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  著作権判例セレクション
   「ワインのラベル」の写真記事の侵害性が争点となった事例
  
  
  ▶令和4年6月7日東京地方裁判所[令和3(ワ)10569]
  
  (注) 原告は、平成30年2月12日、「原告写真」を撮影し、写真投稿サイトである「flickr」において、「All rightsreserved」との表示を付し著作権を留保する旨を表示した上で公開した。原告写真は、「トロケにて1982年シャトー・ムートン・ロスチャイルド(1982Chateau Mouton Rothschild at Troquet)」と題する写真であり、「Chateau Mouton Rothschild」という文字や絵画等がラベルに記載された赤ワインのボトルと、赤ワインの入ったワイングラスなどが写っている。
  
  被告は、アートに関する各種記事を掲載する「(省略)」という名称のウェブサイト(https://(省略)。「本件ウェブサイト」)を運営するが、原告の許諾を得ずに原告写真を複製し、その複製物である写真(480×640ピクセル。「被告写真」)のデータを、平成30年5月18日、本件ウェブサイト内のURL1に蔵置し、電気通信回線に接続している送信用記録媒体に情報を記録し(「本件記録」)、少なくとも本件URL1にアクセスすれば被告写真1が表示されるようにし、また、本件ウェブサイト内のウェブページ(「本件ウェブページ」)に本件URL1へのリンクを設定して被告写真が表示されるようにした。本件ウェブページには、「美術館に行くまでもなし!天才たちの作品を堪能できる「ワインのラベル」」と題するワインのラベルに関する前同日付けの記事が掲載されており、そこには被告写真を含む複数のワインのラベルが写った写真が用いられていた。被告は、本件URL1にアクセスした場合に表示される被告写真についても、本件ウェブページにおいても、原告の氏名が著作権者として表示される措置をとらなかった。
  
  
  1 争点1(原告写真の著作物性)について
  
  原告写真は、レストランのテーブル上に、ラベルが付されたワインボトルと赤ワインの入ったワイングラスが並んでいる状況を撮影した写真である。原告写真は、レンズ・カメラの選択、アングル、シャッターチャンス、シャッタースピード・絞りの選択、構図等によって原告の思想・感情を創作的に表現したものであるといえ、写真の著作物に当たる。
  
  2 争点2(本件記録が送信可能化に当たるといえるか)について
  
  被告によって本件記録が行われたことによって、平成30年5月18日から、少なくとも令和2年12月7日までの間、インターネットの不特定の利用者は本件URL1を用いて被告写真のデータを受信してこれを閲覧することができる状態にあったのであり、本件記録によって、被告写真について、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録して自動公衆送信し得るようになったといえ、送信可能化がされたといえる。
  
  被告は、平成30年4月15日に、本件ウェブサイトについてインターネット上の検索エンジンによる検索結果に表示されないようにする措置である noindex設定を行ったと主張する。しかし、被告写真は、同年5月18日付けの本件ウェブページの記事に用いられて、同日、本件記録がされたところ、原告は、本件ウェブページにおける被告写真の掲載等について、アメリカ合衆国のピクシー社による写真監視調査によって発見した。ピクシー社と被告との間に特別な関係があることを認めるに足りず、このことからすると、平成30年4月15日より後である同年5月18日の本件記録後、被告写真について、インターネットの不特定の利用者が閲覧できたと認められる。被告は、被告主張の日時に noindex 設定をしたとして証拠を提出するが、被告写真の掲載等の発見に至る上記の経緯に照らしても、同証拠は、被告写真をインターネットの不特定の利用者が閲覧できる状態にあったとの上記認定を左右するものではない。
  
  3 争点3(原告が原告写真の複製、公衆送信に同意していたか)について
  
  原告が被告に対して原告写真の複製及び公衆送信を許諾していたことを認めるに足りる証拠はない。被告は、原告が自ら原告写真を掲載した flickr では、掲載写真を通常機能にブログやサイトなどに埋め込むことが可能な仕様になっていることなどを主張するが、原告は同サイトに原告写真を掲載するに当たって権利を留保することを意味する「All rights reserved」の文言を付していることも考慮すると、原告が
flickr に掲載したことをもって、原告が被告による複製及び公衆送信を許諾していたと認めることはできない。
  
  4 争点4(差止めの必要性)について
  
  被告は本件訴訟の提起を知った後、速やかに被告写真のデータを削除しており、また、被告写真は、本件ウェブページの記事の内容に関係するものではあるが、同写真が必須というものでもない。これらの事情に鑑みれば、被告の応訴態様を考慮しても、被告に対して原告写真の複製及び公衆送信の差止めを認める必要性があるとはいえない。
  
  5 争点5(損害)について
  
  被告は、原告写真を複製の上、480×640ピクセルの大きさで、少なくとも平成30年5月18日から令和2年12月7日まで本件URL1を用いて公衆送信した。
  
  本件ウェブページは、アートに関する各種記事を掲載するウェブサイトにおいてワインのラベルに関する記事を掲載するものであり、被告写真は、その記事において用いられたワインのラベルが写っている複数の写真の中の1枚である。
  
  原告は、fotoQuote という名称のソフトウェアで算定されるライセンス料を参考に、少なくとも7回、それぞれ本件と異なる写真について552米ドルから795米ドルの間でライセンス契約を締結した実績がある事が認められる。同ライセンス契約における写真の利用態様や、契約締結の経緯、ライセンス料の決定過程は明らかではない。
  
  以上の被告写真の使用の態様、期間、原告のライセンス契約の実績等を総合的に考慮すると、被告による複製権、公衆送信権侵害に係るライセンス料相当損害金は、6万円とするのが相当である。
  
  また、被告は、上記の態様で被告写真を公衆に提示するに当たり、原告の氏名が表示されるような措置を講じておらず、原告の氏名表示権を侵害した。上記に述べた本件の諸事情に照らせば、氏名表示権侵害についての慰謝料は3万円が相当である。
  
  上記の損害額等を考慮すると、本件に係る弁護士費用相当損害金は1万円が相当である。
  
  第4 結論
  
  原告の損害賠償請求には、10万円及び被告写真を氏名表示せずに公衆送信した日である平成30年5月18日から年5分の割合による遅延損害金を請求する限度で理由がある