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著作権判例セレクション

販売用の一般住宅の写真同士の侵害性を否定した事例

平成261017日東京地方裁判所[平成25()22468]
4 争点(2)イ(原告各写真につき被告による著作権侵害の成否)について
(1) 原告は,被告各写真は,原告が著作権を有する原告各写真を被告が翻案したものであり,かかる被告各写真を被告のホームページに掲載することで自動公衆送信を行い,被告各写真を掲載したパンフレットを配布することで譲渡を行っており,原告の原告各写真の公衆送信権及び譲渡権を侵害すると主張するので,以下検討する。
(2) この点,著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決),この理は本件のような写真の著作物についても基本的に当てはまるものと解される。そして,本件においては,原告各写真は,その被写体が原告建物であり,被告各写真は,その被写体が被告建物であり,互いに被写体を異にすることが明らかであり,また,原告表現建物に「建築の著作物」としての創作性が認められないことは前記3のとおりであるから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできないのであり,被告各写真が原告各写真に依拠することを前提に,撮影時期,撮影角度,色合い,両角等の表現手法において,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものと認められるかについて検討するのが相当である。
(3) まず,原告斜め写真についてみると,その構図は,被写体を玄関面左斜め下から玄関面と左側面側の全体が見えるようにしたものであり,その撮影時期は,昼間の時間であることが認められる。これに対して被告斜め写真についてみると,その構図は,原告斜め写真と同様,被写体を玄関面左斜め下から玄関面と左側面側の全体が見えるようにしてはいるが,より目線を下げてウッドデッキの形状が看取できないものとなっており,その撮影時期は,夜間の時間であることが認められる。さらに,両写真を対比すると,光量の調整や,陰影の付け方にも差異が認められる。
そうすると,被告斜め写真は,構図において原告斜め写真と近似するとしても,そもそも撮影対象自体が異なり,その撮影時期や光量の調整,陰影の付け方において原告斜め写真と違いがあるから,被告斜め写真が原告斜め写真に依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。したがって,被告斜め写真が原告斜め写真の翻案に当たるとは認められない。
(4) 次に,原告正面写真についてみると,その構図は,玄関面を真正面から,玄関面全体が大きく見えるようにしたものであり,その撮影時期は,昼間の時間であり,さらに,建物の周囲に生い茂る木々の陰影が建物に投影されて,建物の陰影によるコントラストが看取できるものとなっていることが認められる。これに対して被告正面写真は,原告正面写真と同様に,玄関面を真正面から,玄関面全体が大きく見えるようにし,その撮影時期は,昼間であるが,建物に陰影が投影されておらず,建物の陰影が特に見受けられないし,住宅街を背景にしたものとなっていることが認められる。
そうすると,被告正面写真は,構図や撮影時期において原告正面写真と近似するとしても,そもそも撮影対象自体が異なり,その陰影の付け方や背景においても違いがあるから,被告正面写真が原告正面写真に依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。したがって,被告正面写真が原告正面写真の翻案に当たるとは認められない。
(5) 以上のとおりであるから,原告各写真の著作権侵害を理由とする原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。