作権者等が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があるという前提に基づき,侵害者が侵害行為により得た利益の額をもって著作権者等の逸失利益と推定する規定であると解されるから,同項の適用が認められるためには,著作権者等が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性があることが必要であるが,本件において,原告は,その放送番組の放送権を海外の放送事業者に販売するなどしており,かつ,海外に向けて積極的に日本の情報を発信し,在外邦人に対する情報提供のための取り組みを進めているところであって,平成21年12月からは,「NHKオンデマンド」の名称で,放送番組のインターネット配信を開始していることも認められるのであるから,本件サービスが提供されていた当時においても,原告に,本件サービスと同様に,日本国外の居住者に対し,その放送番組をインターネット配信するという方法により,利益を得られる蓋然性が存在したということができ,同項の適用の前提に欠けるところはないというべきである。
  
  (2)
著作権法114条2項による損害額について
  
  (以下略)